第七十七話 病の正体
何度か休憩を挟みながら空の旅を続けていると、夕焼けから星空に変わりそうなくらいの時間に、とある港町が見えてきた。
「あそこが目的地だよ」
「大きな港町ですのね。私、港町に来たのは初めてですわ」
「そうなんだね。色々な人や物が行き来する活気のある場所だけど、結構血の気が盛んな人も多いから、なるべく僕から離れないようにね」
「ありがとうございます。とても頼もしいですわ」
今日も頼もしいルーク様に感謝を述べながら、背中に強く抱きつく。
頼もしくて格好良いその背中に抱きつきたかったのもあるが、もうこの空の旅も終わりと思うと、名残惜しくて……つい。
「この時間だと、酒場が盛り上がっているだろうね」
「酒場ですか……ちょっと興味がございますわ」
「君の気持ちを汲み取りたいけど、あまり時間は無いんだ。今度、余裕が出来たら来よう」
「……わかりました」
そうよね、今は国王様の容体のことを聞いて、どうすれば良いかを考えないといけない。遊んでいる暇は無いわね。
「おっ、そこの可愛い姉ちゃん、俺と一杯どう?」
「お断りします」
いかにも悪そうな人が声をかけてきたが、私はそれを軽くあしらいながら、ルーク様と腕を組んで、その場を後にする。
少し酔っぱらってる感じだったから、羽目を外して女性でも誘おうという魂胆だろうけど、私はそんな軽い女じゃないわ。
「それで、そのお医者様はどこにいらっしゃるのですか?」
「こっちだよ」
ルーク様と共に、多くの人で賑わう繁華街を抜け、住宅街へとやってきた。さっきまでの賑やかはが嘘のように、この辺りはとても静かだ。
「この家だよ。っと、その前に……変装を解除しておかないとね」
ルーク様がパチンっと指を鳴らすと、先程私達の見た目が変わった時と同じ現象が起きた。それから間もなく、ルーク様の姿が慣れ親しんだものへと戻った。
自分の姿は見れないけど、きっと私も元の姿に戻ったと思う。せっかくルーク様とお揃いだったから、少し名残惜しいわ。
「ごめんください、ルークです」
「……今日はどの酒を飲みましたか?」
「赤ワインを二杯、エールを三杯飲んだ後に、酔い覚ましの水を少々」
えっと? お酒なんて一滴も飲んでいないのに、一体何を言っているのだろうか。それに、中から聞こえてくる声……恐らくお医者様だと思うけど、どうしてそんな意味のないことを聞いてくるのかもわからない。
「どうぞ」
がちゃりと鍵が開く音と共に、中から眼鏡をかけた、いかにも知的な雰囲気の男性が出てきて、私達を出迎えてくれた。
「今お茶を出しますので、こちらでお待ちください」
私達を客間に通してから、お茶の準備をしてくれている間に、先程のやり取りの意味を聞いてみようかしら。
「ルーク様、先程は何のお話をされていたのですか?」
「合言葉だよ。今回の内容は、デリケートなものだからね。僕の偽物が来てもわかるように、合言葉を設定したんだ」
なるほど、そういうことだったのね。内密に呼んだと言っていたし、慎重に慎重を重ねるのは良いことだと思う。
「どうぞ、粗茶ですが」
「ありがとうございます……ふう、相変わらずあなたの淹れる薬膳茶はおいしいですね」
本当だ、すっきりした飲み心地で、とてもおいしい。薬膳なんて聞くと、あまりおいしくないようなイメージだが、これなら万人に受け入れられそうだ。
「それで、父上の容体はどうでしたか?」
「対処はしましたが、まだ危険な状態です。急ぎ調べたところ、体中に遅効性の毒が蔓延していました」
「毒……!?」
あんなに調子が悪そうにしていたのは、病気じゃなくて毒のせいだったのね。酷いことをする人もいたものね。心から軽蔑するわ。
「初めて見るものでしたので、知人に詳しく調べてもらったところ、かなりの遅毒のようです。これでは、毒を盛られているとは気づけないでしょう。その特性を利用して、病死に見せようとしたのかと」
「あの、それって他のお医者様でも気づくようなものだと思うのですが、指摘する医者はいなかったのですか?」
「見つけるのは、かなり困難なものですが、不可能ではないかと」
「なら、どうしてですの? たまたま診てくださったお医者様が、見つけられなかっただけでしょうか?」
