表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

二人

ツバキは車を路肩へ止める


エンジンの音が止むと、町の音だけが真也の耳に届く

多くの人で賑わう大通り、風で揺れる電線、どこからか聞こえる電子看板の音

あまりにも平凡で、拍子抜けするほどだった


「ここからは歩いていくよ」


ツバキは扉を開き車を降りた

そのあとに続くように皆車から降りて路地に足を着いた


「お天気良いね」


「眩しいから嫌かな」


皆口々に会話を交わす。真也は蚊帳の外でただ様子を眺めているだけ、

それだけで、自分を取り巻く色々が解けていく気になった


(…外なんだな)


アスファルトの匂い

遠くの信号機の電子音も

すれ違う学生達の笑い声も。


その時、ふと腰のあたりに違和感を感じた


(…あ)


腰に手をやると、ゴーグルがない。

車内に置いて来たことに気が付く


一瞬だけ振り返る

取りに戻るべきか。

だが、任務は捜索。戦闘前提ではない


「どうしたの?」


戸惑う真也に気づいたハルは耳を揺らしながら覗き込む


「いや。ゴーグル置いて来ちゃって」


「へぇ、丸腰でデビュー?」


にやりと少し意地悪な笑いをする


「まぁ大丈夫だよ。きょ・う・は」


二人は先を行く仲間の方へ駆け足で向かった


依頼主の自宅付近へ来るとまた変わった静けさに包まれた

何か。疑うようなそんな空気


言われた家はどこも変わった様子はなく、

ごく普通で、表札、外見もまったく違和感がなかった


ツバキはジッと表札を確認しインターホンを押す

少し遅れて玄関のドアが開き家主、依頼主が出てくる


「…お待ちしてました」


現れたのは落ち着いた声の温厚そうな男性だった。

ただ、顔は少しやつれて見える。


「こんにちわ。少しお話を伺っても?」


ツバキの言葉に、男は深く頭を下げる


「中へどうぞ」


「少年とハルは聞き取り頼むよ。他は辺りの捜索に」


短い指示で、部隊は自然と別れた

ツバキは一人で動き、他は二、三人でペアになった


真也とハルは依頼主の自宅へ足を踏み入れた

家の中は整然としていて、

家具は少なめでどこも清潔に保たれていた。


リビングの棚には写真立て、

そこには、依頼主と――見たことない小動物と、女性も写っていた


「これが、そのペットですか?」


真也が尋ねる


「ええ、唯一の妻との思い出で」


男はたどたどしい日本語で話した。

落ち着く雰囲気もなく、ずっと部屋を行ったり来たりしている


「昨日の夜、姿を消してしまって。ほんの一瞬目を離しただけで」


ハルが鼻をすん、と鳴らす


「扉とか、壊れた形跡はないものね」


「はい、鍵も閉めていました」


真也は家の外を見た。

奇妙な感覚が未だに残っている。


その瞬間。

通信にノイズが走った


《アオイだ。気を付けてくれその辺り…》


そこで通信は途切れてしまった。

それと同時にハルが立ち上がり、外を見た


重たい衝撃音が遠くから響いた

何かが砕けるような音も聞こえる。


ハルの耳が鋭く立つ


「…囲まれた」


依頼主の男はその言葉を聞くと、ゆっくりと顔を上げた

その目には、先程までの怯えはなく、

不気味な笑みを浮かべていた


「目ざわりなんだよ」


温厚な様子とはかけ離れた掠れた声

背筋が凍る。


男の首は異常な方向に回転して

背中から触手のようなものが生えてきた。

写真立てが棚から落ちガラスが床に散らばる


「あの!」


「落ち着いて私が何とかするから」


ハルは手を床につき、目の前の怪物に突進していった

その後ろで真也は別の気配を感じ取った

目の前にいる宇宙人以外に庭の塀を越えて三体

それぞれ特徴の異なる宇宙人が来ていた


ハルは目の前の宇宙人の攻撃を見極めようと必死だった

触手はハル目掛けて四本同時に動き始める


しかし、ハルは止まることなく触手の合間を縫って

瞬く間に本体までの距離を縮めた。


真也はぐっと足に力を込めた


(こっちだよな)


床を蹴り、ガラスを踏み砕きながら庭へと飛び出す

庭に出た瞬間三体は真也と距離をとった


一体は全身細く、関節も多い、

一体はやけに大きく、背が丸く、腕は太く地面に着く程長い

最後の一体は、他に比べ地球人に近い輪郭をしていてそれ以上の特徴はなかった


三体は動かずただジッとこちらを見ているだけだった

真也は呼吸を落とす


(同時に来るんだな)


真也は右の腰に手を当てた

出動前に護身用として渡された小刀、

金属製ではないもののその切れ味は凄まじい


小刀を手にした瞬間

一気に地面が弾けた


大きい個体が一直線に突っ込んでくる

細長い個体は横に跳び、回り込む

人型は――その場から一歩も動かずただ見ている


真也は踏み込まず、半歩引く

訓練で行ったのはあくまで避けるだけ

好戦的になるのは良くない


大きい個体の拳が地面を砕く

衝撃が伝わりすぐさまバランスを崩す

それに加え砂ぼこりまで舞い、視界も悪くなる


その隙間を、細長い個体の腕が槍のように突き出される

速い。


瞬時に真也は体を捻り、ギリギリで攻撃をかわす。

服の袖が裂け、浅いが傷を負う


まだ、まだ動ける。

真也は相手の組み合わせを大まかに把握した


(重たいのと、スピード系。なら、あいつはなんだ)


