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Experience Point  作者: にぃ
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第百三話 またあの屋上で経験値稼ぎしましょうね

メリークリスマス。

おそらくこれが今年最後の更新です。

……できればもう一話分くらい更新したいけど、無理だろうなぁ。

    【main view 星野月羽 】



 今日が最後のチャンス。

 青士さんの処分を決める職員会議は明日だというのに、私は全く力になれていない。

 なのに私は今日も一郎君の家に行く。

 その行動が正しいのか正しくないのか、今の私にはそれすら分からない。

 例えその行動が正しくないとしても……結局私は高橋家へ赴くのでしょう。


「それでも絶対になんとかするんですからっ」


 小さく呟く。

 得意ではないですが、職員会議では一生懸命発言して、先生方を説得するつもりです。

 今の私には610の経験値があります。できないわけが……ありません!

 でも今日だけは違うところに全力を尽くします。

 一郎君に今度こそ復活をしてもらうんです。


 でも今の一郎君は難攻不落。

 復活を願う前に私の言葉すら届いていない気がします。

 どうにかして言葉を伝える方法はないでしょうか。

 何か……方法は……


「……あっ」


 ふと、思いつく。

 子供のような思いつきだった。

 だけど、試してみる価値はあると思った。


「よしっ」


 クルッと半回転し、そのまま来た道を駆け足で戻る。

 ごめんなさい一郎君。今日はちょっとだけお家へ着くのが遅れそうです。







    【main view 青士有希子】



「自宅最高」


 このセリフを自分が吐くことになろうとは。

 実際は単純に一週間ガッコーをサボっているだけなんだけどな。

 一流の自宅戦士になるには最低一年はこの生活をくりかえさねーとな。


 ……が、自宅生活を満喫できねー理由が一つあった。

 目の前にあった。


「もー、何をダメ人間みたいなことを言っているのさー」


「…………」


 なぜここに居る。

 小野口希。

 お前はどうしてアタシの部屋で一緒にゲームをしているんだ?

 

『2P ウィン!』


「わーい。また勝ったー!」


「…………」


「青士さん、格闘ゲーム得意じゃないでしょー? 対人戦慣れしていないのバレバレだよ」


「……最近の優等生はゲームの心得もあるんだな」


「えっ? 私、このゲーム初見だけど」


「初見でお前は超必殺技を連発してやがったのかよ!?」


「超必コマンドなんてどのゲームの似たようなものでしょー」


 小野口希――

 こいつはいきなりウチに上がり込むと何故か突然ゲーム機を起動し始め、アタシにコントローラーを握らせ、対戦がスタートした。

 今の所、六戦六敗。

 しかもこいつは全試合別キャラで挑んでいた。

 天才ゲーマーでもこんな芸当難しいと思う。

 やっぱ色々チートだわ、コイツ。


「つーか、さっさと本題に入れよ。ゲームしに来たわけじゃねーんだろ?」


「本題? んーと……そだそだ、学校来なさい」


「やだね」


「私が先に六勝したんだから言うこと聞くのがルールでしょ?」


「初めて聞いたんだがそんなルール……」


「せめて明日くらいは来なさい。明日職員会議があるの、先生から聞いてるでしょ?」


「ん、あー、聞いてる聞いてる。いかね」


「行くの!」


「えー、めんどくさ。どーせ退学だし。前科あるし。行くだけ無駄っしょ」


「無駄じゃない! なんとかなるの! なんとかするのー!」


「いやいや、出来る訳ねーって。アタシ加害者だし。もういいよ。退学で」


「駄目! いいから来なさい! 貴方も職員会議に出席するの!」


 今日はやけに強気に押してくるな。

 明日が会議だからか。


「別にアタシのことなんて放っておけばいいだろー。退学になったってテキトーに働くから。喫茶魔王の厨房がベストだけど、問題起こしちまったからもう無理かなー。まっ、アタシに抜かりはねー。この求人誌の山を見ろ!」


 週に一回発行される無料求人誌の数々。

 その山を小野口に見せびらかす。

 それもめぼしい所には付箋を貼ってある徹底ぶり。

 アタシの就職も近いな。


「おりゃああああああああああああああ!」


    ビリビリビリビリビリビリッ!


