【魔力ゼロで追放】ですがチャラすぎる精霊王に愛されすぎて測定不能なだけでした。森で平和に暮らす私を奪いに来た元婚約者、精霊たちに許されると思いましたか?
迷い込んだはずの森で、精霊王に捕まる。
一生閉じ込められて逃げられない。
「魔力がゼロの女が僕と結婚できると思ったのか!」
結婚する為に出向いた国から追い返されて、実家には帰って来るなと言われていたのに。
閉じ込められた場所が、世界一安全でした。
◆◇◆
子供の頃に一週間、行方不明になっていた事がある。
「一週間後に泥だらけで帰って来てから魔力がなくなるなんて何があった?」
「ちょっとうちの息子とは婚約させられないな」
縁談がなく、遠方の国の王子に嫁ぐことになる。
「いいですね、くれぐれも戻って来てはいけませんよ。あなたが戻ると姉妹に迷惑がかかります」
厳しい口調でいった母だけど、別れの間際に私を抱きしめてくれた。
目の端が涙で光っていた……。
(お母さま……ごめんなさい……。嫌な役目をさせてしまって……)
(遠方の王子のところでは、どんなことがあっても耐えよう)
「魔力がゼロだと……?」
「はい、何度測り直しても魔力はありません……」
遠方の国で、王子と魔女が話している。
「馬鹿にしている! こんな欠陥品を押し付けて僕を騙したのなら外交問題になるぞ」
王子が激怒した。
「も、申し訳ありません! 我が国では女性の魔力は重要ではないんです! 私は、このまま帰りますから、怒りを鎮めてください!」
そういってなんとか王子の怒りを鎮める。
(まさか、耐えるどころか、城に入ることも許されないなんて……!)
ここまでの従者は返してしまった後で、たった一人の侍女と途方に暮れる。
迷っているうちに、森の中に夜が訪れる——。
「侍女、ごめんなさい。私のせいで……」
「お嬢様……。優しいお嬢様のお世話が出来て、私は幸せでした。お嬢様の花嫁姿が見られなくて残念でしたけど……」
(こんな良い子を私のせいで……)
目頭が熱くなる。
ウォーン……
「け、獣の声!? だ、大丈夫! 近くにはいないわ、まだ」
身を寄せ合った侍女の身体が強張った。
木の影に、獲物を狙う獣の瞳のような光が見えた……。
私の身体もビクッと硬直する。
(せめて、私を先に食べて……)
光は次々と集まり、昼間のような明るさになる。
「え……?」
目の前に男性……女性と見紛うほどの美しい男性が立っていた。
(なんて、美しい……)
「イェーイ! 令嬢久しぶり! 覚えてる? 俺だよ、俺」
(……オレオレ詐欺? 前世でもあったことがないのに)
「子供の頃に会ったじゃん。一週間も、あんなに熱く愛し合ったのに、忘れちゃったのかい?」
「一週間……って、森で一緒に虫取りした男の子のことは覚えてるけど……。え? あの子と同じ髪の色……」
透き通るような銀髪で、光の加減で少しだけ淡い翡翠色に輝く……神秘的な髪色。
「思い出した? 俺がその子。精霊王だよ♪」
「ま、待って! 私の初恋の男の子は、こんな褐色肌で、ジャラジャラアクセサリーつけてませんでしたけど! 精霊王ってのも、もっと神秘的なものでしょう!?」
「え! 俺も令嬢が初恋だよ! ずっと監視——見守ってこの時を待ってたんだ。これ、運命じゃん? もう一生離さないぜ!」
ギュッと抱きしめられた。
「軽っ!?」
初恋の美少年がチャラ男になった件について——!
◆◇◆
「ようこそいらっしゃいました」
長髪の美しい男性(?)が、私と侍女を部屋に案内してくれる。
「わあ、お花のランプ、可愛い!」
木の間の精霊たちの街は、花や植物がベンチや標識などの設備になっている。
「わあぁぁぁっ!」
侍女と私は、窓からの美しさに感動した。
「精霊王の想い人の令嬢を閉じ込めるためのお部屋です。御本人に気に入っていただけて良かった」
(と、閉じ込める?)
「食事を運ばせますね」
そういって出てく。
(精霊王も精霊王の部下も、なんかズレてない?)
