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3話 彼は問題児か王子様か

 朝。

 スマホが狂ったように振動する。


「うにゃ……もう朝ぁー?」


 誰もいない空間に問いかけながらスマホに手を伸ばす。


 体中がぽわぽわした感覚だった。


 スヌーズのボタンに手を伸ばしかけて、今日は何曜日か思い出す。


 えーと、昨日が月曜日だから、今日は、火曜日で、学校だ。


 それを思い出すと同時に昨日の放課後のことを思い出す。


 あぁ、そうだ。ブレザーを取り違えされていたのだ。

 その上、私が指摘するまで気付かなかった。


 なんて鈍いのだろうか。窮屈だと感じなかったのだろうか。


「ふふっ、」


 思わず、笑みが溢れる。


 私の着たブレザーは温かかったか!


 そんな、寝ぼけた頭でばかなことを考えながら、スマホを何回もタップする。

 だがアラームが止まらない。


 そこで、仕方なく目を開ける。

 目が痛くなるほどの光が脳を覚ます。


 5秒ほどそれを見続けていると、やっと目に情報が入り始めた。

 よく見てみるとこんな言葉が書いてあった。


『スヌーズ上限に達しています。はよ起きろねぼすけ』


「んー? 上限?」


 嫌な予感がした。体の底から焦燥感が湧いてくる。

 私はいつも6時にセットしている。

 そして、7度寝までできるように設定している。その間隔は10分おきだ。


 10分が7回なのだから10に7を掛けるということであって、答えは70分なのだ。


 いや落ち着け。何、今更小学生の計算をしているんだ。



 頭の記憶の隅から学校の遅刻に関するルールを引っ張り出す。

 確か、7時30分までに登校していなければ遅刻とみなす。だったか。


 ……………。


「……えっ」


 やばい。やばいやばい。


 私はむくり、とベッドから身を起こす。

 頭の毛が一房ぐらいピン、と立っている気がする。触ると確かにアホ毛ができていた。


 それを押さえながら机に置いてある時計に目をやる。

 そしてスマホの時計に目を落とす。


 7時15分、と書いてあった。


「あれ、私、遅刻しかけてね?」


 そうだよ。


 そんな心の声が聞こえた気がした。


 ちょっと待て。

 え? まずくない?


 がばっ、とベッドから抜け出す。

 なんとテンプレな事態なのだろうか。なんて思いながら。



 急いでバスの時刻表を調べる。7時25分に出発のバスがある。

 到着は……40分になっちゃうけどいいか。しょうがない。今回は割り切ろう。


 クローゼットを開けて制服を取り出して急いでリビングに向かう。


「ちょっとお母さん。なんで起こしてくれなかったの」

「……」


 反応がなかった。

 その代わり、テーブルに朝ごはんと謎のお金と手紙があった。


 私は寝巻きを脱ぎ、下着姿になりながらそれをいそいそと読んだ。


「私とお父さんは6泊7日の沖縄旅行に行ってきます。当面のお金は置いてあるから、あとは頑張ってね!」


 ご丁寧にハートマークまで添えられていた。


「あんのバカ夫婦がよー!!」


 とんでもない夫婦だ。

 実の娘をおいて平日に旅行に行くとはいい度胸をしている。私も行きたい。


 だが、お金に目を向けると、いつもより0が一つ多かった。

 少なくともそれは3枚はあった。


 ………。


「……フフッ。ありがとよ、母さん父さん」


 日奈子はチョロかった。



 制服に手を通し、スカートを履き、靴下を履く。

 そんな、慣れている動作のはずなのに、今日はやけに遅く感じた。


 そして、朝食の入ったお皿に手をつける。


 だが、幸運なことに、食パンに茹で卵とマヨネーズをかけたサンドイッチだった。

 これならバス停に着くまでには食べ切れるだろう。

 朝食を後にして、洗面台に直行し、髪を結び始めた。


 今日は……時間がないのでポニーテールだ。

 ゴムは、紫色でいいか。適当だけど似合うだろ。多分。


 そして1万円札3枚を財布にいれて大事にバッグの中に入れる。



「ふぅ……」


 一段落したところで、全く別方向から考えが浮かんできた。

 迷惑なことに、その考えは瞬く間に遅刻の焦りを全く別問題の焦りへと変貌させた。


 服を取り違えられて、そのことで寝付けなくて、7度寝までして。 


 どんどん昨日の出来事が鮮明に思い出してくる。


「はっ、はずがしい……!」


 醜態だ……!


