第七十九話 いざ城内へ!
数日かけて全て周り終えた私達の手元には、たくさんの署名が集まった。
署名を貰う際に事情を聞いたのだけど、どうやらハリー様は、お医者様に大金を握らせて嘘の診断書を書かせたみたい。中にはそれを拒絶するお医者様もいたが、その時は家族や財産を人質にして脅していたようだ。
脅された人達は、とても怯えていた。私達が必ず何とかするからと必死に説得しなければ、署名の一つも書いてもらえないくらい。
一方、セラピアとピースは、あの一件に関わった精霊達に声をかけて回り、たくさんの協力者を集めてきてくれた。
こうして無事に全ての準備を終えた翌日の真昼間、私とルーク様は、協力者であるお医者様と一緒に、こっそりと城の裏庭にある茂みに身を潜めた。
「突然呼び出してしまったのに来ていただき、誠に感謝します」
「いえ。命を救うという立場上、あなたの弟様の所業は見逃せませんからね」
以前いただいた検査結果の血液が、ちゃんと証拠になるように、そしてもし再検査をさせられる展開になってしまった時に、ハリー様に不正をさせられないように、彼に協力者として同行をしてもらっているの。
彼の表情は、以前会った時と同じでクールだが、声に若干の怒気を感じる。
「では、そろそろ行動しましょう。セラピア、みんなの準備はよろしいでしょうか?」
『ちょっと待って……うん、全員配置についたみたいよ』
「わかりました。では……よろしくお願いしますわ」
一緒に隠れていた連絡係のセラピアが、城の中で待機する精霊達に開始の合図を告げる。すると、少しずつ城の方が騒がしくなってきた。
「おい、なんだこの騒ぎは?」
「はっ! なにやら、城の中で不審なことが起きているようでして!」
「なにぃ!? 侵入者か!?」
「いえ、報告によると、そういうわけでは……不審なことと言っても、突然皿が落ちて割れたり、風も吹いていないのに洗濯物が何度も揺れたり、噴水から水しぶきが起きたり……」
「……? 子供のイタズラのようだが……確かに不審だな……」
裏庭で城を守る兵士の会話が聞こえてくる。何か起きているけど、対応するべきかどうか迷っている感じだ。
放っておくのも気持ち悪いが、だからといって大事にするような内容ではない……まさに作戦通りだ。
「報告! さらにいくつか不審な報告を確認!」
「今度はなんだ!」
「はっ! 絵画が僅かに傾いたり、野菜がかじられていたり、花瓶の花が入れ替わっているとのことです!」
「だから、その子供のイタズラなようなものはなんなのだ!? 放っておくのも気になるし……各自、不審な現象を調べろ!」
「報告! 女性の使用人の下着が、兵士の宿舎にいくつか紛れていたとのことです!」
「ばっかもーん! 誰だ、そんな不埒な真似をした輩は!? この私がその根性を叩き直してやる!」
最後のは、精霊のイタズラなのか微妙なものも聞こえたけど……なんにせよ、城の中は混乱しているようだ。
「これが、事前に周知していただいた、精霊のイタズラですか。とても興味深いですね」
『中の精霊から連絡が来たわ。思ったよりも混乱しているみたいよ! このままイタズラを続けさせるわ!』
「こちらの思惑通りですわね。それで、ハリー様とアルバート様の様子は?」
『ちょっと待ってね……ハリーは不審なことを面白がって、アルバートと一緒に城の中を見て回ってるみたい』
そこは、王族として事態の収束を図るものじゃないのかしら……いくら大事にならないようなことでも、ルーク様なら絶対に怪我人が出ないように、徹底的に調べさせるでしょうね。
『あっ、ピースからも連絡が来たわ。無事にあちこちに、毛をまき散らしてやったんだなぁ~って言ってるわ』
「君、実はモノマネが得意だったりするのかい?」
「とてもよく似ておりましたわ」
『得意ってわけじゃないけど、付き合いは長いから、特徴をとらえてるってだけよ……じゃなくて! そろそろ侵入してもいい頃合いだと思うわよ!』
「それじゃあ、予定通りに動こう」
ルーク様を先頭に、城の中に突入……なんてことはせず、裏庭にある大きな木の下にやってきた。
一見すると、ただの木なのだけど、ルーク様が木に触れながら魔力を流すと、地面が低い唸り声を上げながら動き、隠し階段が姿を現した。
「隠し階段? ルーク様、これは?」
「なにかあった際に、王族が避難するための隠し通路だよ。父上の部屋に繋がる道もあるんだ。ちなみに、ここ以外にも外に繋がる隠し通路もあったりするよ」
なるほど、一国の主たるもの、いつどんな厄介ごとに巻き込まれるかわからない以上、こういうものも必要なのね。
