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【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました  作者: ゆうき


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第七十五話 もういない……

 迎えに来てくれたホウキ達に連れられて、無事に小屋まで戻ってきた私達は、そのままベッドに寝かされ、ホウキ達に怪我の手当てと着替えをしてもらった。


 とても大きな出来事を終えた後のベッドが、こんなに心地いいものだとは知らなかった。油断すれば、ものの数秒で眠りに落ちてしまいそうだ。


『ご主人、シャーロット、大丈夫?』


「ええ、大丈夫よ」


『薄々分かってたことだけど、このホウキって多芸よね。どう見ても、掃除くらいしか出来なさそうなのに』


「そりゃあ、僕が丹精込めて作ったからね。色々できるのさ」


 ……やっぱり、ルーク様が精霊と話をしているのに、違和感しかない。

 彼女もそれは同じなのか、さっきからずっと、どこかぎこちない感じがする。


「そういえば、君の他にもう一人いたはずでは? もしかして、僕が見えていないだけ?」


「そういえば、私も見ておりませんわ」


『…………』


 あの子だったら、こんなぎこちない彼女の姿を見たら、絶対に出てきてからかうはずなのに、一向に姿を現さない。


 そもそも、彼女が私達のところに来た時から、彼の姿は一度も……まさか……いや、そんなことはないわよね。私が心配性すぎるだけだ。


『あいつは……もう、いない』


「いないって……どういう……」


『いないものはいないの! 私を庇って、あの黒い連中にやられちゃったの! 思い出さないようにしてるんだから、聞かないでよ!』


 小屋の中に、彼女に悲痛な叫び声が響き渡る。


 ぎこちなかったのって、もしかしてルーク様は関係なくて、彼がいなくなったから……?


「……すまない、僕の配慮が足らなかった」


『ううん……知らなかったんだから、仕方ないよ。私こそ、大きな声を出してごめん』


「…………」


 彼女の寂しそうな様子からして、嘘をついているということはなさそうだ。


 ……彼と知り合ってから、毎日の様に会って、話をして、からかわれて、イタズラをされて……やめてほしいと思ったことは何度もあったが、もういないんだと思うと……寂しくて、悲しくて、自然と涙が零れた。


『あいつさ、私がピンチの時に、かばってくれてさ……あの黒い連中に呑み込まれちゃったんだ。あの馬鹿、怖いはずなのに、シャーロットのところは飽きたから、向こうでイタズラしてくる! だから、そっちは頼んだ! なーんて言っててさ……』


 きっと、それは彼なりに心配はしなくていいって思ってもらいたかったのね……誰かを助けるというのは、とても素晴らしいことだけど……それで犠牲になってしまったら、台無しじゃない……。


「僕達の兄弟喧嘩に巻き込んでしまったこと、本当に……本当に申し訳ない」


『別にあなたが謝るようなことじゃないわ。あなたの弟がクソッタレなのが原因ってことでしょ?』


「く、クソッタレって……」


『クソッタレはクソッタレよ! 私達の住んでた森を滅茶苦茶にして、大切な相棒や仲間を奪ったのよ! もし会ったら、めちゃくちゃに引っ掻いて、噛みついてやるんだから!』


 それぐらいなら、甘んじて受ける責任があるだろう。むしろ、その程度のことでいいのかと、心配になるぐらいだ。


「あの、ルーク様。私達はこれからどうすれば良いのでしょう?」


「とりあえずは療養をしたいところだけど、ここは安全じゃないのがわかってしまったからね……引っ越しをしたいと思っている」


「引っ越し、ですか」


「ハリーのことだから、本当に僕達が死んだか、ここに確かめると思うんだ」


 その可能性は、十分にあるだろう。いや、むしろあの男なら、そこまで徹底するのは、容易に想像できる。


「とりあえずある程度回復したら引っ越しをして、事前に父の容体を見てもらった医者と接触して、状況の確認をして、父にもそのことを話す。そして、ハリーとアルバートの悪行を世に知らしめる……この流れでいこうと思ってるよ」


