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君がいるから

五分なんて時間は、あっという間だった


ガラスの向こうで眠る千恵

ただ眠っているだけにも見えるのに、

あの教室で起きたことが、確かにここに繋がっている


真也は、線の手前で止まった


近づきたい。

手を伸ばしたい


不思議と後悔や無力感に襲われることはなく、

ただ、

楽しいとか嬉しいとか

そんな単純な感情で胸が満たされていく


千恵の顔を少し見れただけで真也は

あと少し頑張ろうなんて思うことが出来た


ツバキはそんな真也の背中を見て目を背けたくなった

自分より十歳か年下の若者が

己の人生を棒に振ってまでした決断だ

彼女が今できる見返りは、このくらいしかしてやれない。

それでも――それが許されるなら


「もう時間だよ。少年」


真也はほんの少しだけ頭を下げた


「また来る…」


返事はこない


それでも、

何かが確かに伝わった気がした


寂しさを押し殺して

そっとその場を立ち去る


扉が閉まり

五分は、終わった


廊下に戻るとツバキがこちらを見ていた

その表情はいつものこわばったモノとは違い

少し柔らかかった


「行こうか」


真也は、もう一度医療区画の扉を振り返ってから

前を向いた


あの時間を

無駄にしない為に


――――――――――


翌日。

訓練区画の空気は、昨日までと何一つ変わっていなかった


白い床、白い壁、均一な照明

血の跡は綺麗に消され、まるで何事もなかったかのようだ。


それでも――

真也の心だけが、たしかに違っていた


(…大丈夫だ)


理由は説明出来ない

理屈でもない


ただ、

ガラス越しに見た千恵の顔が、

胸の奥に静かに眠っている。


ゴーグルに反射した自分の顔が映る

その目は曇り一つなかった


「いくよ」


小宮が、いつもと変わらない調子で告げる

剣を構え、間合いを測る仕草


「――いつでも」


次の瞬間

小宮の姿が消えた


昨日までの真也なら、きっとここで終わっていた

視界が追いつく前に、意識が途切れる


けれど。


今度は違っていた

真也の身体は、

考えるよりも先に動いていた


空気が切り裂かれる気配

殺気とも言えない、最も原始的な圧


(来る)


床を蹴り、半歩だけ横へ。

剣先が、髪のすぐ横を通り過ぎる


乾いた音が空間に遅れて響いた


「……」


小宮の動きがピタッと止まった


真也は息を吸い、吐く

心臓はもっと早く鼓動する


ただ、

「生きている」感覚だけが、はっきりしていた


「今……」


リオが小さく声を漏らす


小宮はゆっくりと剣を下ろして

驚いたように、そして嬉しそうに笑った


「いきなりだね」


その様子を、訓練区画の端で見ていたツバキが

ふっと息を吐く


「…再開は、思ったより早そうだね」


誰に向けた言葉でもなく、

独り言のように呟く


その直後、

訓練区画の照明が、ほんの一瞬だけ明滅した


「なんだろう」


小宮が眉をひそめ、剣を持ったまま天井を見上げる

リオも、何かに気づいたように首を傾げた


間もなくして

――ゴウン、と低い振動が床を伝わった


遠くで、重たい扉が開閉する音

それも一つや二つじゃない


「来たのか」


ツバキがどこか諦めにも似た溜息をつく


訓練区画の出入口、

重い鉄の扉がゆっくりと開いていく


扉の奥から現れたのは、

地球人やそれ以外が入り混じった男女


年齢も、雰囲気も、まちまちで

統一感はないが、共通しているのは――


全員が只者じゃないという空気だった


「相変わらず派手にやってそうね隊長」


軽口を叩いたのは、ツバキのものと似たコートを羽織った細身の男

その後ろで頭に動物の耳を生やした女が顔をのぞかせる


「うるさいな。今いいところだったんだ」


ツバキは振り向きもせず答えた


「で、どれ?」


コートの男が、興味深そうに視線を動かす

その先にいるのは――

息を整え、まだ剣先の余韻を身体に残したままの真也だった


「…あの子?」


その瞬間

複数の視線が一斉に真也に集まる


値踏みするような

警戒と、好奇心と、期待が入り混じった視線


真也は反射的に背筋をピンと伸ばした

ツバキはようやく目を合わせ


「紹介するよ」


と言って、軽く肩をすくめた


「私の部隊、

 これから君がお世話になる人達だよ」


一拍置いて、静かに続ける


「そして、彼らを呼んだってことは」


ツバキは真也をまっすぐ見た


「君はもう”訓練生”じゃなくなった」


訓練区画の空気はまた一段と重くなる

それでも真也の中にあったのは、恐怖じゃない


たしかに、

千恵に会えたあの五分が、

彼の背中を押してくれていた


運命はもう

待ってはくれない。

ep6読んでいただきありがとうございます


ここから物語はより加速しそうですね

引き続き応援のほどお願いします

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