 目の前でボロボロに破かれる冊子達。


「うわぁぁぁ! アタシの就職先の数々がっ! 何しやがるてめー!」


「学生の本分は勉強!」


「自慢じゃねーが、教科書ノート参考書の類は全部ガッコーに置いてあるのさ」


「駄目学生の見本みたいなことやってる!?」


「べんきょーの思い出は退学と共に学校へ置いてきたのさ。ふっ」


「格好悪いことを格好つけて言ってる!!」


「そんなわけだからもう帰ってくんね? 本人が退学でいーって言ってるんだからそれでいーじゃん」


 ここ数日こいつは毎日のようにウチに来ては説得を繰り返していた。

 説得の合間にゲームしたり漫画読んだり小説ラノベ読んだりしていたけど、今日まで通い続けていた。

 だけど今日の説得は妙に必死だ。相変わらずゲームやりながらではあるが、若干の焦りが見えていた。


「駄目なの! 青士さんは学校へ来るの!」


「やだね!」


「来なかったら泣くよ!? 希ちゃんこの場で泣いちゃうよ!?」


「知るかよ! 勝手に泣けよ!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」


「ほんとに泣いたし!」


 嘘泣きかとも思ったけど、ガチ泣きだコイツ。

 もう本当に何なんだよコレ。

 才色兼備で普段大人っぽい小野口がたまに子供のように振る舞う時がある。

 これまではクラスの隅でこっそりとバレないようにチート炸裂させていただけの目立たねー女子だったのに、今はもうチートを隠すこともしねー。

 今のオープンな状態こそ本当の小野口だとは思うけど、感情も表に出すようになってから喜怒哀楽が激しすぎる面が見えてきた。

 これが結構ウザかったりする。


「私……ぐす……何も出来てないんだもん。皆頑張ってるのに……私も青士さん復学させようと頑張ってるのに……私だけが役立たずなんだもん……ぐすぐす……」


 コイツは何を言っているんだろうか。

 『皆頑張ってる?』

 高橋や星野や池も何か動いているということだろうか。


「なんかアタシのしらねー事情抱えてそーだな」


「ぐす……言ってなかったっけ……」


 泣きべそ掻きながら小野口は今までの経緯を細々に伝えてきた。







 事実を知ったアタシは案外おおごとになっていたことに驚いた。


「高橋までも登校拒否ねぇ……ふぅん」


「ふぅん……って……もっと反応あるんじゃないの? あの高橋君まで登校拒否しているんだよ? おおごとすぎるよ!」


「……まー、今の話には色々驚きはしたが……高橋が拗ねて投稿拒否してんのはそれほど驚くことでもねーだろ」


「ど、どうしてさ! あんなに強い人がこんな状態になっちゃって……」


「強い……ねぇ」


 まぁ、間違っちゃいねぇ。

 確かにここぞという時に行動を起こせる高橋はグループの中では一番強いかもしれねぇ。

 いや、実際そう言った強さを持っている奴なんだ。

 それはアタシとの対立の時に嫌と言う程見せてもらった。

 だけどアイツとつるんでから一つ気付いたことがある。


「アイツは不安定なんだよ。本来怯えるべき相手にも立ち向かっていける奴だ。だけどその裏には必ず『怯え』が混じっている。怯えているのに立ち向かっていくやつだ」


「それが凄い所なんじゃん」


「そうか? 別に怯えることが悪いって言っているんじゃねぇ。怯えるけど『立ち向かってしまう』所が危ねえんだ。心が落ち着かないまま落ち着いた振る舞いをする。アタシにはそれが奇妙で仕方なかった」


 それがアイツの持つ不安定さ。


「不安定な心が網羅されていないうちは良かったが、ふとした弾みで……そうだな今回のように過去の噂がバレた、という事実がアイツ本来の『弱さ』を呼び起こしちまったんじゃね?」