「……国王様に話しても、大丈夫なのでしょうか……?」


「さすがの父上でも、自分を殺そうとしていたことを知れば、動いてくれるはずさ。もし駄目だったとしても、僕は以前と比べて格段に魔法が使えるようになったからね。実力で王位を取り戻すさ」


 凄いことをサラッと言えるのは、本当にこの人の凄いところで、尊敬しているところの一つだ。


「そうだ。無事だった精霊は、まだこの森に住むのかい?」


『どうかしら? 住めそうもなければ、それぞれ別の場所で楽しく暮らすわ』


「楽しくって……住処を荒らされて、怒ってる精霊はいらっしゃらないのですか?」


『精霊にも色々いるのよ。私を含めたこの森の精霊みたいに、結構頭がふわふわしているのもいれば、厳格な性格で、縄張りを侵すものは容赦しないーみたいなのもいるわよ』


 色々な性格や見た目、文化の違う人間がいるように、精霊も性格や見た目や文化が違うものなのね。勉強になったわ。


『精霊によっては、守り神を務めているのもいるは。そいつらは、決まった場所から離れられないの。そういった連中は、縄張り意識がとても高いかな』


 守り神……あの泉の精霊が当てはまりそうね。私が知らないだけで、精霊という存在は奥が深いわ。


『ほら、そろそろ休みなよ。私とホウキが見張ってるから、ゆっくりイチャイチャしながら寝なさい』


 い、イチャイチャって……まあ、今日は一緒に寝て、お互いに無事だった事を喜び合いたいとは思ってたけど……改めて言われると、とても恥ずかしいわね……。



 ****



 三日後、多少動けるようになった私達は、ホウキや女の子の精霊、そして彼女の召集に応えてやってきた精霊と一緒に、部屋の中の片づけを行っていた。


『ちょっと、これはまだ外に出さないの!』


『ありゃ~ごめんなんだな~』


「いえ、大丈夫ですわよ。運ぶ手間が省けましたわ」


『よかったんだな~。ほら、お前は僕に謝るんだな~』


『なんでそうなるのよっ!』


 手伝いの中には、以前私を運んでくれた牛の精霊がいる。相変わらずおっとりした喋り方だが、思ったよりもズバズバ物を言う子だ。


「…………」


「ルーク様?」


 綺麗になっていく小屋を、ぼんやりと見つめるルーク様の横顔は、どこか寂しそうだった。その寂しさを少しでも紛らわせたくて……私は、自然とルーク様の腕にそっと腕を絡め、体を預けた。


「大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。ここでの生活って、長かったからさ。感傷に浸ってしまったよ」


 そうか、私がここに来る前から、ルーク様はここでずっと研究をしていたのよね。私がここを離れることに寂しさを覚えているくらいなのだから、ルーク様は、もっと寂しいに決まっている。


「ここがなければ、僕は研究に集中できなかった。それに、僕の太陽であり、女神でもある君に出会えた」


 相変わらず感情表現がストレートすぎて、顔から火が出そうなくらい恥ずかしいが、それ以上に嬉しくて、自然と顔がにやけてしまう。


「私も、月の様に穏やかで優しく、民と国のために頑張る……世界一素敵な人に出会えましたわ」


「言われる立場になると照れるなぁ。あははっ!」


「もう、ルーク様ったら……うふふっ」


『ちょっとー! イチャイチャしてないで、手伝いなさいよー!』


「呼ばれちゃいましたね」


「そうだね。それじゃ、気合入れて片付けようか!」


「はい。ですが、その前に」


 私はルーク様の前に立つと、一生懸命背伸びをしながら肩に手を乗せ、そのままそっとキスをした。


「私達の新しい出発を祝して……みたいな?」


「いいじゃないか。きっと僕達の未来は明るいよ!」


『話聞いてた!?』


 プリプリと怒る彼女に、笑いながら謝罪をする私達は、笑顔のまま小屋の掃除へと戻っていった。

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