「お嬢様は、部下さんや王子のような真面目な人の方が好みですよね」
「そ、そういう話は今はなしよ! 侍女、あなただけでも逃げられるようにするわね」
「え? 私はここにいます」
「え?」
「素敵なところだし、お嬢様のお側にいさせてください」
(私は帰りたいんだけど……)
「お待たせ! 精霊界の特製料理を持ってきたよ! ハイハーイ、座って座って!」
チャラ男だ。
「侍女ちゃんも座って、食べて食べて」
「あ、はい……!」
「待て待て! 侍女の肩を自然に触るんじゃない、チャラ男! 椅子を引くだけにしなさい!」
「や、やきもち? 嬉しいよ。俺も令嬢のこと大好きじゃん? 婚約してた王子は許せないし……令嬢を“欠陥品”なんて呼んだのも、報復する理由になるっしょ! 地獄を見せてやるから安心して、令嬢」
クスッと笑う。
「ほ、報復? いや、やきもちなんて焼いてないし、全くチャラ男のことは好きじゃないし……」
(つ、ツッコミが追いつかない)
ぐ〜!
「お腹空いたよね、令嬢も座って。食べたら永遠に精霊界から出られないスペシャルな料理だよ!」
「ええ! 食べても大丈夫なんですか!?
侍女が驚く。
「大丈夫大丈夫。どっちにしろ令嬢を逃すつもりはないから、食べても食べなくても同じじゃん?」
「そうですね〜」
「そ、そうですね〜じゃないわ! 侍女!」
「令嬢は俺が食べさせてあげるよ♪」
「そんなもの、絶対に食べないわよ!」
ぐ〜!
「ほら、あーんして」
(く、餓死したら逃げるどころか永遠にここにいることになるっ)
「あーん」
(精霊の料理はどんな味かと思ったけど、人間の料理と変わらないわね。ちょっと花の匂いが強くてクセがあるけど……)
モグモグ
「口開けて食べるの可愛いすぎっしょ! 令嬢は、もう完全に俺に惚れてるじゃん! 照れなくていいって! ほら、あーん」
「照れてない、睨んでるだけ」
パクパク
食事が終わると精霊の侍女たちが後片付けしてくれる。
透明な二枚の尖った羽が左右に付いていた。
(わ、妖精みたい)
チャラ男やチャラ男の部下にはなかったから、精霊っていっても色々な種類がいるみたいだ。
「じゃあ、寝よっか?」
「出てけ! チャラ男」
「初めての夜は不安じゃん? 俺が寝るまで見守ってたら安心っしょ」
「不安しかない」
「侍女ちゃんは部下が部屋に案内したから、令嬢お待ちかねの俺と二人っきりの時間だよ」
「待ってない、全然待ってない!」
「なんで令嬢の魔力がゼロになったか聞きたくない?」
「……!」
(そ、それは知りたい……!)
「初恋の美少年なら美しい思い出だけど、チャラ男に私の人生メチャクチャにされたら話が違うの」
「その美しい思い出の美少年が俺ね。令嬢に愛されすぎて困るなぁ。ずっと監視してたから知ってるけどさ」
「チャラ男だろ! って、監視!?」
「ずっと令嬢のこと見てたよ。俺の魔力を毎日注いで、全てのものから守りたかったんだ……」
(え、チャラ男……こんな真剣な目もするの……)
「そのせいで、令嬢の魔力が振り切れて、人間には測定不能になっちゃったけど。マジで俺って君が好きだからやっちゃたんだ」
「って、お前のせいか——!! こっちは、ずっと小さい頃から不気味がられて、やっと捕まえた王子に婚約破棄されたのよ!」
「君を囲い込む準備じゃん? 君を守って俺の目的も達成出来て一石二鳥の天才って思ったからね」
「勝手な事いうなー!
「令嬢が有能すぎるのが悪いんだよ。俺が逃して、先代の精霊王に怒られた、悪い妖精たちをあっという間に捕まえるんだから、惚れるって!」
「悪い妖精……あれ、虫取りじゃなかったの!?」
「国を滅ぼすような悪い妖精で、普通に捕まえようと思ったら一匹に数年かかる所を、十匹まとめて一週間で捕まえるんだもんな」
「そんな危ない奴を十匹は逃しすぎでしょう! チャラ男こそ何やってんの!?」
「魔力の銃を構えて数百メートル先から正確に妖精を撃ち抜く君に、俺のハートもズッキューンって撃ち抜かれたもん。もう絶対にプロポーズするしかないじゃん?」
「……覚えてるけど……あれから魔力がゼロになってもう出来ないのよ……」
「俺の愛の重さで測定不能だっただけだって。やってみたら出来るって! ほらあそこ、侍女ちゃんがいるじゃん? 部屋に案内してるだけだけど、俺の部下といい感じだしちょっと協力してやろう?」
バルコニーから通りを見る。
「協力って……」
「足元狙って、転びそうになってくっつけんの」
「古典的なやつ……」
「そういうのが一番効くんじゃん?」
私は右手に魔力を込める。
子供の頃にやったっきり十数年ぶりだ。
「あ、銃の形になった!? 嘘……! 魔力があった!」
(ずっと、消えて……魔力ゼロだと思っていたのに……!)