「……あっ」


 小野口が合点の言ったという顔をする。


「だから……高橋くんは閉じ籠っちゃったんだ」


「まっ、アタシみてーな馬鹿の考察だから合ってるかなんてわかんねーけどな」


 大体高橋がどんな状況にあろうがアタシには関係ないことだし。

 まぁ、多少~は気になったりはするけどな。


「……やっぱりすごいよ青士さん。アタシや池君も気付けなかったことをこんな一瞬で悟るなんてすごい。青士さんは凄いよ」


 優等生に褒められて嬉しい場面かもしれねーが、コイツに褒められると気味が悪くて胸が痒くなる。

 あんまり持ち上げないで欲しい。


「もーいいから帰れよ。高橋なら自分で勝手に復活すっから」


「……青士さんは?」


「アタシは学生編をここで終焉して人生の第二部へ――」


「青士さんも復活してくれなきゃヤダ!!」


「ヤダってお前なー……」


「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダっ!!」


 うぜぇ。

 過去最強にうぜえ小野口希がアタシの目の前で爆誕した。

 もはや優等生の印象もなく、めんどくせーだけのガキと化していた。


「~~っ! あーもー! どうせ復学したところで明日には退学決定になるんだから、どうしようもねーだろうが!」


「そんなことない! 私達が絶対に青士さんを退学なんてさせないんだからっ!」


「じゃーこうしよう。明日の職員会議で退学を取り消せたら復学してやってもいい」


 精一杯の譲歩だった。


「駄目!」


 しかし、それを拒否したのは何故か小野口の方だった。


「青士さんも頑張るの! 自分の退学を取り消せるように青士さん自身もがんばるの!」


「はぁ!? どうしてアタシがんなクソ面倒くさいことしなきゃいけねーんだよ!」


「皆で乗り切りたいからに決まっているでしょ!」


「はんっ! そういう話ならお断りだね。自分の処分を決める職員会議に出席しろってことだろ? 死んでも嫌だわ」


「ゲームで七連敗したんだから言うこと聞く!!」


「いつの間にかもう一回負けてやがる!?」


 こいつ……泣きながらゲームスタートして、サラッと勝利していやがった。

 どこまでもぬけりねー奴!


