表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

第4話:試練の洞窟



【深緑の洞窟】——最深部。


「ギィィィィ!」


【ゴブリンキング Lv.18】


玉座に座っていた緑色の怪物が、侵入者を見て立ち上がった。


普通のゴブリンより二回りほど大きく、頭には歪んだ王冠を被っている。手には錆びた大剣。


「お、おっさん! あいつがボスだ! オラが——」


「待ってろ」


シオンは腰の神剣ラグナロクに手をかけた。


スライムもゴブリンも、指先で弾いて倒してきた。だが、せっかくの「ボス」だ。久しぶりに剣を抜いてやる。


蒼白い刀身が、洞窟の闇を切り裂くように輝いた。


ゴブリンキングが咆哮を上げ、大剣を振り上げる——


シオンは、一歩踏み込んだ。


斬撃は見えなかった。


音すら聞こえなかった。


気づいた時には——ゴブリンキングの体が、縦に真っ二つになっていた。


ズシャァァァ……


【ゴブリンキングを討伐しました】


【経験値+1800を獲得……できませんでした(レベル上限)】


【報酬:ゴブリンキングの王冠、錆びた大剣、銅貨180枚、ゴブリンの牙×5】


「……は?」


リュートは、口を開けたまま固まっていた。


「い、今……何が……?」


「斬っただけだ」


シオンは剣を鞘に納めた。


その時——


脳内に、機械的な声が響いた。


【チュートリアルクエスト・最終章を発行します】


【勇者の剣を入手せよ】


【これがチュートリアルの最後のクエストです】


【報酬:経験値10000(受取不可)、銅貨1000枚、鉄の剣、鉄の鎧、初心者卒業の証】


シオンの目が死んだ。


——鉄の剣。鉄の鎧。初心者卒業の証。


「……俺はレベル999だぞ」


【おめでとうございます!】


「鉄の剣で何をしろと?」


【チュートリアル完了後、メインクエストの詳細が解放されます!】


「メインクエストの対象は死んでいる」


【頑張ってください!】


会話が成立しない。いつも通りだ。


「おっさん、どうした? また独り言?」


「……気にするな」


シオンは溜息をついた。


報酬はゴミだが、チュートリアルを完了すればメインクエストの詳細が解放される。死んだはずのクロードをどう「打倒」するのか——その手がかりが得られるかもしれない。


「リュート、お前が言っていた【試練の洞窟】はどこだ?」


「え? ここから東に少し行ったところだけど……」


「案内しろ」


「お、おう!」


◇◆◇


【試練の洞窟】——


森の奥深くに、その入り口はあった。


古代の石柱が両脇に並び、入り口には風化した古代文字が刻まれている。アルヴァレス大陸がまだ「七王国時代」と呼ばれていた頃の遺跡だ。


「ここだ! この奥に、勇者の剣が眠ってるんだ!」


リュートは目を輝かせた。


シオンは石柱の文字を眺めた。古代ルーン語——四百年前の魔王討伐の旅で、嫌というほど読まされた文字だ。


『勇気なき者、進むべからず。知恵なき者、惑うべし。心なき者、朽ち果てるべし』


「何か書いてあんのか? オラ、字は読めねえ」


「簡単に言えば、『馬鹿は死ぬ』と書いてある」


「なんだと!? オラは馬鹿じゃねえぞ!」


「そうか。なら証明してみろ」


◇◆◇


洞窟の内部は、予想以上に広大だった。


壁に埋め込まれた魔石が淡い青白い光を放ち、苔むした石畳の通路が奥へと続いている。冷たい空気が頬を撫で、どこからか水の滴る音が響いていた。


シオンは周囲を観察しながら歩いた。この手の古代遺跡は、四百年前に何十箇所も踏破している。罠のパターン、謎解きの傾向、隠し通路の位置——全て頭に入っていた。


「よーし、行くぞ!」


リュートは意気揚々と走り出した——そして三歩目で床のタイルを踏み抜いた。


シオンが襟首を掴んで引き上げる。


「……お前、罠くらい確認しろ」


「だって見えなかったんだ!」


「床の色が微妙に違う。それが罠の起点だ」


リュートは床をじっと見つめた。


「……あ、本当だ。ちょっとだけ色が違う」


「それを避けて歩け」


◇◆◇


それから先、リュートは何度も罠を踏み、何度もシオンに助けられた。


床から飛び出す槍——シオンが「歩幅を変えろ」と一言告げ、リュートは不規則な歩幅で進むことを覚えた。


壁から発射される矢——シオンが「壁の穴を見ろ」と指差し、リュートは穴の位置を避けて歩くようになった。


天井から落ちてくる岩——シオンが「上の亀裂」と呟き、リュートは天井を警戒しながら進んだ。


最初は全て踏み抜いていた罠が、徐々に避けられるようになっていく。


シオンは黙ってそれを見守っていた。


◇◆◇


洞窟の中層。


通路の先に、水路が行く手を阻んでいた。激しい水流が轟音を立てて流れている。


「くそ、渡れねえ!」


リュートが頭を抱えた。


シオンは壁にもたれかかり、何も言わなかった。


「……おっさん、ヒント」


「上流を見ろ」


リュートは水路の上流に目を向けた。岩陰に、石のレバーが見える。


「あれか!」


リュートがレバーを引くと、水流が止まった。水底に隠された通路が現れる。


「よっしゃ! オラ、自分で見つけたぞ!」


「ヒントを出したのは俺だがな」


「細けえことは気にすんな!」


◇◆◇


洞窟の深層。


