第十話「いよいよ始まるぜ冒険が!」
ゴドルが料理をし始めてからかなりの時間が経つ。
適当に作るのかと思ったら、かなり本格的だ。
ゴンドラの中から持ってきた大量の食材。
ゴドルは慣れた手つきで次々と料理してゆく。
だがちょっと凝りすぎじゃないのか?
「よお、あんたシュリの知り合いなのか?」
調理台から顔を上げずにゴドルが話しかけてきた。
「幼馴染さ。 特にそれ以上はない」
「ふーん・・・」
ゴドルはなにか納得していないような顔をしている。
「お前はシュリの弟・・・じゃないよな」
たしかシュリには兄弟はいなかった。
「シュリはオレが死にかけてるところを助けてくれたんだ。
それからずっと一緒に仕事してる」
「そうか、あんなガサツなやつと一緒じゃ大変だな」
俺がそう言うとゴドルはいきなりすごい剣幕で噛みついてきた。
「シュリのことを悪く言うな!
シュリは荒っぽいけど優しいヒトだぞ!」
面白い反応だ。
「あー分かってるよ。そんなにムキになるなって。
・・・ひょっとしてお前、シュリが好きなのか?」
「バ、バカヤロウ! オレはそんなんじゃねえよ」
言葉とは裏腹にゴドルは顔を真っ赤にしている。
やっぱりガキは分かりやすい。
そんな事を言っているうちにやっとシュリが出てきた。
その後ろからサイリがタラップを降りてくる。
これは!
思わず二度見した。
装いを整えたサイリはまるで別人だった。
これが、汚れて傷だらけだった奴隷の小娘か?
「どうだい。 あんまり奇麗になったから驚いたか」
横に立ったシュリが自慢げに言う。
「ツルッツルに磨き込んで、特製の栄養ドリンク飲ませたからな。
お肌もプルンプルンだぜ!」
サイリは少し顔を赤らめて所在なさそうに立っている。
「あ、あの・・・私、こんな高そうな服は・・・」
「いいってことよ。 どうせクロンのツケだ。
アクセサリーはいくつかサービスしといたぜ」
横を見るとゴドルもポカンとした顔で見ている。
「ホラホラ、サイリちゃんに見とれてないでメシだメシ!
腹減ってるんだろ」
シュリにせかされてやっとメシにありついた。
うまい!
ゴドルの料理の腕はなかなかのものだ。
俺もサイリも二日分を思いっきり補充した。
一息ついたところでこれまでの経緯をシュリに話した。
「ふーん。 その最後に襲ってきた泥人形は多分、気念系の魔導士が操ってるんだな」
シュリの指摘は的を射ている。
「オレもそう思う。
あの大きさのものを操るのはなかなかの奴だ」
「気念系は厄介だな。
その前に来た双頭人の観念系と違ってそいつがどこにいるか分らないからな」
シュリは魔導士ではないが魔導力には詳しい。
「ああ、そういうことだ。
泥人形をぶっ飛ばしたからある程度ダメージがあるはずだが」
「きっとまた来るぜ。
でも、そいつも魔獣使いもなんでお前がここにいるのを知ってるんだ?」
シュリの疑問はもっともだ。
こんな辺鄙な所に俺がいる事など誰も知らない・・・はずだ。
「それはこっちが訊きたいところだ」
「うーん、そうか。 ところで、二人はこれからどこへ行くんだ?」
「とりあえずサイリの故郷であるグランディアへ行ってみようと思う。
誰かサイリの味方になってくれるやつがいるかもしれないからな」
グランディアへ行くと聞いたシュリの表情が微妙になった。
「グランディアは遠いな。 それに・・・」
「それに?」
「あの方面では最近妙な噂が出ているようだぜ」
「妙な噂?」
「あの辺りじゃ戦争が絶えないようだけど、その戦場でバケモノが出るとか・・・」
「魔獣か?」
「いや、人間らしい。 おそらく相念系の魔導士だと思うんだけどさ。
とてつもなく強いらしいんだよ。
噂じゃそいつ一人で戦場にいた奴らが敵味方に関係なくほぼ全滅したらしい」
「ほんとか? 敵も味方もなく全滅なんて・・・信じられんな」
「オレもちょっと眉唾な感じがするんだけどさ。
なんでも、赤くて長い髪だとか、いつも緋色のマントを着けているとか、
鎧と兜面が返り血と炎の照り返しで真っ赤に見えるとか言われてるらしくてさ」
「クリムゾン・ベルサーク(緋色の狂戦士)って呼ばれてるらしい」
「クリムゾン・ベルサーク・・・ですか・・・」
この時、サイリが急に声をあげた。
「サイリちゃん、なにか知ってるの?」
「い、いえ・・・なんだか、怖い名前ですね・・・」
サイリの顔色が何か青ざめたように見える。
そんなに怖い話なのか?