人型だけは変わらずその場に立ち続け、ただ見つめて来る

視線が合う。その時、歪な感覚を感じた

あの時、あの怪物と同じ感覚歪んだ空気――来る。


真也は直感で横へ跳んだ。

さっきまで立っていた場所、その空間が、

音もなく削り取られる。


発動の条件がわからない以上むやみには動けない

真也が次の動きを考えている隙に、

大きい個体が再び突進を仕掛けてくる。今度は止まる気配がない

避け切れない。そう悟った瞬間真也は踏み込んだ。


逃げない。目の前の怪物に拳を打ち込む。


衝撃が腕を伝い全身を電流のように走る

タフな見た目ほどの硬さは持ち合わせてない様だった。


ほんの一撃で相手は体制を崩した

それを援護するかのように細長い個体が後ろから畳みかけてくる。

しかし、真也は振り返ることをせず、肘を後ろで叩き込む

鈍い感覚が伝わってくる。


三体はペースを乱され連携がおろそかになった

真也が考えた通りだった。

三体にはそれぞれ役割があり、突撃・錯乱・制圧


つまり、好戦的な二体ではなくメインは遠くから俯瞰する

あの人型。奴を抑えてしまえば問題はない


そう判断し、人型に標準を合わせる

人型は目をわずかに細める

空気がずっしりと重たくなる。


(まただな)


真也は地面を蹴る。

ただ、今度は”避ける”ためではない


一直線に人型へ


背後で大きい個体が唸り、

二体の足音が砂を裂く


追撃が来る


だが、構わない

近づくほどに体を覆う空気が重くなる

さっき削り取られた感覚と同じだ


(発動の条件は視線か、それとも別の…)


人型の目が真也から逸れる

その刹那、ぐっと圧迫感がくる


(まだ…まだ…)


己の感だけを頼りに進み続ける。

金属が擦れたようなキリキリという音が聞こえた直後

真也は地面へと身を沈めた

削られたのは頭上の空間、

その証拠に真也の頭を狙った細長い個体の指が三本切断されている


読みは当たりだ。

”見ている場所を削る”


ならば――

真也は庭の砂を蹴り上げる

視界を乱し少しでも近づくために。

一時的に歪みが止まる


肩の骨がきしむ。

少し無茶をしたからか


逃げない。

真也は踏み込んだ。人型の懐へと


距離が縮まり手が届く距離まで来た時

初めて表情を変える


わずかな――動揺。


(やっぱり、近距離は弱い)


あれだけの距離を取るという事は

相手に近づいてと言っているようなものだ。


真也は小刀を逆手に持ち替え、

首元を狙う。


だが、刃が触れる直前。

空間がねじれ、数メートルも弾き飛ばされる

見えない壁。


背中を強打しその痛みに声も出ない

肺が上手く空気を吸えない


ぼんやりと三体が姿勢を整えるのが伺える

細長い個体も、切断された指先を気にも留めず迫ってくる


(俺何で戦ったんだろ)


訓練だって受けた、

任務も引き受けた

でもこれは違う。


千恵を奪われるのが嫌だった

それだけで、正義も、責任感もなかった

ただ――嫌だった


地面を掴み立ち上がろうとするが、指に力が入らない


(これで終わりかよ)


自信はあっという間に砕かれた

過信だった。たった一回の訓練で強くなれる訳ない


―――ドクン


耳鳴りに似た鼓動

一度。


もう一度


庭の空気がまた重たく感じる

三体はこちらを見たまま様子を伺うように動きを止めた


真也にのしかかる圧に変化が起こる

重たくはあるが温かみがあり質が違う


柔らかい。


包むような。


真也の指先に再び熱が戻る


(……千恵?)


白く霞んだ視界でもはっきりと分かった

三体と真也に挟まれるように千恵は立っていて

周囲には光の胞子を纏っている。

その様子はそう、”神秘”そのものだった


裸足。風なんか吹いてないのに髪はわずかに揺れていて

瞼を閉じたまま。眠ったままだった


「……」


千恵は声も出さず。ただジッとしていた

それでも真也には分かった

彼女は猛烈に怒っていた。


声に出さずともその圧は”触れるな”と伝えていた


大きい個体が咆哮を上げて迫る

その瞬間、境界線を引くように地面沈んだ

押しつぶされた

見えない力が個体を地面へと縫い止める


細長い個体は飛び掛かる

それも間もなく空中で吹き飛ばされる

また見えない何かが個体を塀へと叩きつける


人型はそれを見て千恵と目を合わせる


「千恵!そいつは…」


真也が忠告しようと口を開いた時

千恵の瞼がほんの少し震える


ほんの数ミリ。開きはせず


人型は血相を変えてこちらを見つめた

空気が震え力の衝突が伝わってくる

まばたきの瞬間、人型の足は圧し潰されて形を保っていなかった


「規格外だな」


かすれた声。

瀕死に追い込まれると悟った三体は

人型の声を合図に一斉に引いていった


庭に静寂が戻り

真也を包んでいた力も薄れていく

千恵はしばらく胞子に包まれ

そのあと再び力なく倒れてしまった


動けるようになった真也はすぐに千恵に駆け寄り

その体を抱えて膝へ乗せた


「ありがとう。助けてくれて」


遠くでサイレンの音が鳴り響く


更新お待たせしました。演出やストーリーのつじつまを合わせるために一度練り直しをさせていただきました


これからは、また定期更新していくのでどうか応援のほどお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