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第2話 勇者王のスライム狩り



ルグナードは王都から南西へと翼を向けた。


眼下に広がるのは、果てしない大地。


シオンが治めるアルヴァレス大陸——その広さは約357億平方キロメートル。地球の70倍の面積を誇る超巨大大陸だ。


そしてこの大陸は、惑星アルディア全体のわずか五分の一に過ぎない。


惑星アルディアの直径は約64万キロメートル。地球の50倍。表面積は**1,785億平方キロメートル**を超え、重力は星の核に埋め込まれた古代魔法陣によって地球とほぼ同等に調整されている。


『この星は馬鹿みたいに広いからな』


ルグナードが風を切りながら言った。


『お前が四百年かけて統治したのは、大陸の主要都市と街道沿いだけだ。奥地には未だに魔物が蔓延っている』


「知ってる」


シオンは苦々しく頷いた。357億平方キロメートル。日本の国土の約9500万倍。いくら勇者王でも、全土を完全に制圧するのは不可能だった。


「初心者の森は……まだあるのか?」


『あるぞ。王都から南西に8万キロほど行った場所に、【始まりの森】がある』


「8万キロ……全速力で何時間だ?」


『四時間だな』


「四時間も待てるか」


シオンは右手を掲げた。蒼白い魔力光がルグナードの全身を包み込む。


『おい、まさか——』


「**神速付与ゴッドスピード**」


瞬間、ルグナードの体が光の粒子を纏った。


『——ッ!? この加速魔法、四百年前に魔王城で使った時、俺は三日間寝込んだぞ!』


「今回は調整してある。たぶん一日で済む」


『全然マシじゃない!』


文句を言いながらも、ルグナードの速度は跳ね上がった。音速の壁を軽々と突破し、マッハ20を超える。衝撃波が雲を引き裂き、眼下の森が一瞬で後方に流れ去っていく。


『くそっ、体が勝手に——速すぎるッ!』


「あと十分で着く。耐えろ」


『絶対に竜牛十頭分の肉を要求するからな!』


---


十二分後。


【始まりの森】——


四百年前と変わらぬ、穏やかな緑が広がっていた。


ルグナードは着地するなり、地面に突っ伏した。


『……二度とやるな……翼の感覚がない……』


「すまん。急いでいた」


シオンはルグナードの背から降り、森を見渡した。


ぷるん、と青いスライムが跳ねている。


【スライム Lv.1】


「……さっさと終わらせる」


シオンは右手を軽く振った。ただそれだけで、森全体に衝撃波が広がる。


ぱしゅん。ぱしゅん。ぱしゅん——


森中のスライムが一斉に蒸発した。


【スライムを討伐しました×187】


【10/10 クエスト達成! 超過討伐ボーナス!】


【報酬:経験値1870(受取不可)、銅貨187枚、錆びた短剣、布の帽子、ボロボロの革靴、割れた木の盾、スライムゼリー×187】


シオンの表情が死んだ。


「……割れた木の盾」


『お前の防御力76万に対して、+0.5だそうだ』


「いらない」


【インベントリに収納しました! スライムゼリーは初心者に人気の回復アイテムです!】


「俺のHPは毎秒10万回復する」


【素晴らしいですね!】


会話が成立しない。


【チュートリアルクエスト2を発行します! ゴブリンを5体討伐せよ】


「……次はどこだ?」


『【深緑の洞窟】だな。ここから東に300キロ』


「近いな。歩いていく。お前は休んでろ」


---


【深緑の洞窟】——


苔むした岩肌に、ぽっかりと口を開けた洞窟。四百年前、シオンがレベル5の頃に死にかけた場所だ。


「ゴブリン、出てこい」


声に込められた覇気が、洞窟全体を震わせる。


奥から悲鳴が響いた——そして、ゴブリンたちが飛び出してきた。


逃げるために。


「待て」


シオンは指を弾いた。空気の弾丸が、逃げるゴブリンたちを貫く。


【ゴブリンを討伐しました×23】


【5/5 クエスト達成! 超過討伐ボーナス!】


【報酬:経験値2000(受取不可)、銅貨200枚、木の杖、初心者用ポーション×3、ゴブリンの耳×23、曲がった短剣、穴あき革鎧】


「穴あき革鎧……」


【背中に穴がありますが、前面は無事です! ファッションアイテムとしてもお使いいただけます!】


シオンは無言でウィンドウを閉じた。


【チュートリアル完了! メインクエストが解放されました!】


【メインクエスト:クロード・レイサスを打倒せよ】


【対象の現在地——Loss 特定できません】


やはり死んでいる。四百年前に確認した通りだ。


「クエストを変更しろ」


【できません】


「対象は死んでいる」


【クエストを完了してください】


シオンは溜息をついた。とにかく、故郷の村に行って情報を集めるしかない。


洞窟を出ようとした、その時——


奥から、何かが聞こえた。


足音。


それも——全力で走る足音だ。


シオンは足を止め、洞窟の奥を見つめた。


暗闇の中から、小さな影が飛び出してきた。


——子供?


逆立った赤毛。粗末な革鎧。刃こぼれした剣を背負った、十五、六歳ほどの少年。


その後ろから、巨大な影が追いかけてくる。


【ケイブトロール Lv.35】


少年のレベルは——【Lv.12】


圧倒的な格上に追われ、必死に逃げている。


少年は走りながら、こちらに気づいた。


目が合う。


少年の瞳には、恐怖があった。だが——それだけではなかった。


何か、強い光が宿っている。


「——」


シオンは、その瞳に見覚えがあった。


どこで見た?


いつ見た?


思い出せない。だが——懐かしい。


少年はシオンの横を駆け抜け、洞窟の出口へと走っていった。


「に、逃げろおっさん! そいつ強えぞ!」


——おっさん。


その言葉が耳に残った。


トロールがシオンの前に迫る。


シオンは無造作に手を振った。


トロールは塵になって消えた。


【ケイブトロールを討伐しました】


【報酬:経験値3500(受取不可)、トロールの棍棒、トロールの皮、銅貨350枚】


シオンは洞窟の出口を見つめた。


少年の姿は、もう見えない。


『シオン、どうした? 固まって』


「……いや」


シオンは首を振った。


「少し、気になる子供がいただけだ」


『子供? この辺りに村があるのか?』


「分からない。だが——」


シオンは、少年が走り去った方向を見つめた。


あの目。


あの必死さ。


——どこかで、見たことがある。


「追ってみるか」


『珍しいな。お前が誰かに興味を持つなど、四百年ぶりじゃないか?』


「……そうかもしれない」


シオンは歩き出した。


少年の足跡を追って。


---



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