「ところで、その泥巨人をやっつけた変な武器って何なの?」
サイリは困ったような顔つきで答えた。
「それが、私にもわかりません。
クロン様が危ないと思って、夢中で飛び出したところから急に意識が無くなって・・・
気が付いたら泥巨人が消えていたんです」
「サイリが持っていた武器は突然現れて、用が終わったら突然消えちまったんだ」
「うーん、そうか。 それはひょっとすると『ろけっとらんちゃ』とか言うものかもな」
聞いたことのない言葉だ。
「なんだ、そりゃ?」
「オレ達錬金術師は古代文明をずっと研究してる。
その中から色々な技術を復活させて使ってるのは知ってるよな」
俺は頷いた。
シュリが乗ってきた飛空船もそんな技術の中から造られたという話だ。
「古代文明の戦では色々な武器を使ったらしい。
中には恐ろしい威力のものもあったらしいがその武器もそんな中の一つかもな」
「どうしてサイリがそんなものを使えるんだ?」
「オレにそんなの、分かる訳無いじゃんか」
そりゃそうだ。
あのダンジョンの中と言い、サイリには何か不思議なところがある。
「そう言えば、お前はなんでこんなところを飛んでるんだ?
ここは飛空船の航路じゃないだろう」
「ああ、それなんだが・・・」
シュリが答えかけたところでそいつが襲ってきた。
すぐ横を流れる川の水面が急激に盛り上がった。
何だ! 人の形!!
たちまち見上げるほどの高さに盛り上がった水が人の形になる。
また、あいつか!
この感じは今朝戦った気念系の奴だ。
シュリが即座に動いた。
テーブルの下から短い筒が二つ並んだ武器を取り出して構える。
ショットガン!
錬金術師が魔獣や盗賊などから身を守るために持ち歩いているものだ。
轟音、筒先からの炎!
中に仕込んだ鉛の散弾が水巨人の頭に命中。
頭の部分が飛沫になって砕け散った。
やったか?!
だがすぐに再生して元通りになる。
シュリが二発目を発砲した。
今度は胴体の真ん中がしぶきを上げて大きくへこんだが、やはりすぐに再生する。
ダメだ!
「みんな逃げろ!」
しかし、俺が叫ぶのと同時に水巨人の片手が鞭のように伸びてサイリを掴み上げた。
そのままサイリを腹の部分に押し込む。
サイリが水巨人の腹の中でもがいている。
しまった!
やはり操っているのは今朝の泥巨人の時と同じ奴だ。
泥巨人はサイリの武器で粉々にされた。
その経験から、真っ先にサイリを襲ったのだろう。
こういう液体の敵は・・・
全体を一気に消し飛ばさないと際限なく再生してくる。
しかし、サイリが中にいては攻撃できない。
どうする! 早くしないとサイリが溺れてしまう!
その時、ゴドルが水巨人めがけて走って行くのが見えた。
何をする気だ!
