オカルト
サイレンの音が近づいてくる
遠くで鳴っていたそれは、庭の塀の外で止まり、慌しい足音に変わった
「こちら第三部隊、対象を確認。医療班は怪我人を」
「担架をこっちに」
真也は千恵を膝に乗せながら、その様子をぼんやりと見ていた
腕の中に体温が伝わるが、どこか現実味がない。
ここ数日で真也の人生は大きく変わった
それに適応するように真也も大きく変わっていった
千恵は眠っている
医療区画で見た時と同じ、静かな寝顔
ただ、違うのは彼女の力を真也がはっきりと認識したということだった
「夢じゃないよな」
小さく呟く
答える者は誰もいない。
足音が近づく
「ごめん、大丈夫だったかな」
息を切らしながら話して来たのはハルだった
「何とか」
救助に来た隊員達を振り切って来たのか後から隊員がぞろぞろやって来た
「早く、治療を受けましょう」
隊員が引き戻すが、それを振り払い
ハルは真也と千恵に近づいた
「ほんとに、ごめんなさい」
必死に謝るハルに真也は戸惑うしかなかく、慰めることも出来なかった
「彼らも怪我しているぞ!」
隊員の声が飛ぶと、医療班の数人がこちらへ駆け寄ってきた
「そこの二人を担架に――」
真也は近づいた隊員に向かって
「いや、僕は大丈夫です」
そう言って千恵を持ち上げ担架に寝かせる
医療班の男は首を横に振る
「見た目だけでは判断できない。現場がこの有様だ」
男は手際良く真也の腕を取ると、スキャナーのような機械を当てた
赤い光が腕をなぞる
「軽い外傷だけだな。良かった」
「この子は大丈夫なんですか」
真也は千恵を指さす
男はしゃがみ込むを千恵の瞼をそっと開いた
「呼吸も安定してるし、ただ眠っているだけかな」
「念のため搬送します」
別の職員が来ると担架は運ばれて行った
千恵の髪がさらっと揺れる
「………」
本当に、一瞬の間の出来事だった
庭は半分以上崩れて、塀もひしゃげている。
地面には焼けたような跡も残っていた
真也の背中に寒気がはしる
(あれは…千恵の力だ)
「新人君」
ハルが小さな声で呼んだ
振り向くと彼女の顔はまだ青い顔をしていた
「ほんとに…ごめん」
「いや、出しゃばったのは自分なんで」
真也は自分で言ったことに確かな責任を感じていた
あの場、あの時
訓練生であろう自分が戦いに赴く必要は全くなかった
チーム全体を危険に、それどころか。
(俺が死ねば千恵も殺されるんだよな)
ハルはうつむき、拳を握った
「それも踏まえて守るのが僕の役目だから」
真也は何も言えなかった
担架が庭の外へ運ばれていく
千恵の姿が照明の向こうへ消えていった
落ち着きを取り戻せない自分がいる
受け止めたつもりの現実に圧し潰されそうになる
頭の中で何度もあの光景が繰り返される
空気をも圧し潰す圧
触れることすらも拒むあの力
一部始終を見て改めて実感した
彼女自身が危険であることを
「おーこれはまた派手にやったね」
間延びした声が聞こえた
真也とハルは同時に声の方を見る
隊員達の隙間を抜けて、水色髪の男が歩いて来た
男は白衣を着ていたが医療班とはまた違っていて
どこか場違いな雰囲気だった
男は周囲を見回した
崩れた庭
砕けた地面
ひしゃげた塀
そして地面に残る焼け跡
「ふーん」
男はしゃがみ込み、指でそっと跡をなぞった
「爆発じゃない」
「火事ってわけでもない」
独り言のように呟く
近くにいた隊員が困った顔をした
「研究班はまだ立ち入り禁止ですよね」
「こういうのは速い方がいいだろ」
男は軽く笑う
隊員は溜息をついたがそれ以上は止めなかった
男はゆっくり立ち上がる
そして、真也の方を向く
視線が合う
その目は妙に鋭く透き通ってきた
「君」
声を掛けられる
「はい」
「ここにいたんだろ」
男は顎で担架が消えた方向を示す
「……あの子と」
真也は少し間をおいて頷いた
「そうです」
男はほんの一瞬、真也を観察するように見つめる
その目は何かを測っているようだった
「なるほどね」
小さく呟くと
にやりと笑みを浮かべた
「面白い」
真也は眉をひそめる
「……何がですか」
男は肩をすくめた
「いや、ただの気分だよ」
そう言ってポケットに手を突っ込む
「自己紹介しておこうか」
男は少しだけ姿勢を正した
「G.I.C.M研究部門のニノマエだ」
軽く手を挙げる
「まぁ、要約すると変な現象を調べる係」
そして真也を見ながら続けた
「君たちみたいなのをね」