涙が溢れた。
「ほら、弾で狙って」
「うん……」
魔力の弾丸で侍女の足元を狙う。
軽く弾く。
「きゃっ」
侍女の小さな声が聞こえた。
狙い通りにチャラ男の部下に侍女がもたれかかる。
「ヒュー! やったじゃん、令嬢! 明日には子供できてるよ!」
「それはダメでしょう!?」
(え、侍女を助けに行かなきゃダメ!? でも、部下は真面目そうだったし大丈夫よね?)
「これは令嬢の本来の能力で、測定不能はこんなもんじゃないから」
「え?」
「あっちに人間の城がある。令嬢を追放した王子がいるから、魔力の目で見てみ」
「魔力の目?」
(……言われた通り集中して……!)
「お、王子が見える!?」
「同じように銃を構えて、遠距離使える奴の方がいいかな? イメージだからなんでもいいんだけど」
(銃の種類なんて知らないけど……イメージで、ライフル?)
「打て」
パンッ
数十キロは離れてる王子に向かって魔力を放つ。
(ただのイメージだけど、ライフルの方が遠くは撃ちやすい)
魔力の弾丸が王子の頭の真ん中を貫く。
王子の身体が跳ねる。
「やった!」
「さすが令嬢! 完璧に狙い通りじゃん」
「すごい! 魔力の弾丸で証拠も残さず完全犯罪達成……」
魔力の目で王子を見る。
遠い王城の冷たい床の上には、皇子は——。
Zzz……
寝ている。
「睡眠不足や恋愛成就、精霊は人間の願いを叶えるのに忙しいけど、側まで行かないと令嬢みたいにピンポイントに狙えないから疲れるんだよねー。令嬢と一緒なら、俺、最強の精霊王になれるじゃん?」
「私がいれば、チャラ男が要らないってことでしょ?」
「本当だ!? 令嬢、頭良すぎじゃん!?」
◆◇◆
ハッ!?
(なんてことだ、床で寝ていたのか!?)
(国の様子がおかしいから、視察続きで疲れているなぁ)
(こんな時に手伝ってくれる魔力溢れる女性がいてくれたら……魔力ゼロの女を僕に押し付けようとした国には腹が立つが、外交問題にしている時間はない。直前で追い出す事が出来て良かったと割り切ろう)
(しかし、あの令嬢を追い出した日から、この国がおかしくなった気がする……)
「精霊の加護が消えています……」
「なんだって!? 悪い妖精が国に入り込まぬように精霊王に守られてるはずではないのか!?」
「そのはずなのですが……」
僕は精霊王に会うために森へ向かった。
(精霊は争いを嫌う心が清い存在だ……僕一人で来るしかなかったが……)
昼の森の奥に光の差す花畑が見えた。
羽の生えた女たちと、生えていない女たちが戯れている。
——そこに一人。
(なんて神々しい……圧倒的な魔力だ! これが精霊王なのか……)
振り返っていれを見る……。
「王子……!」
「お、お前は、魔力ゼロの令嬢! 何故ここに!? この魔力量は……!?」
(精霊と同じ力……! だ、だから、魔力がゼロだったのか……!)
俺はニヤリと笑う。
(この力があれば精霊王など、どうでもいい)
「帰るぞ、令嬢!」
◆◇◆
侍女と妖精と花畑で過ごしていると、王子がやってきて私の手を引く。
「何するんですか!? 私はあなたの国を追放された身です! 婚約者でもなんでもないんです」
「なら、なぜここに居る? ここは俺の国の領土だ!」
「……!」
(も、森は全て精霊王のものだけど、人間には人間の基準で境界線があるんだ!)
(また眠らせてやろうかしら、この王子!)
私は手に魔力を集中させて銃を作る……。
けど、その前に精霊たちが動く。
「ちょっと、うちの令嬢に何してくれてんの!?」
「精霊王さまの大事な令嬢から、その汚い手をどけなっ!」
(え? 一緒に戯れていた可愛い精霊たちが……。王子を囲んでいる……!)
美しかった娘たちの豹変に、王子も怯えている。
「見てるヤツら全員来な! 焼き入れるわよ」
一人の精霊の声が合図になる。
「うおおおおおお!
隠れていた精霊たちが、王子に襲いかかる。
「うえああああああ!」
(ま、まさか、精霊たちの反撃が、物理で王子をボコボコにすることだとは……!)
横にいる侍女と身を寄せ合う。
「だ、大丈夫よ! 侍女!」
「はい! 精霊さんたち、頼もしいです!」
「え!?」
見ると侍女は目をキラキラさせている。
(か、噛み合わないー!)
「お前たち、やめろ」
怒りを含んだ声がこだました。
(チャ、チャラ男!)
