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Experience Point  作者: にぃ
103/134

第九十九話 どうしてこんな所で捻くれるんですか

今月の更新がまだ二回目……だと……

速度が落ちてきているのは自覚しとるとです

    【main view 星野月羽】



  ――――――――――

   From 小野口希

   2012/09/05 20:59

  Sub 定時☆報告

  ――――――――――


 青士さんの家に行ってみたよー。

 本人と会うことも出来た!

 ていうか、あの人のん気にネットゲーム

 やっていたんだよ! 信じられる!?

 私の心配を返せ―っていってやったよ、もう


  -----END-----


  ―――――――――――



 小野口さんからのメール。

 内容を見る限り、青士さん本人は元気そうです。

 でも意外です。青士さんもゲームとかやるんですね。

 って、実は私も今からネットゲームと言えなくもない世界へいこうとしているんですけどね。


 今日の結果報告を小野口さんにメールで伝え、その後すぐにパソコンを起動する。

 デスクトップ画面に様々なアイコンが並んだ。

 その左上に在ずるアイコン――『アバタ―クエスト』。

 これをダブルクリックするとアプリが起動します。

 色々なミニゲームが楽しめるアプリなのですが、私はチャット機能しか使ったことがありません。


 私のアバタ―『ムーンフェザー』が画面に表示される。この子になるのも三ヶ月以上ぶりでしょうか。

 三ヶ月前……私が登校拒否していた頃に閉じ凍っていた世界。

 一人で鍵付きの部屋を作って、誰とも話すことなく、ただそこに居るだけだった。

 もしかしたら一郎君が迎えにくるかも、と些細な期待を持ちながら、誰も居ないチャット部屋でぼーっとムーンフェザーを眺めていた。


「それで本当に迎えにくるのが一郎君の凄い所ですよね」


 迎えにきてくれることを期待していたら、本当に期待通りのことをしてくれた。

 経験値稼ぎの誘いをした時もそう。

 普通の人なら絶対に乗ってこないようなことなのに、私の期待通りに乗ってきてくれた。

 でも、私はどうだろう?

 一郎君の期待に一度でも応えられたことをあったでしょうか?

 いえ、例えなかったとしても今がその時です。


「でも……」


 そもそも一郎君がアバタ―クエストの中に居なかったらどうしよう。

 その時点でまた振り出しに戻ってしまいます。

 私は祈る様に画面の中にICHIROの文字を探した。

 金曜日の夜間なだけあってプレイヤー人数が多い。

 普段はガラガラのチャットルームも繁盛しています。

 私は虱潰しに部屋名とアバタ―名を流し見る。

 そして――


「あった……」


 ディスプレイに映るICHIROの文字。

 やっぱり一郎君はここに居た。

 三ヶ月前の私と同じように一人きりの鍵付きチャットルームで待っていてくれていた。

 まるであの頃をなぞるような展開。

 そして今度は私が一郎君を迎えに行く番です!


『パスワードを入力してください』


「…………」


 こ、こんな所までなぞらなくてもいいじゃないですかぁ!

 まぁ、三ヶ月前に私も同じことしていたから強くは言えませんけど……

 しかし、あの頃の私と行動が同じならば部屋名にヒントが隠れているはずです。

 さて部屋の名前は……と。


《目標経験値は?》


 同じ。

 一郎君のことだから変な風に捻ってくると思いましたが、部屋名もあの頃と同じでした。

 私は迷うことなく入力する。


『1000000』


 一郎君。

 やっと……やっと会えますね。

 本当は直接会って話したかったけど……

 でも今はチャットでも一郎君とお話しできることが嬉しい!


【パスワードが違います】


「うぇぇ!?」


 ディスプレイに表示された文字列が信じられなくて思わず妙な声が出た。

 ど、どうして……?

 桁数を間違えた……?