 手で顔を覆う。



 ちなみに優花から「早く学校来いよ。雄也が待ってるぜ」とメールが来たのは秘密にしておこうと思う。



ーーー



 学校に着くと、すでに授業が始まっている時間だった。


 私は改めて遅刻した時の行動を思い返す。

 何せ、これで遅刻は2回目だからな。



 学校指定の上履きを履き、2階にある職員室に向かった。遅刻カードを書かなければいけないのだ。



 各学年の遅刻カードの入った棚を開ける。

 一応クラス単位で区別されているものの、何十人分の遅刻カードの中から個人のそれを見つけるのは少々時間がかかる。

 ようやく、見つけ出したので、到着時刻と遅刻理由を書く。


(両親がお金で私を買収したため、っと)


 簡単に二人を売った私は学年の先生に印鑑をもらうため、職員室をノックする。



「失礼しまーす。遅刻カードの印鑑もらいにき……」

「Oh! 君が僕のプリンセスだね! ちょうどよかったYO!」


 ………。


「……あっ、失礼しましたー。何やらお取り込み中だったようで」


 そこには金髪の外人風の学生がうちの担任と何か話し合っていた。


 素早く体を180度回転させて来た道を引き返した。


 触らぬ神に祟りなし、っと。

 カードは次の授業休みに出しに来よう。


「ちょっと待ちたまE! 君が僕のプリンセスなんだろっ!?」

「待つのはお前だよ! 言っただろ!? 変な言動は慎めって!」


 ドアがバンッ、と開き、その外人は先生に制止されていた。


 えーっと。

 反応に困るんだけど。


 先生は彼を必死に引き留めながら、私に行け、とジェスチャーしてきた。

 それに従って私は足早にそこを去る。


「あぁー! 待ってくれ! ちょっとでもいいから話しだけでMO!」

「ホントにやめてくれ! 恥ずかしいたらありゃしないから!」



 先生大変だね。



 廊下に着くと、自分の教室が学校1厳しい先生の授業だというのになぜだかざわついていた。

 

 教室に入ると数学科の山田先生が、


「お、おはよう。ち、遅刻、だよな?」

「? ……はい、そうですけど」


 それ以外何があるのだろうか。


「その……カードは? どうした?」


 山田は両人差し指で長方形をジェスチャーし、


「いや、なんか先生に印鑑もらおうと思ったら、変な奴に絡まれたので、印鑑もらえなかったんですが」


 それを聞くと、山田は額に手を当て、


「……すまん。俺の指導不足だ」

「……?」


 なんのこっちゃ。


 そう思いながら、自分の席の方に足を向けると、


「……先生」

「なんだ」

「……なんか、私の隣に席が増えてるんですけど」

 

 本来、私だけが最後列だったはずの席順に、一名追加されていた。


 そして、思い出した。紫の裏の色言葉に。


(嫌な予感しかしないなぁ……)


 額に手を当てた。




 次の時間。本来なら国語の授業だったのだが急遽ホームルームに変更された。

 数学とは違って、優しいおばちゃん先生の授業だけあって、クラスの空気は少し暗かった。


 いつも思うんだが、ホームルームってなんでホームってつくんだ?

 直訳したら家の部屋じゃん。


 そんなことを思いながら、雄也を観察していると、


「な、なぁ、日奈」

「は、はいっ!」


 突然振り向いた。


「日奈って好きな人、とかいる?」

「いるよ?」


 やべ。

 思わず素が出てしまった。

 口滑らしたー!!


「それって、外国の人、だったりする?」

「いんや? 全然、日本人、だけど」


 なんか、距離、縮まった?

