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【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました  作者: ゆうき


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第七十二話 死後の世界

 ■ルーク視点■


「ここは……」


 どこまでも永遠に広がっていそうな花畑の真ん中に立っていた僕は、ぽつりと呟く。その声に応えるものは、誰もいない。


「僕は……あの触手に貫かれて……そうか。僕は……死んだのか」


 自分の置かれている状況を把握した僕は、力なくその場に項垂れる。


 せっかく……愛する人と結ばれると思ったのに、まさか自分の力量を見誤って死んでしまうだなんて、本当に笑ってしまう。

 僕の見立てでは、もっと耐えられると思っていたんだけどな……。


「いや、違うな……防げたとしても、おそらくもう体がもたなかっただろうな……民も国も守れず、住んでいた家も、愛する人も守れなかった……ははっ……僕は、なんて弱くて、愚か者なんだ……」


 綺麗な花畑とは対照的に、僕の心は絶望に染まっていた。こんな綺麗なところよりも、もっと闇に染まったところの方が、お似合いだと思うくらいだ。


「僕はなにも成し遂げられなかった……それどころか、僕がシャーロットを好きになってしまったせいで……彼女を巻き込んでしまった……僕がいなければ、シャーロットは……シャーロット、は……ごめん……ごめんよ……」


 後悔が言葉となり、涙となって溢れ出る。聞いてくれる人はいないのだから、こんなことをしても意味が無いのわかっている。それでも、止めることが出来なかった。


 そんな泣き崩れる僕のところに、どこからか小さな蝶が飛んできて、僕の肩に静かに止まった。


「……なんだ、君も一人ぼっちなのか?」


「…………」


 蝶が喋るわけもなく、沈黙を保つ。ただ、僕の言葉に反応したのか、涙を拭った動きに反応したのかは定かではないが、音もなく僕の肩から飛び立った。


「君は、君のお家にお帰り」


「…………」


 蝶は何も答えず、僕の周りを優雅に飛ぶ。早く家に帰ればいいのに、なぜか蝶はずっと僕の周りを離れようとしない。


 一体どういうことなんだ? この子は、僕に何か伝えたいことでもあるのか?


「ついてきて」


「えっ……しゃ、喋った!?」


 僕の精神と耳がおかしくなっていなければ、確かに声が聞こえた。ここには僕と蝶以外にいないとなると、蝶が喋ったとしか思えない。


 もしかして、この蝶は精霊なのか? でも、僕はシャーロットと違って、精霊とコミュニケーションをとることは出来ないし……ここは死後の世界だろうから、現実のルールとは違うということか?


 あまりにもわからないことだらけだが、今の僕には行くところがない。言われた通りについていってみよう。


「……あれは……」


 一面花畑だったところに、唯一人工物らしきものがあった。石柱で支えられた丸い屋根があるが、壁がないため、吹き抜け状態だ。そこに大理石か何かで作られた、丸いテーブルと椅子がある。


 近くには小川が流れていて、ここにいるだけで清らかな気持ちになる。このまま静かに眠りにつきたいと思わされるような場所だ。


「いらっしゃい」


「えっ?」


 その建造物には、確かに誰もいなかった。なのに、急に声が聞こえてきたと思ったら、一人の女性が椅子に座り、女神のような頬笑みを向けた。


 とても美しくて、優しそうな女性だ。彼女の頬笑みを見つめていると、とても穏やかな気持ちにさせてくれる。


 それと、これは僕の気の迷いかもしれないが……シャーロットによく似ている。一体彼女は何者なのだろうか? 僕を迎えに来た天使が、気を使ってシャーロットに似た天使を寄こした……なんてことは、さすがに考えすぎだろう。


「はじめまして、ルーク王子。私はオリヴィア……シャーロットの母です」


「は……え、はっ……??」


 シャーロットの母上? ちょっと待ってくれ、シャーロットの母上は、既に何年も前に亡くなって……いや、冷静になるんだ。ここは死後の世界……そこに既に亡くなっている彼女がいても、なにも不思議ではない。


「思ったよりも、驚かないのね……ごほん。驚かれないのですね」


「これでも、とても驚いております。まさか、シャーロットの母君にお会いできるとは思いもしてませんでした。お会いできて、とても光栄です」


「ええ、私もとても会いたかったわ。じゃなくて、お会いしたいと思っておりましたの」


 なんだか、言葉使いが少々ぎこちない。もしかしたら、丁寧な話し方に慣れていないのかもしれない。


「もしよろしければ、いつもの様にお話していただいて構いませんよ」


「よろしいのですか? ありがとうございます。どうも田舎暮らしが長かったせいか、都会の丁寧な言葉が苦手でして」


「そのお気持ち、とてもよくわかります。僕もシャーロットの前では、楽に話させてもらってます」


「もしよければ、私にもいつものように話してくれないかしら?」


「あなたがそう仰るなら……喜んで」


「ありがとう。少しだけ時間に余裕があるから、お茶でも飲みましょ」


 そう言うと、オリヴィア様はテーブルの上に置かれていた道具を使い、手際よくお茶の用意をしてくれた。


 僕の使い魔であるホウキ達も、いつも器用にやってくれるが、彼女の腕を前にしたら、足元にも及ばないくらいだ。


「はい、どうぞ」


「ありがとう、いただきます……こんな世界でも、お茶はおいしいね」


「よかった。この茶葉はね、私の故郷でよく採れるものを使っているのよ。シャーロットも、これが大好きなの」


「そんな素敵なものをいただけるなんて、嬉しい限りだよ。ただ……どうして僕を迎えに来てくれたんだい?」


「迎えに来たのではないの。あなたに、もう一度娘をお願いしたくて来たの」


「どういうことだ? あなたも知っている通り、僕は既に死んでいる。会いたくても……もうシャーロットには会えない」


「それは少し違うわ。あなたは、まだ生きている」


「なんだって!?」


 あの時、僕の胸は確実に貫かれたはずだ。痛みは一瞬で、それからは一気に意識が遠くなって……ぼんやりと、シャーロットが泣いている声が聞こえてきて……泣かないでって思った後は、何も覚えていなくて……目を覚ましたら、ここにいた。