「医者は全てハリーが呼んでいた……それが答えだよ」
ハリー様の名前が出た時点で、大体が察せた。
あの卑劣な人がすることだから、形だけはお医者様に診せて、裏で金を握らせたり脅したりして、特に異常はないと診断させていたに違いない。
「ちなみに、毒の成分は、この白い花から採取できるものです」
「花に毒、ですか? あれ、なんだか見覚えがあるような……?」
「これも調べたのですが、この花は野生には生息しておりません。品種改良されたものを、王家が世話をしているものだそうです」
そうだ、以前ルーク様と行った庭に、同じものが咲いていた。だから見覚えがあるのね。
あんな綺麗に咲いている花に、人間を苦しめる毒があるだなんて。見た目に騙されてはいけないということね。
「そういえば、ハリーがこの花を好んでいて、自分で世話をしていると、使用人が話しているのを聞いたことがある。その花と、父上の体にあった毒が一致すれば、証拠になるだろう」
「そう仰るかと思いまして、国王様の血液を、こちらで管理しております」
さすがというべきか、用意が周到というか……ルーク様が内密でお願いした腕利きのお医者様なだけある。
「ちなみにですが、この毒は使いやすいものなのですか?」
「それは、実際に見ていただいた方が早いかと。ルーク様、この花に魔力を流し込んでいただけますか?」
「ええ、もちろん」
ルーク様は、白い花を持って魔力を流す。すると、綺麗な花ビラから段々と溶けていき、ドロドロした液体へと変化した。
「見ての通り、花に魔力を流すとこのようになります。ここから毒を摘出できるのです。こうなってしまえば、摘出は簡単ですが……これを行うには、一つ大きな問題があるのです」
「問題とは、一体なんですの?」
「知人と協力して調べに調べたところ、この花が反応する魔力というのは、王族が持つものだけという仮定に至りました。なので、こうして協力をしていただき、仮定が正しいか調べさせていただこうかと」
そんな厄介なものを用意するだなんて、あまりにも用意周到だわ。ここまで来ると、逆に尊敬をしてしまいそうになる。
ただ、そんな悪人の卑劣な手を、この短い間に、全てを調べられた、彼とその知人の知識と行動力は、称賛に値する。
「なるほど……世間一般には知られていない毒を用いれば、気づかれるリスクは下げられる。調べようにも、原因がわからない。そうして父上を病死に見せかけて、亡き者にしようとしたのか」
「このまま国王様が亡くなれば、王位継承権を持っているハリー様が国王になってしまうのですよね?」
「そうだね。それだけは阻止しないといけない」
このまま放っておけば、大変なことになってしまう。早く手を打たなければ。
「その毒は、どのようにすれば解毒出来るのですか?」
「こちらも、王家の方の魔力を使えば、解毒は簡単に可能です」
思ったよりも、方法自体は簡単なのね。その代わりに、見つけるのも治すのも、王族がいなければいけないと……厄介極まりない。
「貴重な情報、ありがとうございました。約束の報酬は、こちらです」
「確かに受け取りました。ああ、こちらは摘出した毒素が入っている血液です」
沢山のお金が入っていると思われる袋と交換するように、少量の血液が入った瓶をもらった。うっかり落としたりしないようにしないと。
「それじゃあ、我々はそろそろお暇します」
「そうですか。では、またなにかありましたら、いつでもご連絡ください」
「ありがとうございます。シャーロット、いこうか」
「はい。失礼いたしますわ」
お医者様に分かれに挨拶を告げてから家を後にすると、裂け目を開いて無事に家に帰ることが出来た。
帰ってすぐに、反動が来るかと思って身構えていたけど、思ったよりもルーク様に反動は無く、せいぜいちょっと疲れる程度にすんだ。
ルーク様が無事でよかったわ。さて、あとは国王様にこのことを知らせて、治療をした後、ハリー様をどうにかしないといけないのだけど……どうするのが一番確実だろうか……?
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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