表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
指摘事項なし  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/31

第二十九章 同一化

佐原義明の死亡後、三浦恒一は一つの作業を自分に課した。


過去の記録を、並べて読むことだった。


舟木隆と佐原義明。二人の入所記録、ケアプラン、介護記録、事故報告書、往診記録、死亡診断書。そのすべてを、日付順ではなく、項目ごとに重ねていく。


最初に気づいたのは、文体だった。


「全身状態安定」「摂取良好」「著変なし」


助詞の使い方、改行位置、句読点の打ち方まで、驚くほど似通っていた。意図的なコピーではない。誰かが真似たわけでもない。現場で使われる“正しい文章”が、自然と同じ形に収束しただけだった。


次に数値が重なった。


入所後三日目の体温、五日目の血圧、夜間帯のSpO2。完全一致ではないが、判断を変えるほどの差はなかった。いずれも「経過観察」で済まされる範囲内。


食形態の変化も同じだった。


当初は刻み、次に常食、トロミは「状況により」。その移行理由は、どちらも曖昧だ。「本人の希望」「摂取状況良好」。誰が決めたのかは書かれていない。


決定者がいないこと。それ自体が決定だった。


夜勤体制も一致していた。配置人数、巡視間隔、ナースコールの平均応答時間。これは偶然ではない。施設の仕様だからだ。


つまり、二人は同じ条件で、同じ環境に置かれ、同じ運用を受けた。


違ったのは、立場だけだった。


一人は、この施設を作った人間。 一人は、その後に入ってきた、ただの利用者。


だが、死に至る経路は、完全に同一だった。


三浦は、ここで初めて確信する。


佐原の死は、佐原固有の出来事ではない。 舟木の死を、なぞっただけだ。


そして同時に、逆も成り立つことに気づく。


舟木の死もまた、個別の出来事ではなかった。 あれは“最初の型”だった。


型ができれば、人はそれに合わせて動く。記録を書く。判断を省略する。疑問を抱かなくなる。


佐原の死亡診断書に記された時刻は、舟木のものと、ほぼ同じ幅の誤差を含んでいた。分単位のずれはあっても、構造は同じだった。


三浦は、書類を閉じる。


ここまで一致してしまえば、もはや偶然ではない。しかし、同時に、事件でもない。


誰も、二人を殺してはいない。


ただ、二人は、同じ手順で死んだ。


それだけだ。


三浦は、この比較結果を誰にも提出しなかった。提出先が存在しないからではない。提出しても、意味がないと分かっていたからだ。


二つの死は、すでに一つにまとめられていた。


行政にとっても、医療にとっても、翠松園にとっても。


違いは、もはやノイズでしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