「ちっ、今のはノーカンだ! 次! 次の勝負で決めるぞ!」


「いいよ! 私が勝ったら復学して明日の職員会議に出席ね」


「ああ。アタシが勝ったらおめーはもう部屋に来るなよ」


 ゲームを再スタートする。

 ふっ、七連勝しているから次も自分が勝つと思ってやがるな。

 だが残念。このゲームには裏ワザがある。

 キャラクターを選ぶ際、決められたコマンドを入力すると……


『ニューキャラクター! オンステージ!』


「うわっ! 化け物みたいなキャラクターが出てきたよ!?」


「裏ボス出現コマンドだ」


「ずるい!」


「ずるくねー。勝つために必要な手段だ」


 このキャラクターはそれこそチート臭い能力を持っている。

 攻撃力は通常キャラの二倍あるし、ガードすればノーダメージで耐え凌げる。更に投げ無効ときたもんだ。

 つまり、一発攻撃を当てて、後はガードに徹するだけで時間制限勝利を収められる。

 卑怯臭いが勝つためだ。悪く思うな。


『レディー! ファイ!』


 対戦がスタートした。


「…………」


「…………」


 無言でゲームに集中するアタシら。


『2P ウィン パーフェクト』


 やがて勝者が告げられた。


「……ありえなくね?」


 衝撃的な展開を前に、アタシは手に持つ1Pコントローラーをポロリと落としていた。







    【main view 星野月羽】



 夕方……いえ、もう夜ですね。

 現時刻19:35。

 いつもなら18時前には高橋家に到着するのですが、今日だけは訳あって到着が遅れてしまいました。

 今日の目標はいつもと同じ。

 一郎君の部屋に入れてもらいたい。会って話がしたい。

 一郎君もすでに事情は知っているはず。優しい一郎君なら青士さんの為に動いてくれるかもしれない。

 でもできればそんな一郎君の優しさに付け込むことはしたくない。

 したくない……から『これ』は最終手段として取っておくことにした。


「お邪魔します」


「いらっしゃい星野さん。今日は遅かったわね。ついに一郎が見限られたのかと思ったわ」


「いえ、それは絶対にありえませんので」


「あ~ら! 熱いわね! でもありがとうね」


 感謝されるのは嬉しいけれど、まるで成果が出せていない自分が愚かしくて恐縮してしまう。


「今日も一郎君の部屋の前まで行かせて頂きますね」


「ええ。勿論良いわよ。もう断りもなしに上がっちゃっても構わないから」


「ありがとうございます」


 今日は臆さずに進む。

 気持ちで萎縮していたらまたいつものように何もできないままだと思うから。


「一郎君。来ましたよ」


「――つ、月羽!?」


 今日は初っ端から言葉を返してくれる。

 確かに復活の兆しは手ごたえとしてありました。

 このままゆっくりと復活をしてくれるまで待つのが一郎君にとって一番良いのでしょう。

 でもそれでは駄目だ。

 駄目なんです。


「一郎君。今日中に復活してもらいますよ」


「いきなり確信的なお願いしてきた!?」


「青士さんの処分を決める職員会議は明日なんです! 一緒に青士さんを助けましょう」


「青士さんを……助ける……助ける……助けたいけど……」


 歯切れの悪い答え。

 分かっています。一郎君も戦っているのですよね。

 でもそれを乗り越えることが出来る人だってことも分かっています。


「まだ……部屋から出てこれませんか?」


「…………」


 黙ってしまった。

 これは私の質問が悪かったせい。

 一郎君が欲しい言葉はこんな質問じゃないのに。

 一郎君にかけるべき言葉が見つからない。

 どの言葉をかけるのかがベストなのか分からない。


「一郎君。好きです」


「……!!?? い、いきなり何!?」


「いえ、どんな言葉を掛けるべきなのか分からなかったので、私が掛けたい言葉をつい自然に放ってしまったのですが……」


「し、自然にって……」


 普通なら恥ずかしくて赤面しそうな言葉かもしれませんが、表情揺れることなくこの言葉を言い放つことができた。


「一郎君、私が貴方を好きじゃなくなることなんてありえません。何も……怯えることなんてないのですよ?」


 一郎君が部屋から出て来れない原因は、私や皆が過去の噂を信じてしまい、彼を見損なってしまうこと。

 それを必要以上に恐れている。


「学校を休むことが長引いてしまうと……どんどん行きづらくなるんですよ?」


 中間テスト後の私がそうだったから。

 でも私の時は一週間で復学出来た。

 一郎君が助けてくれたから。


「…………」


 でも一郎君は助けを求めていないのかもしれない。

 私なんかとは違って、一人で立ち直れる人だから。

 今、こうして毎日お家に通っていることすらも余計なお世話なのかも――


「月羽。ありがとう」


「えっ?」


「その……一番言って欲しかった言葉を自然といってくれたから……だから……心が軽くなった気がする。ありがとう」


「一郎……くん」


 そうだった。

 この人は私と似ているんだ。

 似過ぎているほどそっくりだから、私はこの人と経験値稼ぎしたかったんだ。

 助けを求めていないわけがない。

 だって、あの頃の私だって心のどこかで助けを求めていたのですから。


「月羽。先に言っておく……けど、僕はみんなが思っているほど強くないんだ」


「そんなこと……」


「だから期待しないで僕の言葉を聞いて欲しい」


「えっ?」


「明日……学校に行ってみようと……思う……明日になったらヘタれて部屋から出れない可能性が高いけど、でも頑張ってみようと思う」


「一郎君っ!」


 やったっ!

 一郎君から前向きな言葉がやっと聞けました。

 でも、まだ多少言葉に頼りなかった。

 これでは明日の職員会議に一郎君が出席できるかどうかわからない。確実性を求めるならばもう少し説得をするべき。

 だけどこれ以上私が催促するのは違う気がした。

 だから――


「一郎君。学校で……待ってます。またあの屋上で一緒に経験値稼ぎしましょうね」


「…………」


 だから今日はこれで帰ります。

 別れの挨拶を済まし、ドアの前で一礼してから階段を下りる。


「あら、月羽ちゃん。もう帰るの?」


 いつの間にか名字呼びから名前呼びに変わっていました。


「はい……その……実は今日はお母様にもお願いがあるんです」


 使うか使わないか最後まで迷った『最後の切り札』。

 でも一郎君が自分で前へ踏み出した今ならこれが後押しになるかもしれません。


 何はともあれ、決戦は明日。

 皆も頑張っている。

 私も全力を尽くさなくては!


見てくれてありがとうございます。

久々の青士さん視点でしたが、やっぱりこの視点は一番執筆が捗ります。

キャラに愛着が沸いてきた証拠でしょうかね

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