「もう一度……」


 きっと打ち間違いです。100万と打ったつもりが10万だったとか1000万だったとか、きっとそんな感じのタイプミスです。

 よし、入力完了。

 桁数を一つずつ数えてゼロの数が六個であることを再確認する。

 こ、今度こそ……


【パスワードが違います】


 い、一郎君……


「どうしてこんな所で捻くれるんですか!」


 セルフツッコミで画面に怒りをぶつける。

 部屋名は同じでもパスワードまで同じじゃないとか……この微妙な意地悪さがすごく一郎君っぽかった。


「むぅぅぅぅぅ……」


 これくらいの意地悪に負けてたまるものですか。

 絶対に会ってみせるんですからね。


「こうなったらもう虱潰しです!」


 一郎君の好きそうな言葉を片っ端に入れていくことにします。

 それから私は何度も『パスワードが違います』のメッセージと戦いながら、必死にパスワードを入力し続けた。







 【ムーンフェザーさんが入室しました】


 パソコンの前に格闘を始めて70分。ようやく部屋への入室が出来ました。


「や、やりましたっ!」


 思わず歓喜の声が出た。

 ディスプレイの色彩がガラッと変わり、ファンシーな部屋が映し出される。

 その隅っこのほうに見覚えのあるアバタ―が居ました。


ICHIRO{見つかっちゃったね}


 いつかの私と同じように、先に声を掛けてくれた。


ムーンフェザー{ぅぅぅぅうううううううううううう!!}


ICHIRO{いきなり獣化したっ!?}


ムーンフェザー{当たり前です! なんですか! あのパスワードは!}


 まさか入室の条件であるパスワードが『1000000』ではなく『hyakuman』とか。

 その発想は70分出てこなかったです。


ICHIRO{僕だって以前は入室までに90分かかったし、お互い様ということで}


ムーンフェザー{解読の難易度に差を感じました!}


ICHIRO{ちゃんと部屋名にヒント残しておいたのになぁ}


 ああ。

 この感じ。

 一郎君だ。

 私の大好きな一郎君が画面越しに居る。


ムーンフェザー{一郎君。こんな所で何をしていたのですか?}


 何となく分かっているけど、そう訪ねずには居られませんでした。

 だって……私だってあの言葉を聞きたいのだから。


ICHIRO{月羽を待っていたんだよ}


 あの時の私と同じ言葉を即答してくれた。

 嬉しい。

 同時に顔の紅潮が止まらない。

 照れながらニヤついてしまいます。


ICHIRO{うわぁ。これ言う方も照れるね}


ムーンフェザー{えへへへへ。そうでしょう~}


 といっても、私が待っていた時はそれほど照れなかったですけど。

 それ以上に本当に迎えに来てくれたことの嬉しさでいっぱいでした。


ムーンフェザー{とにかく一郎君がここに居てくれて良かったです}


 …………

 …………


 妙な間があった。

 この絶妙な間が少し不安を煽る。


ICHIRO{ごめんね。月羽。せっかく家まできてくれたのに……}


ムーンフェザー{そんなこと気にしないでください。私が悪いんですから}


ICHIRO{えっ?}


ムーンフェザー{私の些細な一言のせいで一郎君が傷ついてしまったことを……知っています}


ICHIRO{それは……}


ムーンフェザー{ごめんなさい一郎君。一郎君があの噂通りなことをするわけないのに、私は……}


ICHIRO{いや、その、あの……}


ムーンフェザー{ごめんなさい。本当にごめんなさい}


 ムーンフェザーの謝罪で本当に私の気持ちが伝わっているか怪しい所ですが謝り続けます。

 そうするべきだと思ったから。

 そうしたいと思ったから。


ICHIRO{月羽! いいから! 謝らなくていいから!}


ムーンフェザー{でも。一郎君を傷つけてしまいました}


ICHIRO{その……傷ついたというか……えっと……ただいじけているだけだから大丈夫だよ}


ムーンフェザー{ごめんなさい!!}


 画面の中のムーンフェザーが頭を下げる。

 それを見て私は何ともやるせない気分になった。

 ……やっぱりこんな謝罪じゃ駄目です。


ムーンフェザー{やっぱり私、明日またお家に覗います! そこで直接謝らせてください!}


ICHIRO{ぅええ!? い、いや、そんな、いいんだって! 謝罪なんて!}


ムーンフェザー{駄目です! 謝るんだもん!}


ICHIRO{もん! って言われても……}


ムーンフェザー{明日もまた同じ時間にお家に行きますね!}


ICHIRO{あの……だから……}


ムーンフェザー{それではおやすみなさい。とりあえず一郎君が元気そうで安心しました}


ICHIRO{あ、えっと……お、おやすみ?}


ムーンフェザー{はい。おやすみなさい}


【ICHIROが退出しました】


 おやすみの挨拶を交わすと、一郎君は早々にチャット部屋から出て行った。

 でも久しぶりに一郎君と会話が出来てうれしかった。

 顔に熱を帯びているのが自分で分かる。

 この一週間でポッカリと空いた一郎君成分を少し充電出来た感じでした。


「って、私、何自分から『おやすみ』なんて言っているんですか!?」


 『おやすみなさい』なんて言ったら一郎君も『おやすみ』といって会話が終了するに決まっているじゃないですか。

 私は……もっともっと一郎君とお話ししたかったのに!

 私のバカ! 愚か者!

 ぅぅううう! せっかくの至福の一時でしたのにぃ。


  ~~♪ ~~~♪


 不意にベッドの上に放り投げていた携帯電話が鳴り出す。

 まさか、と思い、期待を籠めながらメール画面を開く。



 ――――――――――

   From 高橋一郎

   2012/09/05 22:55

  Sub ムーンフェザーたんへ

  ――――――――――


 見つけてくれてありがとう

 久しぶりに月羽と話せて楽しかった

 それとわざわざ家まできてくれたのに

 無視しちゃってごめんね


  -----END-----


  ―――――――――――



 一郎君……


「うへへ……えへへへへへへへ」


 頬が緩んで仕方ありません。

 久しぶりの一郎君からのメールに泣きそうなくらい嬉しさが込み上げた。

 すぐに返事を書こうと思い、私は返信画面を開く。


  ~~♪ ~~~♪


 だけど、同時にもう一通私の元へメールが届いた。

 差出人は一郎君……ではなかった。


「池さんから……?」


 池さんからメールが届くことは珍しい。

 何か急用でしょうか?

 私と小野口さんへ一斉送信されたメールのようです。



 ――――――――――

   From 池=M=優琉

  To 星野月羽

  cc 小野口希

   2012/09/05 22:56

  Sub 【必読】

  ――――――――――



 深井嬢について有力な情報を得た。

 突然だが、明日の13時に駅前に

 集合してくれ。

 全員で喫茶魔王へ向かう。

 経緯はバスの中で話す。



  -----END-----


  ―――――――――――


見てくれてありがとうございます。

久しぶりに一郎君登場。

今まで主人公っぽい動きを見せていた月羽さんが急に乙女っぽくなりました。

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