境界の向こう側
外からみた無機質で冷たい建物の内は暖かい光で満たされていた。
奥へ続く廊下は先が見えない程長くその脇には無数の扉があった
真也が建物の中を見ましていると女が
「もう、いいかな」
と言った。するとギュッと真也の体を縛っていた拘束具が
ゴトっと音を立てて床へ落ちる。
「苦しかったよね」
後ろから声が聞こえ振り向くとそこには
教室で庇ってくれた若い男の姿があった。
「隊長、彼女はこちらに」
男は床に落ちた拘束具を拾い上げ、
廊下のさらに奥、もう一本の道を指さした。
「そうか、じゃあこの後は君に任せるよ」
「え、隊長はどこへ」
「この件を先に上に話しておこうと思ってね」
「わかりました。それなら」
「とういうことで少年、後は彼に付いていって」
女はそういうとコートのポケットから携帯を取り出し
建物の奥へと続く廊下を歩いて行った。
その間に若い男は自分の胸元から名刺を出してきて、
真也に差し出す。
「僕は、小宮。まだ新米なんだ宜しく」
真也はしばらく名刺を見つめた。
白地に、黒文字。
簡素なデザインで、肩書の欄には短く部署名が記されているだけだった
「…小宮さん」
名前を呼ぶと小宮は少し照れたように笑った。
「敬語じゃなくて良いよ。ここ年功序列とかあんまり気にしないからさ」
そう言いながら、真也の視点が廊下の奥へ向いていることに気がついたらしい
「気になるよね」
小宮は、先ほど女が消えて行った方向をちらりと見た
「さっきの人は隊長なんだ」
「隊長」
「うん。現場の指揮を執ってる人。ああ見えてかなりの実力者なんだ」
「さっき”上に話す”って言ってたでしょ」
「上層部、ですか」
「そう。今回はかなりイレギュラーな件だから」
イレギュラー。
その一言で、真也は無意識に拳を握った
「……千恵は」
口に出すだけで胸が少し痛む。
小宮は、歩き出しながら話す。
「今は医療区画にいて、さっき僕が指さした廊下の奥だよ」
長い廊下を進む。
足音がやけに大きく響いた。
「それで、今はどうなって」
「眠ってる。とういうか眠らせてるかな」
小宮はあの女と違い、言葉に詰まったようにしどしど話す
「怖がらせるつもりはないけど…目覚めるとまだ危ない」
真也は、何も言えなかった
代わりに、廊下の両脇に並ぶ扉へ目を向ける
同じ形、同じ色
どれも区別がつかない
「ここは一体何なんですか」
率直な質問だった
小宮は少し考えてから
「簡単に言うと、ここは”境界線”かな」
と曖昧に答えた。
「表では普通の毎日が回ってる。学校があって、働いて、遊んで」
一つ角を曲がる
「でもその裏で、”普通じゃないもの”も確かに存在してる」
小宮は歩調を緩めた
「その間に立って上辺だけの秩序を守る。それが僕らG.I.C.M.」
「……宇宙人とか?」
「そうか、隊長から少しは聞いてるんだね」
小宮は苦笑いした。
「それだけじゃないけどね。」
「宇宙人以外…」
「人間の”力”とか」
「千恵みたいな」
「そう」
小宮は否定しなかった。
「今までにも、いたんですか」
廊下の先に少し開けた空間が見えてきた
「いたよ。数は多くないけど」
小宮は、静かな声で続ける
「力を制御出来ずに、自分や周りを巻き込み壊してしまった人も」
「……」
「逆に、誰にも知られずに普通に生きている人もいると思う」
真也は、ふと思い出した。
――知らなければ、普通。
女に言われた言葉が胸の中で反響する
「そしたら」
全身が微かに震える
「千恵はどっちになるんですか」
小宮は、手に持った拘束具を持ち直す
そして、一つの扉の前で立ち止まる。
「それを決めるのはこれからかな」
扉の横には小さなプレートがあった
<訓練区画>
「まだ”訓練”ってほどじゃないだろうけど」
小宮は言った。
「彼女を守りたいんだよね」
「はい」
小宮がズボンのポケットからカードを取り出しかざすと
扉がゆっくりと開く
中からは柔らかな光が溢れ出した。
「ここから先は君の知らない世界だし、簡単には戻れない」
小宮が振り返る。
「それでも来る?」
真也は今はまだ会えない千恵の姿を思い浮かべる。
結局、答えは最初から決まっていた
「行きます」
小宮は少し安心したように微笑んだ
「歓迎するよ」
真也は新たな世界へと一歩踏み出す
同時刻――
G.I.C.M.本部、最上階。
円形の会議室には、すでに数人が集まっていた
どの顔にも、現場とはまた違う緊張の色が見える
「状況報告を」
低い声が、部屋に響き渡った。
壁面に投影された映像には、
学校の教室を模したホログラムと
そこで記録された異常波形が映し出されていた。
「対象コード:未登録」
「推定Lv:5、および放出型」
「発動条件は、不明」
部屋の奥の方の席から声が上がる
「人為的誘発ではない。と?」
「現時点ではその判断が妥当かと」
眼鏡を掛けた壮年の男が、腕を組んだ。
「問題は他にもあるんじゃないか」
指先で映像を切り替える
そこに映ったのは――
真也が”それ”に立ち向かっていく瞬間
「この少年」
「観測のデータでは、彼がことに介入してから対象のエネルギーが安定している」
「抑制因子か」
「彼自身に能力は見られませんが、おそらくは」
会議室が一度静まりかえる
「……つまり」
誰かが言葉を選ぶように続けた
「彼は”対象の能力の主導権”を持っている可能性があると」
「前例は?」
「いえ、これは初の事例です」
眼鏡の男はゆっくりと息を吐いた
「非常に危険だ」
「直ちに――」
別の声が重なる
「待ってよ」
低くしっかりした声が部屋に響いた
視線が一斉に、部屋の一角へ向けられる
そこに座っていたのは、20代前半程の若い青年だった。
水色に染められた髪、少々派手なネクタイ
だが、その場の誰よりも落ちつた雰囲気を纏っている
「確かに”危険”ではあるよ。ただ、本人の意向は聞いてるんだろ」
眼鏡の男が眉をひそめた
「前例のないことだ、いつ彼が反抗してもおかしくない」
青年は肩をすくめ
「だから、だよ」
と一拍置いて、はっきりと言った
「彼は協力する意思を示してる。
それを無視して”危険”だけを理由に排除するのは、
組織としてフェアとは言えない」
そして、少しだけ口調を崩す。
「ねぇ、おじいちゃん。僕たちは彼らみたいな子の未来を守るのが仕事でしょ」
部屋には短い沈黙が訪れた
誰も青年の言葉に意見しようとしなかった
「記録しておけ」
眼鏡の男が淡々と続けた
「少年の対偶は保留、観測と適性評価を優先する」
それ以上議論は続かなかった
だが、この決定は少年の未来を大きく変えた
「私の手助けのつもりかな」
会議室から皆が出ていく中、眼鏡の女が青年に近寄った
「いいや、僕は組織のあり方を正しただけだよ」
「そうかい」
「これから、彼の訓練かい?」
「あぁ、小宮に任せた」
青年は満足そうな表情をすると、席を立ち会議室を出て行った
第三話も読んでいただきありがとうございます。
書き始めたばかりで誤字も多く、後々読み返して「あちゃ~」ってなってます。
万が一誤字を見つけたら教えていただけると幸いです。
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