「俺の令嬢を連れて行こうとしたって? 欠陥品といって捨てたのはお前だろう」
「せ、精霊王……!」
(王子……すごい傷……。全身切れて血が滲んでる……)
ポワンとチャラ男から光が飛び出すと王子の身体は回復した。
「これくらいの傷で君の傲慢の罪が許されると思わないでくれ」
精霊王が美しく王子に笑いかける。
王子の身体が畏れに震えた。
「令嬢、撃ちなよ。君がやるのが一番いい」
王子が私の手の銃に気づく。
「うわあああああ!」
(すごい悲鳴……。王子の中で銃で撃たれることが死のイメージに直結してるんだろう。とっくに撃たれてるんだけど……)
私はゆっくりと王子を追いかける。
(追いかけなくても当たるんだけど、演出ね)
パーン
足元を外す。
一歩一歩追い詰めていく。
「わ、ひゃ……ぃィ……!」
王子は転んで、声にならない声を出して地を這う。
(そこまで怖がる事もないのに。可愛い令嬢が銃持って追いかけてくるくらいで……)
「やれー! 令嬢、やっつけろー!」
(見せ物じゃないんだけど……。いや、見せ物か……王子の情けない姿をもっと精霊たちに見てもらいましょうか……!)
木が王子の行く手を阻む。
「終わりにしましょう、王子」
王子が振り返って、恐怖に引きつった顔を私に向ける。
私は王子に向かって魔力の弾丸を——放たなかった。
「うわ、汚ない……」
王子はすでに自分で自分の尊厳を傷つけていた。
股間にシミができている。
(……こんなヤツと婚約してたなんて、忘れたい)
私は精霊王の腕の中に自ら飛び込んだ。
王子の顔はもう見ない。
「何かあれば、俺の妃の弾丸がどこからでもお前に飛んでいく。態度を改めれば、加護は戻るだろう」
精霊王の威厳と寛大さに皇子はひれ伏した。
「妖精王とお妃さまに感謝して、一生をあなたたちへ捧げます。どうか、お許しを……」
「精霊王……帰りましょう」
私は王子などもうどうでもよくて、早く精霊王にチャラ男に戻って欲しい。
(私のことだけ考えてるチャラ男が好き……)
私たちが去った後、王子は聖霊にからかわれながら森の外まで逃げ帰って行った。
王都では精霊の加護が完全に消えていた。
(女神像だ……! 精霊王に最愛の妃への祈りを捧げねばならない——)
◆◇◆
「令嬢、今日もサイコーに綺麗じゃん! 一生ここに閉じ込めて俺のモノにしたい」
「そのつもりだけど?」
「え?」
「私のこと妃って、チャラ男が言った」
「あ……」
チャラ男が逃げ出す。
ひらりと手紙が落ちる。
『娘さんを妊娠させてしまい……』
拾う時に一文が目に入ってしまう。
「は……?」
パーン
王城にいる王子を撃った。
何かあったら撃つと言ってある。
「職人、女神をもっと美しく作れ!!!」
王都の王子は叫んでいた。
(チャラ男が、妊娠させたぁ〜!)
「どういう事よ! 誰を妊娠させたの!」
チャラ男の部屋に殴り込んだ。
「お、お嬢さま〜」
侍女と部下が、チャラ男の前に座っていた。
(ま、まさか……妊娠って侍女!?)
「令嬢の国の侍女の両親に挨拶にいかないといけないから、まず手紙で報告しようと……」
(部下って、真面目そうに見えたのに……)
「ご、ごめんなさい! お嬢さま……」
「私についてきたからだし、今後も一緒にいてもらうから侍女は気にしなくていいのよ。ご両親への挨拶には、私も行きます」
二人は安心して部屋を出ていく。
「ということで、チャラ男も私の家族に会ってください」
「もちろん! 愛する令嬢の家族の挨拶しないわけないじゃん。まずは俺たちのこと認めて貰わないとね」
チャラ男は私を抱きしめてキスする。
「違います。侍女が妊娠してるのに、私に何もなければ、母がかえって心配します」
「え゛!?」
チャラ男が固まる。
(やっぱり、精霊の国では処構わず男女がくっついて倫理観が壊れてるのに、チャラ男は口ばっかりで……むしろ、まともなのがチャラ男なのか)
「俺は令嬢にマジだから、挨拶してからがいいんだ」
(チャラ男が真面目になってる……これも、いい!)
「まあ、一生閉じ込めるのは確定だけどね。もう、王子みたいな、他の男に迷う余地ないから」
「快適なら閉じ込められなくても、閉じこもるわ」
だって、チャラ男もいて、私は最強になれるから。
ここは私から、世界を閉じ込める檻。




