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ふるさと

ロッカールームは訓練区画や、医療区画と変わらず無機質な感じだった

白と灰色で統一された壁、整然と並ぶロッカー、床に引かれた黄色のライン

内装が変わっただけで部屋の規格はどれも一緒なのに

どうしてこうも空気感はガラリと変わるのだろう


真也は支給されたジャケットに腕を通しながら、ふと思った


(外、か……)


学校での事件以来

真也は一度たりともこの施設の外に出ていない

連れてこられ、訓練を受け、眠り、起きて、また訓練

守られているような、

それとも隔離されているような感覚


「緊張してるの?」


声をかけてきたのはハルだった

耳をピコりと揺らしながら、真也の隣で装備を確認している


「まぁ……少しだけ」


正直に答えると、ハルはくすっと笑った


「初めてだもんね。ここから地球人の町に出るの」


「地球人って言われると、なんだか他人事みたいですね」


「ん?だって君半分こっち側でしょ」


悪気なく言われた一言に、真也は苦笑いする

なんだか腑に落ちない気持ちが心の中で渦巻いた


少し離れた場所では、アオイがコートの内側をいじっている

表からは何も見えないが、真也にはわかる

あの中に、あの無数の”目”が潜んでいるのだ


「少年」


不意に名前を呼ばれ、真也は背筋を伸ばす。


「初任務だからって、肩に力入りすぎだよ

 死ぬことなんか滅多にないよ。今回の任務は」


「余計に緊張しますよ」


「はは、冗談に決まってるだろ」


アオイはそう言って、軽く手を振った


「今回はペットの捜索依頼だ。平和そのもの。」


「平和……」


真也はボソッと呟いた

どこか拍子抜けするようで、胸の奥がザワついた

ここに来てから気がかりなことばかり


(本当にそれだけ…か…)


ロッカールームの扉が開き、ツバキが入ってくる

いつものコートに、相変わらずの眼鏡

けれど、その奥に映る眼は鋭く落ち着いていた


「全員、準備はいいかい?」


部隊全員が一列に並ぶ

真也も列に混ざりながら横目で隊員の様子を確認する

各々が自分に合ったスタイルで装備を着こなしている


「どうした。怖いのかい?」


落ち着きのない真也に気が付いたか

真也の前でツバキが足を止める


「…いえ」


一瞬息が詰まる。

やっぱり、自分自身が

戻ることの出来ない所まで来てしまったことに不安を感じる。


「彼女の為なんでしょ」


横から小宮が軽く肩を叩いてくれる


「はい!」


「それで良い。外の世界は君が守ろうとしたものが詰まってる」


ツバキは口元を緩めた

出動ゲートへ向かう通路。

重いシャッターの向こうに、懐かし日常がある


ハルが小声で囁く


「ねぇ、戻ってきたらさ。

 彼女連れて、甘いもの食べに行こうよ」


「甘いもの?」


「うん。死ななかったお祝い」


「そんな縁起でもない」


「生きて帰る前提だから大丈夫だよ。」


その緊張感のない感じに、また少し救われた


金属の擦れる音でシャッターが開く。

眩しい光が差し込み、風が吹き込んでくる


ここに来た日と違って天気は雲一つない快晴だった

懐かしい空気を胸一杯に吸い込み、真也は一歩踏み出した


シャッターの奥には、一台黒塗りの車が待っていた


「乗って。シートベルト忘れないように頼むよ」


ツバキに促され、真也は後部座席に腰を下ろす

ドアが閉まると、外の音が一気に遮断され、車内は静寂に包まれた


エンジン音が響き、車は滑るように動き出す


窓の外。

久々に目にする”ふるさとの街”が、ゆっくりと流れて行く


歩道を歩く人々

信号待ちをする自転車

コンビニの看板、バス停、植え込みの花


どれも、あまりにも見慣れた光景だった


(……本当に戻って来たんだな)


G.I.C.Mの白と灰色の世界とは違う、色と雑音に満ちた現実

その中に自分の知らない”彼ら”が混ざり込んでいる

そのことが未だに信じられていない


「変な感じする?」


隣の席から、ハルが声を掛けてくる


「……はい。全部、前と同じなのに」


「なのに?」


「自分だけ、違う場所にいるみたいで」


ハルは一瞬だけ考える素振りを見せてから、肩をすくめた


「最初は皆そうだったよ。ね?こみー」


「そうですね」


小宮はこちらを向くと頬をかいた。


「僕は、外に出るたび体調崩してたかな」


「えっ」


「冗談冗談。変な気持ちにはなることはあったけどね」


笑いながら言うが、どこまでが本当かはわからない


運転席ではツバキがナビ画面を確認している

助手席のアオイはコートの襟を立て、窓の外の景色を眺めていた


「依頼主の情報、改めて共有するよ」


ツバキの声で車内の雰囲気は一気に引き締まる


「依頼主は地球居住歴十五年。どこの星出身かは未登録だそう

 それで、昨夜飼っていたペットが逃げたしたとか」


「奥さんが亡くなってから、精神的に不安定らしいね」


アオイが付け加える


「近隣住民への影響は」


「今のところは確認されてない、自宅から出てないみたい」


真也の心にまた靄がかかる


(宇宙人……なのに、普通の家で、普通に暮らしてるのか。。。)


それは、彼が目にした光景とは相反する存在だ


「どうした?」


ツバキはミラー越しに真也を見る


「……いえ、ただ」


言葉を探す


「思ってたより、変わらないんだなって」


ツバキは眼鏡を掛け直した


「そう思えるなら、少年はいい奴だね」


車は住宅街へと入っていく

道幅は狭くなり、速度も徐々に落ちていく


陽射しが建物の影を長く伸ばし、

洗濯物が風に揺れていた


「この辺りかな」


ナビが目的地を示し、車はゆっくりと停車した

真也はドアに手をかけながらもう一度周囲を見回す


――静かだな

あまりにも


胸のざわめきはきっと慣れない景色のせいだと思った


久々に更新させていただきました。

初投稿から読んでくれている方々、新しく読み始めくれた方々


ありがとうございます!!!!


今後とも応援のほどお願いします

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