ゴドルはおそろしく敏捷に水巨人に走り寄ると、脚の部分に飛び込んだ。
そのまま脚の中を魚のように素早く泳ぎ昇ってサイリのところに到達。
サイリの口に自分の口を重ねた。
溺れる寸前だったサイリが目を見開いた。
自分の呼吸を吹き込んだのか!
海游民は溺れそうな仲間を助けるときにそうすると聞いたことがある。
ゴドルはサイリの手を引っ張って、再び脚の方へ移動する。
これで胴体部分はがら空きだ。
しかも川から岸へ上がってくる。
もう川の水を使って再生は出来ない。
脚の一番下まで来たゴドルが合図をする。
シュリのドリンクが効いて魔導力がかなり戻ってきた。
よし!
ここは一発、最大限の大技だ!
意識を集中して・・・
「思念・絶!!」
水巨人の足首から上が爆発したように飛び散り、白い水蒸気になって消えた。
水巨人の消えた後にはゴドルとサイリがうずくまっていた。
「二人とも大丈夫か!」
駆け寄りながら叫ぶとゴドルが親指を立ててにやりと笑った。
「へっへっ、サイリちゃんの唇を奪っちゃったぜ!」
なかなか不敵なやつだ。
少し咳きこんでいたサイリも顔を上げて微笑む。
「ふー、危なかったな」
駆け付けたシュリも安堵の表情になる。
「それにしても、なんかしつこく襲ってくるなあ」
シュリの疑問はもっともだ。
「そういえば、お前はなんでこんなところに飛んできたんだって?」
「あ、それなんだが・・・ここに来る前の停泊地でな。
変なジジイがいて『北の方向にお前の未来がある』って言うんだよ」
「そんな話をうのみにしたのか?」
「オレもなんか怪しい感じはしたんだけどさ。
同時にカネの匂いがしたんだ」
シュリは昔から金儲けには敏感なやつだった。
「で、来てみたらお前とサイリちゃんを見つけたってわけだ」
「お前の未来か・・・なんだろな、それは」
シュリは少し考えるような表情をして言った。
「サイリちゃんの身の上を聞いて、夢みたいな話かと思った。
でも、さっきのバケモノを見て心が決まった!」
シュリは真顔でオレとサイリを見て言った。
「オレも付き合うぜ。 サイリちゃんの王国復興によ」
こいつ本気か?
「儲かるかどうかわかんねえ話だし、危険かもしれんぞ」
「なんかピンときたんだ。
あいつをやっつけた時、こりゃ面白いかもってな」
「面白半分にしちゃリスクのでかい賭けだぞ」
「ハイリスクならハイリターンもあるんじゃねえか。
あの飛空船をランダの町で船主に返したら一緒に行こうぜ」
そう言う横からゴドルが口を挟んだ。
「オレも一緒に行く。 シュリだけじゃ危なっかしいからな」
シュリはじっとゴドルを見つめた。
「ゴドル、お前は・・・」
ゴドルの表情に不安がよぎる。
「・・・あったりまえだろうが! オレたちはいつでも一緒だ」
そう言ってシュリははじけるような笑顔を見せてゴドルの頭をくしゃくしゃにする。
「や、やめろって!」
ゴドルが迷惑そうな嬉しそうな声で抗議する。
「ということだが、サイリはどうだ?」
一応サイリの了解をとろうとして振り向くと、そこには涙を一杯にためた笑顔があった。
「もちろん。 もちろんです。
シュリさんとゴドル君が仲間になってくれるなんて!
わたし、こんなに・・・こんなに嬉しい事って・・・」
サイリはそう言ってとうとう泣き出してしまった。
この泣き虫が本当のサイリなのか・・・
「よーし、話は決まったから行こうぜ! ゴドル、片付け手伝え」
「あーあ、人使いの荒い姉ちゃんだ」
そして俺達四人を乗せた飛空船は雲一つ無い青空へ舞い上がって行った。
まだ見たことのない『未来』に向かって。
--第一章・完--




