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普通だった

第二話です。


今回は戦闘や大きな事件は起きませんが、

真也が「何が起きているのか」「何を選ばされているのか」を知る回になります。


一話で散らばった情報を、少しずつ整理していく話です。


今回は説明多めの回です。

最初に感じたのは揺れだった


一定のリズムで体が上下に揺さぶられ、耳の奥で、低く唸るような音が鳴る


暗闇から人とも言えない顔の”それ”が

何かを掴もうと手を伸ばしてくる。


―――千恵


彼女の姿が浮かんだとき、真也は目を開いた

また、体が上下に揺さぶられる


ゴトンと小さな段差を越える感覚

目が覚めても、低く唸るような音は鳴り続けていた。


それがエンジン音だと理解するまでにしばし時間がかかった。


視線を動かすと丁度窓があり外の様子が見えた。

風に吹かれ雪が横へ流れていっていた。


街灯の光を反射しながら、

無数の白が夜の中を滑っていく。


――車。


遅れて状況を理解すると同時に、胸の奥が嫌な音をたてた。

体を起こそうとして、

胸元に走る鈍い痛みに思わず顔をしかめる。


見たこともない機械が体をしっかり固定していた。


「……っ」


喉が焼けるように痛み声も出なかった。

そのとき、


「おはよう少年」


それは不思議と落ち着く声で、

まるで昔から聞きなじんだ人の声みたいだった


真也はゆっくりと視線を声の方へ移した。


隣に座っていたのは、背の高い女だった


黒いコートに、きっちりと整えられた身なり。

細いフレームの眼鏡の奥から、こちらを静かに見下ろしている


教室で見たあの女だ


「……」


彼女に話そうとしても、喉がひどく痛み声も出なかった。

胸から込み上げてくるもので息が詰まる。


不安。焦り。無力感――怒り。


「…チ、千恵は…」


やっと出てきた声は自分でも驚くほど、

弱々しく掠れていた。


女は少し目を細めて、


「無事だよ。」


とだけ言った。

その一言だけで、張りつめていた胸の内が、

ほんの少しだけ緩んだ。


「こ、こは…」


「移動中」


女は窓の外に目をやり、雪が流れ続けるばかりの景色を眺めていた。


「君と、彼女を安全な場所に運んでいるんだよ」


安全。

今の真也には、その言葉が現実味を欠いて聞こえた


「学校でい、タイ…何が…」


言葉を絞り出すたび、全身の荷が重くなる。

はっきりと覚えていた、日常が非日常へと変貌したあの一瞬の出来事。

わかっていても理解が及ばない。


人に見えていた。

”それ”は、


それで自分は…


「時間がある。順を追って説明しよう」


女はそう前置きしてから視線を戻した。


「まず、君が昼間見た転校生は”人間”じゃない」


一切の言い淀みもなく言い切る。


「この地球(ほし)の外の星からやって来た。地球外知性体君たちの言葉で言えば…宇宙人だね」


あまりにもあっさりとした言い方に

一瞬、思考が止まった。


「……は?」


間の抜けた声が出た。

女は気にした様子もなく続ける


「この世界には君たちが知らないだけで、そういう存在は普通にいるよ」


「昔から?」


「かなり前から」


「…なら、今までの俺たちの生活は、」


「”普通”だったよ」


女はすぐに返事を返してきた


「知らなければ、きっと普通のままだっただろうね」


その言葉に真也は唇を噛みしめた


知らなければ、普通。

気づかなければ、なかったこと。

じゃあ――

千恵は、


「…ち、千恵は」


女は、ほんの一瞬黙った。

それから、静かに言った。


「彼女は人間だよ」


「…でも」


「同時に、人間としては異常だね」


異常。これ以上今の真也に刺さる言葉はない。


「なんというか、力に目覚めたという表現が正しいかな」


「力…」


脳裏にあの時の光景が蘇る。


空気が歪み、周囲のモノが引き付けられ

現実とはかけ離れた空間。


「彼女自身は、何をしたかを理解してない」


女は断言した。


「もちろん、制御もできない――」


胸の奥がひんやりとした。


「それなら、あいつらが銃を向けたのは」


「正しい判断だろうね」


淡々と話すその声に真也は次第に苛立ってきていた


「力を制御できないのは非常に危険だし、即座に抑制する必要がある」


「……」


「でも」


女はそこで言葉を切った。


「君がいたことによって状況は大きく変わった」


「…俺?」


「彼女の反応は君が近くにいる間、明らかに変化していた」


「俺は何もしてn」


「それでも、ね」


女は微かに笑った


「君の存在は彼女にとってそれだけ特別ってことだよ。君自身”力”は使ってないし、持ってない。でも、”影響”は与えてるんだよ。」


影響。


「だから君は今ここにいるんだ」


女は、真也の固定具に目を落とす


「拘束してるのは君を疑ってるからじゃないよ」


また、真也の方に向き直る


「混乱状態の若者を、無防備に扱うほど、私たちも無責任じゃないさ」


「……信用しろって?」


まだ少し掠れた声で真也は言った。


「無理だろうね」


女は、ほんの一瞬口元を緩めた


「だから、最初から信用してもらおうなんて思ってないさ」


車内に短い沈黙が落ちる

エンジン音と、タイヤが雪を踏みしめる音だけが規則正しく続いていた。


「私達は、G.I.C.M.」


そういうと女は襟の所につけたバッチをこちらに向けた


「この地球で、人とそうでないものの間に立つ組織だよ」


あまり良い響きの名前ではなかった。


「君の彼女は、今”保護対象”になってる」


真也は眉をひそめた


「監禁とかじゃないんだな」


「まさかそんな酷いことはしないし、危害を加えるつもりは全くないよ」


「じゃあ、俺は、」


女はすぐには応えなかった。代わりに窓の外を指差す

雪の向こう、暗闇の中に、

巨大な人工物の輪郭が浮かび上がってきた。


無機質で冷たく、普通の生活とは切り離された場所。


「詳しい話はあそこに着いたらするよ」


車はゆっくりと速度を落としていく。


「君には選択肢がある」


「…選択肢」


「一つは、このことに<関わらない>という選択肢」


女の声は変わらず冷静だった。


「記憶処理を受けて、日常に戻る。何も知らない君に戻るんだ」


「でも、それって」


「彼女のことを諦めるってこと」


心臓の音が大きくなる


「もう一つは」


女はまっすぐ真也を見た


「彼女のそばに立ち続けるという選択肢」


「その場合君は――」


車が完全に止まった

ブレーキの感触が、はっきりと伝わる。


「もう、”知らない側”ではいられない」


扉が開き真也は雪の上に降り立った

目を閉じて深呼吸をする。


あの時の強い思いが再び鮮明に蘇る。


「決断は今じゃなくて良いよ」


女は真也の一歩前を歩いていく、

巨大な扉が開き中から眩い光が溢れ出す。


――守ろう。


何度考えても理由なんて、

それだけで十分だった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第二話では、世界観と立場の整理を中心に描きました。


真也はまだ「選んだ」わけではありません。

ですが、心の中ではすでに答えが見え始めています。


これからどんどん話は動きだします。


引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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