ガーディアンパレスの日常
王都が一望できる小高い丘、
そこにはまるでお城のような館が建てられている。
そこはこの国の今代随一と言われた美しき魔導師の住居……
さすが魔導師の館、庭には森までもある。
噂ではドライアドが守護していて、色々な希少な薬草までもがあるらしい。
そしてその森の中央にはこれまたセイレーンが守る聖なる泉が存在するとか。
そして何より、この館には魔導師の最愛の宝があるとも言われている。
これまでは何人もが魔導師の館に忍び込もうとしたが、
誰一人、帰ってこなかった……
宝どころか、館にすらたどり着かないとか……
これはそんな館のある日の様子である。
麗らかな日差しの元、花が咲き誇る庭のガゼボに、ふたつの影が……
「お嬢様、本日は僕の育てた花で作った、
遠い異国のお茶、『花茶』なるものに挑戦させて頂きました。
香りもさることながら、蒸らす時間の間も楽しめる伝統茶にございます。」
そう、恭しい仕草でお茶を入れるのはおそらくこの屋敷の執事だろう。
なぜおそらく、なのか……
それはその者の出で立ちの為だ。
その漢、白髪混じりの髪をツーブロックにしているかと思いきや、
襟足部分はまとめていて、まるで細いしっぽの様に垂らされている。
顔には少しシワがあり、穏やかな表情により温かみが足されている。
温かみと言えばその瞳の色。
まるで冬の暖炉の火のような橙と朱を混ぜた色をしている。
体格はやや……と言うかまるで歴戦の猛者の様な体付きだが、
洗練された仕草や丁重な言葉遣いがそれらを中和させている。
先程紅茶を入れる手つきも、そのゴツい図体に似つかわないほどの丁重さで入れられていた。
「まあ!!見てアルベルト!
ティーポットの中で紅い花が咲きましたわ!
なんて素敵なの!」
そう、透明なポットの中を見てはしゃいでいる楚々とした少女。
夜を思わせる漆黒の波打つ髪を、
銀細工と中央の紅い宝石が付いている髪飾りでハーフアップにし、
その白く美しい顔をうっすらと桃色に染めた、
猫を思わせる好奇心旺盛な、まるでビジョンブラッドの様な瞳はとても愛らしい。
透明なティーポットの中にある花茶も同じ色合いなのも、
きっと彼女の瞳に合わせたのだろう。
「お嬢様にお気に召していただき光栄です。
花が開ききったので注がせて頂きますね?」
そう、いいながら透明なカップにお茶を注ぐ執事。
とたんに広がる花の香りが鼻をくすぐる。
その時、
「おや、良い香りだね。
私にもお願いしていいかな?」
「お父様!!お帰りなさいませ!!」
柔らかな風がふ、と吹いたと思った瞬間、
現れた男性。
彼に気づいた少女は嬉しそうに駆け寄った。
「ただいま、愛しいアマリーア。」
少女をふわりと抱き上げ、頬に口付けをしたこの男こそが、
この館の主である魔術師だ。
短めのウルフカットをされた少女と同じ漆黒の髪、
そして切れ長のアイスブルーの瞳。
普段は眼光鋭いそれは、
愛しい娘の為に柔らかく細められている。
「私もお茶会に参加しても宜しいかな?
マイ リトル レディ?」
「もちろんでございますわ紳士様?」
娘の為に小芝居を打つお茶目さも、それに応える彼女も、
この屋敷ではよく見られる風景である。
「では、僕は追加のお菓子を持ってきます。」
「ああ、そうだ。娘に土産も買ってきているんだ。
ついでに不備が無いか確かめてから持ってきてくれるかい?
西側の棟にあるはずだから。」
笑顔で言った彼の言葉に執事は一瞬歩みを止め、
「畏まりました。
暫しお側を離れることをお許しください。」
と、主の方へ向き一礼した後、
また歩き出した。
父娘の話し声を聞きながら、
執事は西練へと魔術を使い飛んだ。
そこで感じた僅かな違和感。
飛んできた暗器を素手で落とし、異物を見据えた。
「はて?
本日は来客の予定はございませんでしたが……」
「悪いが、貴様のようなじじい相手をしている暇は無い。
我らの目的は噂の宝珠のみ。
そこを退け!でなければ……」
「テメエ……今なんつった?」
「! ?」
そこには先程までの穏やかな執事はいなかった。
眼光は鋭さを持ち、心なしか彼の周囲には黒いオーラも見える。
異物達は何故か誰もが、指1本すら動かせなくなっていた。
「この家の……俺達の宝にてぇだすたぁ……
いい根性してるじゃねーか!!」
その顔に浮かぶ表情は笑顔。
最凶最悪な笑顔であった。
そしてそれが彼らの見た最後の光景だった。
その体つきからは思いもよらない俊敏さ、
周りにある全てのものを使った戦い方、
それでいて建物などを壊さぬように配慮もするという離れ業……
哀れ、
今日も現れた名も無き異物達は排除された。
宝を護る、最凶の執事によって。
こうして今日も彼女は何も気づかずに守られるのであった……
「あ!アルベルト!
おかえりなさい!」
「やあ、おかえり。
問題はなかったかい?」
「全て滞りなく。
お嬢様、こちらを……」
「何かしら?お父様見てもよろしくて?」
「もちろんだとも。」
そう、父親に聞いたあと、少女は執事の持ってきた箱に手を伸ばした。
箱を開けるとそこには……
美しい細工の台座のスノードーム。
「まあ、綺麗!!お父様、ありがとう!!」
「台座はミスリル製で、加工は森にいるドライアドたちが頑張ってくれたよ。
アマリーアが彼女たちと遊んだ様子だそうだ。
ドームはこの間、
アルベルトが討伐したクリスタル・オイスターから取れるクリスタルパールを私が加工して、
セイレーンたちが育てたサンゴや、貝を入れてあるよ。
皆で頑張って作ったんだ。
気に入ってくれたかい?」
「ええ、とっても!
ふふ、後で彼女たちにお礼を言いに行かなくっちゃ!
アルベルトもありがとう、とっても嬉しいわ!」
「おや、私は?」
「もちろんお父様も、ありがとうございますわ!!
大好きですわ!!」
そう言って少女は父親の頬に口付けをし、
彼に思いっきり抱きついた。
これは、娘を誰よりも愛する魔術師と、
彼女を守るために選び抜かれた、
執事と精霊たちの、幸せな日常である。
ギャップのある執事、
この発想からできた話です。
どうでしょうか?
感想お待ちしてます(ペコリ)




