雪の日
この物語は、
「もし宇宙人がすぐ隣で、人間と同じ日常を送っていたら」
という想定から始まる、SFバトル×アクションの物語です。
重たい設定もありますが、物語自体は
一人の少年と少女の関係を軸に進んでいきます。
よろしければ、少しだけお付き合いください。
雪の降る朝、駅へ続くいつもの道を千恵と真也は並んで歩いた。
彼女は眠そうな目をこすると、少し先を歩く真也の顔を覗き込んだ。
「今日数学の小テストあるんだって、知ってた?」
「うん、黒板に書いてあった」
「えぇ…なんで教えてくれなかったの」
「言った」
「聞いてない」
普段と変わらない他愛もない会話。
たぶん、どこにでもある風景。
「ふぁあ」
千恵はあくびをして、真也の袖を軽く引っ張た。
「……ねぇ」
「なに」
「学校まで手繋いでて良い?」
「別に良いけど」
「やった!」
千恵は安心して真也の手を握りしめた。そんな彼女を見て彼は微笑んだ。
――この日常が
世界にとってどんなに奇妙なものかも知らずに
手袋越しにでもなぜか千恵の手がこわばっていくのが伝わった
校門の前で、いつもなら自然とほどけるはずの手を、
千恵は強く握りしめて離さなかった
「……このまま行こう」
「教室まで?」
「うん」
「目立つだろ」
「今日だけ」
真也はほんの一瞬だけ迷って、小さく溜息をつく。
それでも、結局、手は離さなかった
理由はわからない
ただ、離してしまうと、
何か大事なものが、欠けてしまう気がした。
校舎が近づくにつれて、
風に乗って、チャイムが聞こえてきた。
その音は、
なんだかいつもより儚い感じがした。
校門を過ぎた頃後ろから誰かが声を掛けてきた
「千恵!一緒に教室行こうよ」
「真理。おはよう」
千恵は真也に小さく手を振ると校舎の方へ姿を消してしまった。
大勢が挨拶を交わす中真也は誰とも話すことなく教室についた
先に校舎に入った千恵が教室の隅で友達と楽しそうに話していた。
教室の窓から曇り空を見上げて、真也は机に顔を伏せた
予鈴がなって、担任が教室に入って来て教室は一期に静寂に包まれた
「えー、皆。今日は転校生を紹介する」
その一言で教室の空気がまた変わった。
一人は椅子を引き、一人は後ろに振り返った。
「入って来なさい。」
扉が開いて、一人の生徒が入ってくる。
制服きちん着こなしていて、顔立ちも良い。絵に描いたような美男子だった。
女子たちが来たぞと言わんばかりにザワついた。
転校生は凛とした立ち姿で黒板に名前を書いた
「三上浩一です宜しくおねがいします」
耳なじみの良い音の並び。
「席は…窓側の空いてるとこでいいな」
転校生は軽く会釈をすると、指定された席へ向かう。
が、三上は途中で立ち止まり、額に手をあてた。
「…やっぱり、居心地悪いなここ」
すると、教室の窓が大きく震え始めた。
三上がこちらに振り向いた時そこには先ほどまでも美貌は愚か
人の顔もしていなかった
声が出るよりも早く、辺りの空間が歪んだ
チョークが砕け、机が軋み、
教室という箱そのものが、内側から揺さぶられているみたいな感覚。
遠くで誰かが叫んでいるような気がしたが、
その声は途中で千切れ、雑音に溶けていった。
人だった”それ”が、一歩踏み出す
床にヒビがはいる。
激しい耳鳴りに襲われる。
真也は耳を抑えた
それは、多くの生徒の仲カラ迷わず千恵に近づいて行った。
音が、情報が、感覚がいっぺんに押し寄せてくる。
動かなきゃ、
危ない、
逃げたい、
――でも逃げたら…
守らなきゃ
頭の中が知らない言葉で溢れていく。千恵は激しい頭痛に襲われ身動きが取れなかった
数値。波形。許容値。
意味はわからないのに「使い方」だけわかってしまう。
また、空気が変わった
血みどろな、真っ黒い空気に
「千恵……!」
猛烈な吐き気、視界もおぼつかない中真也は動き出した。
怖かった。
意味も分からなかった。
それでも、彼女がそこにいる。
前に進む理由なんてそれだけで十分だった。
「やめろよ」
”それ”の肩に真也は手を置いた。
全身なまりみたいに重く、
立っているだけで精一杯だった。
ゆっくりと”それ”が振り向く
「ネズミがぼくに触れるな」
低く、粘りついた声だった。
言葉そのものよりも、そこに込められた”意思”に
真也は血の気が引いていった
それでも手は離さなかった。
「彼女に、近づくな」
全身震えていた。
目の前の”それ”は”死”そのものを形どっていた。
それでも、真也は一歩も引かなかった。
”それ”はほんの一瞬真也と目を合わせた
まばたきの瞬間、その目は真也を見下していた。
遅れて叩きつけられる衝撃がやってくる。
息が詰まる
「真也――!」
薄れゆく意識、
千恵の叫び声が、教室に響いた。
空気が脈打った
千恵の周囲で、目に見えない波が膨れ上がる。
彼女の頭の中に溢れていた数値が、一つまた一つとそろっていく
「…来ないで」
拒絶の言葉とは裏腹に、
力は周囲のモノを引き付けた。
超音波。
衝動的で、制御のない放出。
引き付けられたモノは、縦横無尽に飛び散った
”それ”は後ずさりすると、どこかへ姿を消してしまった。
その瞬間、
「対象、Lv5反応確認」
冷たい声が、空気を切り裂いた。
いつの間にか、教室の入り口見知らぬ人影があった
「対象は危険状態。抑制措置に移行する」
一人が躊躇なく銃を構えた
真也は最後の力をふり絞って必死に訴えた。
が、かすれた声は彼らには届かなかった。
遅れて一人の若い男が入って来て、真也のところへ駆け寄った。
「大丈夫、もう安心だよ。」
若い男は、真也を担いで外に出そうとした。
「やめ…あの子ハ、ワルクない…」
真也はありたっけの声で男に言った。
男は、千恵に目をやると交互にこちらを見た。
「あのコ…じゃナい」
真也は男のスーツの袖をつかんで必死に訴えた。
男は小さくうなずくと立ち上った
「待ってください!」
両手を広げて、千恵と銃口の間に割って入った。
「はいはい、どうしたの」
また一人、教室に今度は背の高い眼鏡の女が入ってきた。
男たちは息を呑んで女に目をやった。
「状況はなんとなく察しがついた。確かに彼女は暴走状態だけど、ほら。」
眼鏡の女は、軽く顎で示した
「新人君があれだけ近づいてもなんにもしてない。」
若い男は改めて、千恵の方を振り向く。
「敵性が見えないなら、判断は急がない方がよさそうだね」
眼鏡の奥に見える瞳には
揺るぎない自信と、
それでも、僅かな緊張が宿っていた。
第1話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、日常から一気に非日常へ踏み込む回でした。
千恵と真也、そして謎の人物たち、
今後少しずつ世界が見えてくるので、
続きも読んでいただけたら嬉しいです。




