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まだまだ未熟

訓練区画、扉の向こうは思っていたよりもずっと簡素なものだった

白い床、白い壁一面真っ白なだけで変わった機械などもない


天井に柔らかな照明が均一に配置されているだけ。


「体育館じゃないな」


思わず呟く


「そりゃそうだよ」


背後から、軽い声が返ってきた


振り向くとそこには小宮とはまた違う人物が立っていた

年齢は真也とそう変わらないように見える

黒髪で少し眠たげな目。


「はじめまして、ボクはリオ医療担当だよ」


真也は何よりも先に違和感を感じた

この人――


説明できない違和感。

呼吸の間合い、立ち方、視線の動き

どれも人”みたい”だ


「彼女は宇宙人だよ」


あっさり言ったのは小宮だった

ジャケットを脱ぎシャツの腕をまくりながら

訓練用の装備棚に向かう


「これ付けて」


小宮はビンテージゴーグルを真也に投げ渡した

右手には刀に似た形状の――しかし明らかに軽そうな武器


「プラスチック製で殺傷力はほとんどない」


そう言いながら軽く振った

部屋中に素振りの音が響いて、遅れて風が吹く

真也はその勢いに吹き飛ばされそうになった


「君が彼女を守ると決めた以上、君は強くならなくちゃいけない」


「あの時の怪物みたいなのを倒すため?」


「それもあるけど、組織に君の価値を証明しなきゃ」


小宮が刀を照明にかざしながら言った。


「なんで」


「君の彼女は10段階に区分される危険度

 Lv1~lv10の内lv5ってそれなり危ないんだ」


「lv5ってそんなに高いのか…」


「だから、彼女を生かそうと思ったら組織にもメリットがないと」


「だから俺が組織の戦力に成れるように」


「そういうこと」


小宮が正面に立った


「今日の訓練内容は単純」


真也は渡されたゴーグルを装着する


「僕の攻撃を一回だけ避けて」


「…それだけ?」


「それだけ」


真也は自分の手のひらを見た。

武器はない。

渡されていない。


「素手で……」


「もちろん、避けるのに武器は使わないでしょ」


レンズ越しに見る訓練区画は、少しだけ歪んで見える。

視界がせまい


心臓の音が早まる


(…一回だけなら)


相手が使っているのは訓練用。

医療担当がいる時点で怪我は想定されてる


避けるだけなら。

できる。


「準備は?」


小宮が手首を少しひねる。

真也は足を肩幅に開いて構えた


「……いつでも」


まばたきした次の瞬間

小宮の姿が視界から消えた。


――いや、違う。


近い


一気に間合いを詰められたことを、

目が小宮の姿を捉えるよりも先に、

身体が理解した。


(速――)


考え終わる前に、

視界が反転した。


徐々に床が近づく

強い衝撃に息が詰まる。


「……っ」


避けた?