巨大な広間に出た。東西南北に四体の石像が立ち、中央には封印された扉がある。


リュートは迷わず扉に突進した。当然、開かない。


「くそ、開かねえ!」


「仕掛けを解かないと開かない」


「仕掛け?」


シオンは床を指差した。


「矢印がある。像から扉に向かって」


リュートは床を見た。確かに、薄れかけた矢印の模様がある。


「……つまり、像を全部扉の方に向ければいいのか?」


「自分で考えたな」


「へへ、だんだん分かってきた!」


リュートは石像を一体ずつ回し始めた。重い像を押すのに苦労しながらも、やがて四体全てが中央を向いた。


ゴゴゴゴゴ……


封印された扉が、ゆっくりと開いた。


◇◆◇


さらに奥へ進むと、次々と仕掛けが現れた。


壁に刻まれた古代文字を読み解き、正しい順番で炎を灯す謎——シオンが文字を読み上げ、リュートが試行錯誤しながら炎を灯した。三回火だるまになったが、四回目で正解した。


床のタイルを踏む順番で道が開く仕掛け——シオンが「壁の模様を辿れ」とだけ言い、リュートが模様通りに歩いた。二回落とし穴に落ちたが、三回目で成功した。


色の異なる宝玉を正しい台座に置く仕掛け——壁画に描かれた太陽と月と星がヒントだった。リュートは「太陽は赤、月は青、星は黄色」と推理したが、シオンは「壁画をもう一度見ろ」と言った。リュートは太陽が「沈んでいる」ことに気づき、配置を逆にして正解した。


一つ一つの謎を、リュートは解いていった。


何度も間違え、何度も失敗し、何度もシオンに助けられながら。


だが——確実に、成長していた。


◇◆◇


洞窟の最深部——


巨大な空洞が広がっていた。


天井から差し込む光が、中央の祭壇を神々しく照らしている。


祭壇の上には——


一振りの剣が突き刺さっていた。


白銀の刀身。黄金の柄。淡い光を纏った、まさに「伝説の武器」。


「あれが……勇者の剣……!」


リュートは息を呑んだ。


祭壇の前には、巨大な石像が立ちはだかっていた。


【ガーディアンゴーレム Lv.50】


「リュート」


シオンは一歩下がった。


「これはお前が戦え」


「……分かってる」


リュートは剣を抜いた。レベル12対レベル50。圧倒的な格差。


だが、リュートの目に怯えはなかった。


「オラ、ここまで来たんだ!」


ゴーレムの拳が振り下ろされる。リュートは横に転がって避けた。


正面から斬りつける——刃が弾かれる。石の体には傷一つつかない。


「くそ、硬え!」


だが、リュートは諦めなかった。


——弱点がある。必ずある。


洞窟の仕掛けで学んだことを、思い出していた。


リュートはゴーレムの周囲を走り回り、その体を観察した。


そして——背中に光る赤い石を見つけた。


「あれだ!」


懐に飛び込み、背後に回り込む。


「おらあああああ!」


全力の一撃。


刃こぼれした剣が、赤い石を貫いた。


パキィン!


ゴーレムが崩れ落ちる。


「やった……!」


◇◆◇


リュートは祭壇に駆け寄った。


白銀の剣の柄を握り——力を込めて——


引き抜いた。


シュウウウウ……


眩い光がリュートを包み込んだ。


【勇者の剣を獲得しました】


【称号『勇者見習い』が『勇者候補』に昇格しました】


同時に、シオンの脳内にも通知が響いた。


【チュートリアルクエスト・最終章 完了】


【報酬:経験値10000(受取不可)、銅貨1000枚、鉄の剣、鉄の鎧、初心者卒業の証】


【おめでとうございます! チュートリアルを完了しました!】


【メインクエストの詳細を解放します——】


シオンはメインクエストの詳細に目を向けた。


だが、その瞬間——


ゴゴゴゴゴゴゴ……


洞窟全体が震え始めた。


「な、なんだ!?」


リュートが叫んだ。


壁が崩れる。天井が軋む。


そして——洞窟の四方から、巨大な影が現れた。


【デスナイト Lv.65】


【キメラ Lv.58】


【ミノタウロス Lv.72】


【ダークエルフ Lv.61】


【ワイバーン Lv.69】


五体の精鋭魔物が、祭壇を取り囲んでいた。


「な……なんで急に……!」


リュートの顔が青ざめた。


一体でも厳しい相手が、五体。


シオンは冷静に状況を分析した。


——勇者の剣を抜いたことで、封印が解けたか。


——いや、違う。


——この魔物たち、明らかに「配置」されている。


——誰かが、意図的に——


『シオン、これは……』


ルグナードの声が、精神リンクを通じて響いた。


『罠だ。勇者の剣を抜いた者を殺すための』


「ああ、分かっている」


シオンは一歩前に出た。


リュートを背に庇うように。


「リュート、下がっていろ」


「で、でも——」


「お前じゃ死ぬ」


五体の魔物が、一斉に動き出した。


デスナイトの大剣が振り下ろされる。キメラの炎が吐き出される。ミノタウロスが突進してくる。ダークエルフが呪文を唱える。ワイバーンが空から急降下してくる。


五方向からの同時攻撃。


普通の冒険者なら、一瞬で肉片になる。


だが——


シオンは、欠伸をした。


「……久しぶりに、少しだけ本気を出すか」


神剣ラグナロクの柄に、手をかけた。


◇◆◇


**——第五章へ続く**

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