 昨日の件もあるのかもしれない。

 私としては嬉しい限りだ。


「そっか……ごめんね、なんか変なこと聞いて」

「全然! むしろ、なんでも聞いて欲しいっていうか……」


 ちょっと申し訳なさそうな顔がすごく、いいです。

 心の中のミニ日奈子たちがペンライトを振り回していた。


 ちらっ、と優花の方を向くと、何やら事ありげな顔でぐっ、と親指を突き上げていた。

 本当に何があるんだ……。



 と、何が起こるのか全く判断できずにいると、校内共有のプロジェクターからある映像が出力された。


「えー、みなさんこんにちわ。私は、ドイツから来た、ノアベルト=カイザーと言いまSU」


 明らかに皇帝の名に相応しくない背格好の、さっき見た男子生徒が写っていた。

 しかもちょっと日本語が苦手なのか、語尾がうまく言えていない。


「気軽にカイザーと呼んでくださi」


 フッ、と髪の毛を横に流しながら言った。


 クラスのみんなはキャーキャー言ってるけど、カイザーの意味知ってるんかな。

 知ってたら、みんな言わなさそうなものだ。


「好きな食べ物は、大きめのステーキ。嫌いなものはピーマン。好きなことは、意中の相手を追いかけること」


 あら、以外に日本人に似てるじゃん。最後は全くわかんないけど。


「……そして、嫌いなことは人が勇気を出しているところを蔑む人。以上です」


 ………。

 ま、まぁ、大事よね。蔑む人が嫌いなのは。


 カイザーが、一礼をして退出しようとすると、何か思い出したようにマイクを手に取った。



「あと、言っておかなければならないんですGA、1年5組の内野日奈子さんは僕のものです。

 これからよろしくお願いします」



 彼は、去っていった。



 ………。


 クラス全員がこちらを見た。

 あまつさえ、雄也でさえも、見てきた。

 担任だけは今にも土下座しそうな体勢に入っていた。


 私は、思わず、



「はぁあああああ!?」



 私には、変なやつを引き寄せる磁石が入っているのか。



ーーー



 衝撃的な告白をされたその数分後、残った時間は教室で自由時間ということになったので、


「ね、ねぇ。日奈子ちゃん。彼とはどういう関係?!」

「もしかして、許嫁だったりする!?」

「あら、日奈子も隅に置けない子ね!」

「あんた、もしかして、同棲しちゃってたり……!?」

「「「キャー!!」」」


 クラス全員から尋問を受けていた。


「もう! 全部、ぜーんぶ、違うんだから!」


 そう否定したところで、彼が全校生徒の前で公然と所有物発言をしたのだ。

 そうそう誤解は解けないだろう。

 解かなければならないのだが。


「違うわ! 日奈子は、そんな子じゃないわ!」


 その声は優花だった。

 やったれやったれ。私の潔癖を証明してくれ。


 優花はみんなに指を突きつけ、意義あり、と言い、


「日奈はね、そんなことやるんなら、とっくに籍を入れてるはずだわ!」

「何言ってんだ優花ぁー!」


 と、私とクラスメイトの間で、緊急取調室をやっていると、先生数名が、私の腕の裾を引っ張り、


「う、内野さん。……ちょーっと、いいかな?」

「え、あ、はい」


 申し訳なさそうな顔だった。


 廊下に連れて行かれると、そこには筋肉ダルマというあだ名の、校長がこれ申し訳ないと、腰を90度に曲げていた。


 そして、その後ろに映ったのは……。


「……げっ」

「げとはなんだ! げとは!」


 不格皇帝(ぶかっこうてい)(即興の名付けである)のカイザーがいた。


 そんな彼は、ダルマに頭を押さえつけられていた。


「内野さん。本当に、ほんっとうに申し訳ないッ! こんな問題児に、全校生徒の前でこんな恥ずかしい思いをさせて……!」

「いやいや、恥ずかしくないでしょ、この僕に告白されTE……痛い痛い。痛いってぇ!」


 耳をつねられているが、なんかちょっと嬉しそうだ。


 と、場の雰囲気に流されそうになったところに、うちの担任が、


「実は彼、あなたに一目惚れしたそうで……だから、なんとしてでもあなたと一緒がいいって言ってて……」


「あ、あの、嫌なことがあったら遠慮せず、私か、先生に言ってね? 全然、殴りに行くから!」


 物騒だな。


 しかし、一目惚れか。

 女子なら、一回は聞いてみたい言葉だ。


 ……うん。……聞いて、みたい、言葉、だ。


 途中まで脳内映像が雄也だったのが、突然カイザーに変わる。


 やっぱいいかな。


「……で、編入しちゃったと」

「……はい、こいつが教育委員会に言いつけるぞと言い出したもので……」


 いや弱。

 先生方権力に屈しすぎだろ。


「……で? 彼は5組に編入になったんですか?」