 こんな経験をしているのに、僕がまだ生きているといわれても、本当に!? やったー! 今帰るからねシャーロット! なんて、楽観的にはなれそうもない。


「ここは現実と死後の境界なの。ほら、あの小川を見て。あれが現実と死後の境目よ。あれを超えたら、もう二度と現実で目覚めることはない。まだあなたは、あれを超えていないでしょう?」


「確かにそうですが……本当に、僕はまだ助かると?」


「あなたの気力と精神力、あとは運次第だけどね。あなたには娘と幸せになってもらいたいと思って、無理やり川を超えて、あなたに会いに来たの」


「そんなことをして、大丈夫なのかい?」


「さあ……わからないわ。後で、死後の世界を管理する天使に怒られるかもしれないけど、説明すればわかってもらえると思う」


 それでいいのだろうか? 後で僕の知らない間に、彼女がひどい目に合うだなんてなったら、僕は……。


「でもいいの。あの子を……大切なシャーロットを絶望から救ってあげられるのは、あなたしかいないの」


「絶望……」


「今のあの子はね……世界で一番大切なあなたの死をきっかけに、完全に怒りと憎しみ、そして絶望に心を乗っ取られてしまったわ」


「復讐って……でも、シャーロットは復讐を乗り越えたはずだ!」


「ええ。けど、あなたの死をきっかけに、極度の絶望と悲しみによって、怒りと復讐心は一気に膨れ上がり……爆発した。あの子は、影のマーガレットを殺し、ハリー王子とアルバートを殺し、親である国王様を殺し、王族を支持した民も殺そうとしている」


 馬鹿な、信じられない……シャーロットには、家族に復讐をしたいという気持ちを持っていたことは、紛れもない事実だ。

 だが、あくまでそれは過去の話だし、それ以外の人に復讐をしようだなんて、考えたことはなかったはずだ。


「信じられないと思うけど、本当のことよ。今までも、何度かあの子が危ない時に、杖を通して助けたり、声をかけていたのだけど、今ではもう何も届かない。もう……私には、あの子を救ってあげられないの」


「救うって……もしかして、僕の裂け目が開けていたのは、あなたが?」


「ええ。あなたのおかげで、あの子は窮地を脱せたわ」


 今までずっと、どうしてシャーロットが裂け目を開けていたのか疑問だったが、彼女が精霊の力を使って助けていたのか。ようやく納得がいった。


「……そうやって助けていたけど、もう出来なくなってしまったから、こうして無茶をしてまで僕に助けを求めに来たんだね」


「半分正解ね。もう半分は、あの子とあなたが幸せになってもらいたいの。ずっとずっと苦しいことばかりだったあの子が、ようやくあなたと幸せになれそうなのよ? 母親として、応援したいに決まってるじゃない」


 少しだけ彼女のことは、シャーロットから聞いているから、どんな人かの想像を何となくしていたのだが、本当に優しくて、なによりも子供想いな、素敵な母親だ。


「自分勝手なのはわかっているわ。でも、あなたにしかお願いできないの。お願い……私の大切な娘を、助けて……!」


「もちろんです」


 即答だった。こんな愚かで情けない僕でも、愛する人を助け、支えられるチャンスがあるというなら、たとえ可能性が一パーセントだったとしても、よろこんで引き受けよう。


「本当にありがとう。お礼というわけではないけど、私の力をあなたに渡すわ」


「あなたの力?」


「ええ。きっとあなたの力になってくれるわ。手を出して」


 言われた通りに手を差し出すと、彼女の体から光が溢れ出る。それが僕の手に集まっていき、一本の杖の姿になった。


「私の……残っていた精霊の加護を宿した杖よ。それと、精霊の加護を貴方に与えたわ。加護としての力は弱いかもしれないし、杖も一度使えば壊れてしまうけど……シャーロットの杖を研究していたあなたなら、きっと使いこなせるわ」


「精霊の加護……これがあれば、僕にも精霊の加護がついて、リスクなしで魔法が使えるようになるのかい?」


「そうよ。本当は、もっとちゃんとした杖を用意したかったのだけど……今の私にはこれが限界なの」


「十分すぎるくらいだよ! ありがとう、お義母様!」


「お義母様? ふふっ、随分と気が早いのね!」


「早くなんかないさ! 僕の力とあなたの力で窮地を脱し、そしてシャーロットと結婚するのだからね!」


 さっきまで沈みに沈んでいた僕の心は、希望に満ち溢れていた。その心に呼応するように、辺りは眩い光の中に包まれていく。


「本当にありがとう。シャーロットのことを、末永くお願いね」


「はいっ!」


 光の向こうから、今にも消えそうだが、確かな温もりを感じさせる、お義母様の優しい声が聞こえてくる。


 ……任せてくれ。僕が、必ずシャーロットを世界一幸せにする。そして、彼女と一緒に、この国と民を幸せにする! 約束だ!!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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