それもわからなかった


視界の端で白い光が弾けたかと思うと

今度は辺りが真っ暗になった

すーっと意識が遠のいていく頭を強く打ちすぎただろうか


次に意識が戻った時

天井が見えた。


白い天井。

さっきと同じ、やっぱり避けたけれど

そのまま後ろに転んだんだろうか


起き上がろうとして、違和感に気が付く。


手がなんだか重い

視線を落とすと


掌から指先まで、

べっとり血がついていた、


「…え」


喉がひきつる


「安心してもう傷は塞がってる」


リオの落ち着いた声がした。


「君は、小宮さんの攻撃を避けれなかった」


真也は真っ赤に染まった手を見つめたまま

動けなかった


「避けれなくて、死んだんだ」


避けるだけ、たった一度避けるだけ、

何も出来なかった。


「これが…」


「これが君の”知らない世界”だよ」


小宮の声が少しだけ低くなる。


「さぁ、こんな所でつまずいてちゃだめだ。立って」


真也は身体のあちこちを触って遅れて状況を確認した

小宮の表情はどんどん険しくなる。


「早く立って‼‼‼‼‼」


真也は驚きすぐに立ち上がった。


「もう一度行くよ」


真也も今度は姿勢をもっと低くして

まばたきも止めた


「来い!」


また、一瞬にして小宮は視界から消えた。

真也はその瞬間に一歩引いたが、

今度は小宮は後ろから現れた。


――暗転


「大丈夫?」


リオが真也の顔を覗き込み微笑む


「う、うん大丈夫」


痛む身体を根気だけで何とか起こす


「本気でやってる?」


小宮は真也の方を見ながら剣先を突きつける

相当頭にきてるように見える


「ほら、もう一回」


真也は深呼吸をしてもう一度小宮に向き合う

ゴーグルもきちんと付け直した。


――暗転


「目で追ってる」


「感覚…?」


――暗転


足が動かなかった。

思考が追いつく前に死んでた。


――暗転


「動き出しが遅い」


――暗転


呼吸が乱れ

次第に腕も上がらなくなってくる


――暗転


「まだ追うことで頭が一杯じゃないか」


何回目かもうわからなかった


床に倒れたまま、真也は荒い息を吐く

視界が滲み、天井の光がぼやけて見える。

死ぬたび。死ぬたびに疲労感は増す


小宮とリオが顔を見合わせた


リオは確かにその瞬間を捉えた。

彼女は人の見た目をしているが実のところ”目”は機能していない

その代わりエコーのようなもので反響してものを捉えている


それゆえに、彼女の視界には真也の動きが違って見えた


先程まで、真也は小宮の足音と自分の視界に頼っていた

けれど、この一瞬だけは切られるよりも先に身体が動いていた。


この変化にリオも小宮も気が付いた。

避けきることは出来なかったが、

確実に進歩していた。


小宮はゆっくりと剣をおろした

張りつめた空気は一期に緩んだ


「……はぁ」


小さく息を吐いてから、小宮は真也に歩み寄った

数分前の鋭さはもうなく、声も驚くほど穏やかだった


「もう、いいよ」


真也は倒れ込んだまま。息を整えようと必死だった


「え……?」


「傷が今までより浅かった」


小宮はしゃがみ込み視線の高さを合わせる


「剣や僕の動きじゃなくて、感覚に頼った」


真也は血まみれになったゴーグルを拭いた

正直自覚はほとんどない

気づいたら身体が動いて、次の瞬間には死んでた


「今はそれで良いよ」


小宮はきっぱり言った


「普通は目で追うべきだよ。けど、これから相手にするのは人間じゃない」


小宮は立ち上がり、軽く剣を肩に担ぐ


「未知に適応できるのは本能だけだと僕は思ってる」


リオが縦に首を振る


「音でも、視覚でもない、もっと雑で確かなもの」


「怖さとか?」


真也がぽつりと聞くと、小宮は少しだけ笑った


「それも近いな」


「”死ぬ”って感覚を覚えるべきじゃないけどね。少年」


声のする方には黒いコートを着た眼鏡の女が立っていた。


「今日はここまで」


女がそう言い切ると小宮もリオも片付けを始めた。


「色々と事が立て込んでてね」


女はコートのポケットから携帯を出した


「これ君の分ね」


女は改まったように身だしなみを整えた


「自己紹介が遅れたね。私の名前はツバキ、紀里橋 ツバキ」


「宜しくお願いします。ツバキさん」


疲れ切った真也は小さく会釈だけすると

気絶するように眠ってしまった

第四話、ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は「戦闘」よりも「訓練」、そして

真也が“知らない世界”に本格的に足を踏み入れる回でした。


一回避けるだけ。

そのはずが、何度も死ぬ。

それでも少しずつ「何か」を掴み始める――

そんな過程を書きたくて、暗転を何度も挟んでいます。


リオというキャラクターも、初登場

見えないからこそ見えるもの。

彼女の視点は、今後も物語の裏側で重要になっていきます。


そして最後に判明した女の名前ツバキ

組織の「現実」を持ち込む存在として、これから物語を大きく動かしていく予定です。


真也が“守ると決めたもの”が、どんな意味を持つのか。

引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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