それにしても、随分とかび臭い通路だ……なんだか、実家にいた時に住んでいた、ボロボロの家を思い出してしまって、気分が悪くなりそう。
「お言葉ですが、この通路があるのなら、騒ぎを起こす必要は無かったのでは?」
「囮がいないと、気づかれてしまう可能性がありますからね。失敗は許されない以上、念には念をということです」
「なるほど。不躾な発言をしてしまい、申し訳ございません」
「いえ、あなたの考えはもっともですからね。お気になさらず」
ルーク様は、真っ暗な隠し通路を魔法で照らしながら、私の手を握って先導する。最初は直線だったが、すぐに上に上がる階段が私達を出迎えた。
「この上だよ。えっと……確かこの辺りに……あった」
階段の途中で、壁に描かれた、小さな魔法陣が見つかった。その魔法陣に、ルーク様の魔力を注ぎ込むと、階段の上からゴゴゴッ……と、重い音が聞こえた。
「凄い仕掛けですね」
「ええ。これは王家の者にしか開けられない仕組みになっているのですよ」
そうよね、簡単にあけられてしまったら、避難に使えないもの。これくらいするのは、当然のことだ。
「ごほっ……な、何者だ!?」
「父上、ご無事ですか!」
階段を上がると、そこは大きな部屋の暖炉だった。その暖炉を抜けると、ベッドで横になる国王様の姿があった。
「る、ルーク王子様??」
「すまない、今は時間が惜しいから、静かにしてもらえると助かる」
「へっ? ぐぅ……」
ルーク様が軽く指を振っただけで、国王様の護衛をしていた兵士は、深い眠りについてしまった。その手際の良さには、感動を覚える。
「ごほっごほっ……ルーク、それにシャーロット……無事だったのか。最近全く音沙汰がなくて、心配していたのだぞ……特にシャーロットよ。パギアが連絡が取れなくて、とても心配して……ごほっ!!」
そうだ、色々とあり過ぎて、パギア様に連絡をするのをすっかり失念していた。事が収まったら、謝りに行かなくては。
「国王様、あまり興奮されてはいけません。毒が体に回ってしまいます」
「おお、そなたは以前、余の診断をした医者ではないか。して、毒とは……? それに、どうして避難通路から……??」
「父上、お話は後に。まずは父上の体を治療します。確認ですが、僕の魔力を流し込めばいいのですよね?」
「それで結構です」
ルーク様は、お医者様の端的な回答を聞いてから、国王様の胸に手を当てる。
そして、一度深呼吸を挟んでから、魔力を流し込むと……国王様の顔色が少し良くなり、とても苦しそうだった咳がピタリと止まった。
「おお、あれだけ苦しかったからだが、とても軽くなっているではないか! ルーク、いつの間にこのような技術を会得していたのだ?」
「父上、落ち着いて聞いてください。実は――」
ルーク様が代表して、国王様の体から遅効性の毒が検出されたことや、その毒の元である花をハリー様が進んで世話をしていることや、禁術によって死にかけたこと、その首謀者であるハリー様に気づかれないように、少し隠れていたことなど、全てを洗い浚い話した。
「は、ハリーが余を亡き者にしようと? 信じられん……」
「ハリーのことですから、なるべく早く、そして自然に国王になるための手段なのでしょう。ご丁寧に、原因究明に何度も医者を寄こし、そのたびに金を握らせ、脅していたのですから」
「国王様、こちらに被害に遭ったお医者様からの署名がございますわ。それと、国王様のお体から採取した、毒の成分が含まれた血液もございます。これがハリー様の悪行の証拠になるかと存じます」
「ぐぬぬ……息子に暗殺されるなど、信じたくはないが……わかった。まずはハリーを取り押さえ、しっかりと調べ上げたうえでどうするかを決める。それでよいな?」
「私は大丈夫ですが、ルーク様は?」
「僕も問題ないよ」
これで、とりあえずの方針は決まったようね。あとは、ハリー様の悪事の証拠が見つかればいいのだけど、これに関しては待つしか出来ない。
「そうだ、遅れてしまったが……皆の者、余を救ってくれたこと、心から礼を言わせほしい。そして、余の方針のせいであのような愚かな息子を生み出してしまい、すまなかった」
「父上……」
『話してるところ悪いけど、こっちにハリーが来てるみたいよ!』
「思ったより早いですわね……そうだ! 国王様、少し寝たふりをしていただけませんか?」
「む? あ、ああ。わかった」
素直に寝たふりをしてくれた国王様に感謝していると、突然部屋の扉が勢いよく開かれる。そこに立っていたのは、珍しく冷や汗を流すハリー様だった。
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