「ええ、申し訳ながら。そうなってしまいました」


 教師全員が土下座した。

 ……ふむふむ。人に頭を垂れられるのは悪い気がしないな。


 ともかく、私には二人目のヒーローができたってわけだ。

 しかも、容姿端麗な外人ときた。


 普通なら、これは喜ぶべき状態なのだが、私はこんな展開は全く望んでいない。

 逆ハーレムとか考えたくもない。

 あれは、王道通りが一番美しいのであって、邪道は特殊な人が行くべき道なのだ。

 私はこれでも普通の人間だ、と思っている。邪な高校生活を送りたくなんてない。


 と、状況を私なりに整理していると、


「……改めて、よろしく。色々、迷惑をかけるかもしれないが、そこはご愛嬌ということで」


 やつは、手を差し伸べてきた。


 しばらく逡巡した後に、


「よろしくね」


 形式上の握手と返事をしておいた。




 教室に戻ると、私は瞬く間に女子たちに囲まれた。

 私はこいつらが何か言う前に、


「何もなかったからね」


 それを聞いた、みんなは、


「「絶対そんなことない」」


 今度は女子はおろか男子まで言い始めて、ただの野次になっていた。

 なんて感知能力だ。


 私は、さながら不祥事を抱えた政治家の如く、人ごみをかき分けて自分の席に戻る。


 ……全く、次から次へと問題が舞い降りてきやがる。

 どうしたものか。


「どうしたんだい? マイプリンセス」


 首をあげれば今一番の悩みの種の皇帝閣下が私の隣に座っていた。

 わかってましたよ。あなたがここの席なのは。


 雄也がこちらを振り向いた。

 その目は「大丈夫?」とでも言いたげな目だった。


「はぁ……」


 まず、公言しておこう。私は、雄也以外は見ていない。

 少なくとも、異性として。

 だから、カイザーに対しても、そのような目で見ることはまずないだろう。


 問題は、向こうが私に少なからず、好意を抱いていると言うことだ。

 それ自体は嬉しいんだけど。こう、高らかに言われてしまうと、どうしても彼に無関心ではいられない。

 考えるに、彼は、漫画で言うところのおふざけキャラだ。

 だから、応対は適当にあしらっても問題はないと思う。


 だが、あしらいすぎるのも良くない、と聞いたことがある。

 それは、男子にとって結構辛いことのようだ。

 特に意中の女子からのは格別らしい。


 つまるところ、私が早めに雄也とくっついて、カイザーを分からせるしかないのだ、と思う。


「……良いじゃん」

「何が?」


 雄也が聞いてきた。

 とりあえず、なんでもないと返答する。


 つまり、カイザーを踏み台にしてやればいいのだ。

 踏み台にして、一気にくっついちゃえばいいのだ。


 それがいい。

 うん。それでいこう。


「あ、あの、雄也、サン?」

「………何?」


 なんだかちょっとぶっきらぼうな言い草だ。


「あの、週末、って、空いてますかね?」


 私は、生まれて初めて、賭けに出た。

 逆ハーレムシナリオか、純愛シナリオかを決める賭けだ。


「んーとね、」


 雄也は、スマホを取り出し、予定を確認する。


「あ、空いてるよ」


 ……勝った。


「じゃあさ、遊びに行かない? どこか」


 心の中でガッツポーズをする。よっしゃ。


「おっけー。予定入れとくね」


 心なしか、雄也も嬉しそうだ。


 ちらっと、カイザーの方を向く。

 こうゆうキャラはこの会話に無理矢理入って来るものだが……。


 幸運なことに机に肘を立て、何やら考えていた。

 折角無関心でいてくれるのだから、今回は何も反応しないようにしよう。


 そう思っていると、何やらスマホを取り出し、誰かにメッセージを送り始めた。


 ブブっ、とポケットが震えたので、スマホを取り出し、なんなのか見ている。


 要件はなんともない、ただの広告メールだった。


 問題は、その後だった。


「あっ」


 財布が落ちた。

 普段、私は学校に着いてからは貴重品ということで、スマホと同じポケットに入れているのだが、今回はスマホを仕舞おうとした時にポケットに手が引っかかって、落ちてしまったのだ。


 急いで拾おうとしたが、誰かに先を越された。

 誰かと思ったら、カイザーだった。


「あ、ありがとう」


 そんな、日本人なら誰しもが使う言葉。

 なぜか感激したような顔をして、


「どういたしましTE」


 頭をポンポン、と撫でられた。


 それを受けて、一呼吸。


「先生、殴りにきてください」

「それだけはやめてぇえええええ!」


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