第六十七話 醜い結末
無事に宮廷魔術師の試験に合格した私は、宮廷魔術師としての新たな日常を満喫していた。
新しい宮廷魔術師として、色々なところに挨拶に行ったり、結婚式と披露宴のドレスや結婚指輪を見に行ったりと、忙しくも充実した日々を送っている。
そんな中、今日はゆっくりできる時間が取れたから、小屋でのんびりと過ごしている。
「ふむ……この回路をこうして……いや、少々無駄が出てしまうか……それなら……」
宮廷魔術師になり、私の魔法の練習の時間を減らすことが出来るようになった影響で、最近はルーク様の研究に杖をたくさん貸すことが出来るようになってきた。
だから、開いている時間は、こうしてルーク様の研究を見学しながら、のんびりと過ごすのが日課となっている。
本格的に宮廷魔術師のお仕事が始まったり、ルーク様が王様に、私が妃になった暁には、こんな静かで平和な時間なんて、なかなか取れなくなるのは、想像に難くない。今のうちに堪能しておかないと。
「駄目だ、少々手詰まりになってしまったな。少し休憩を取るとしよう」
「あっ、お茶飲みますか? おいしいクッキーもありますよ」
「それは素晴らしい提案だね。おいしいお茶にクッキー、それに愛しい君のその笑顔があれば、疲れなんて一瞬で吹き飛びそうだ」
「は、恥ずかしいことをおっしゃらないでくださいませ……」
今日も今日とて、ルーク様のまっすぐな愛情表現に照れていると、例の二人の精霊が、ニヤニヤしながら、肘でツンツンしてきた。
『このこの~、相変わらずお熱いね~』
『見ているだけで、お腹がいっぱいになりそうね~』
「もうっ、あなた達はそうやって毎日からかって、飽きないんですの!?」
『ぜんぜん? だってシャーロットの反応、すごく面白いし!』
『私も、あまりイタズラをする趣味はないけど、最近のシャーロットはからかいがいがあるのよね』
うぅ、揃いも揃って酷い人……じゃなくて、酷い精霊ね。私がそういうからかいに慣れてないのをわかってしているのだもの。
「シャーロット、彼らがまた何か言っているのかい?」
「今日もお熱いとか、見てるだけでお腹いっぱいなどと仰って、私をからかっておりますの」
「そうなのかい? なら、もっと彼らに見せつけてあげようじゃないか」
「えっ、なにを――」
ルーク様に問いかける前に、私は強く抱きしめられた後、唇を奪われた。
そのあまりにも突然の行為に、頭が真っ白になってしまった。
「る、ルーク様! 急にされたら驚いてしまいますわ!」
「ごめんよ。彼らがからかっても意味が無いって思えるほど、僕らのラブラブっぷりを見せてあげようと思ってさ」
「そ、それって効果があるのですか……?」
ちらっと精霊たちの方を見て見ると、男の子の方は変な踊りをしてはやし立てているが、女の子の精霊は、顔真っ赤にしながらキャーキャー叫んでいる。
……思ったよりも、効果的だったのかもしれない。さすがはルーク様だわ。
「さあ、お茶にしようじゃないか」
「あっ……お話してたら、お茶の準備をするのを忘れておりましたわ!」
『準備、できた! できた!』
『シャーロット、ゆっくりしてね!』
急いでキッチンに行こうとしたところ、ホウキ達が今日も器用にお茶やクッキーを運んできてくれた。
みんな気が利いてくれて助かるわ。でも、それに甘えすぎるのも良くない。次こそ、私がお茶の準備をしなくちゃ。
「ふう……おいしい。こうしてシャーロットと二人でお茶を飲んで、お菓子を食べて、ゆっくりして……こういう二人きりの時間は、これからも大切にしたいね」
「ええ。願わくば、この先もずっと、こんな素敵な日が続きますように」
これから先の未来が、どうなっているかはわからない。でも、きっとルーク様と一緒に、明るい未来に行けると、私は心の底から信じているの。
****
■マーガレット視点■
「あ~、疲れた~!」
屋敷を出発してから何日もかかって、ようやく目的地の辺境の森へと到着できた。
遠いとは事前に聞いていたとはいえ、さすがに遠すぎる! しかもここまで野宿とか、ありえないんだけど!?
「長時間座ったり、固いところで寝たせいで、腰が……」
「お父様、しっかりしてよね。これからあたし達は、大切なお仕事があるんだよ」
こんなところにまで足を運んだのは、あたしの愛するハリー様から与えられた、極秘の仕事を行うためだ。
なんでも、預かってきたこの魔法の本に書かれている魔法を使えば、お姉様とルーク様は魔法に飲み込まれて、永遠に苦しむそうだよ。
そうそう、この前試験の時に、お姉様を襲わせた奴を生み出したのは、この魔法のテストも兼ねていたんだって!
「由緒あるベルナール家の我々が、あんな青二才にこき使われるだなんてな……」
「見た目は幼いけど、中身は立派な大人だよ。ほら、今のうちに未来の王様と繋がりを作って置けば、ベルナール家の将来は明るいし! それに、逆らったらまた地獄を味わうことになる……そんなの、あたしやだよ……」
「た、確かにその通りであるな……罰を受けないためにも、準備を始めるとしよう。兵達よ、生贄をここに!」
ここまであたし達を護衛しつつ、とある物を運んできた兵士達は、馬車の荷台から、そのとあるものを連れてくる。
それは、ボロボロの布一枚しか着ていない、人間達だった。老若男女問わずいて、みんな悲しみに表情が染まっている。
確か、ずいぶん遠くの地に住んでいた人間を捕まえて、闇市場で奴隷として売られようとしていたところを、ハリー様が買い取ったと言っていた気がする。
「た、助けてくれ……」
「お願いします……この子だけは助けてください……」
「お家に帰りたいよぉ……ままぁ……ぱぱぁ……」
こいつらが、必死に命乞いをするのには、理由がある。
私達がこれから発動させようとしている魔法は、生贄が無いと発動できない。この人間達は、その生贄のために連れてこられたんだよ。
「うんうん、そうだよね。帰りたいよね。あたしも早くお家に帰りたいよ。そのために、あんた達には犠牲になってもらわなきゃならないの」
「そんな、お願いですから! 私に出来ることならなんでもしますから!」
必死に土下座をして許しを請う姿は、子供への愛情を感じる。
まったく、母親の愛情というのは素晴らしいものだね。でも、あたし……そういうお涙頂戴って、虫唾が走るくらい嫌いなんだよね。
「なら、黙って死んじゃえよバーカ! そんな同情を誘って助けてもられるとか、頭悪すぎるでしょ! もう助かる道なんてないんだから、大人しく最後の挨拶でも交わしてなよ! きゃははははっ!!」
「っ……! この、悪魔! あなたなんて、地獄に落ちてしまえばいいのに!」
「へえ? あんた、面白いことを言うじゃん。先に地獄に送っても良いんだよ?」
「マーガレット! 生贄が減って魔法が失敗したらどうするつもりだ!」
「た、たしかに……」
危ない危ない。お父様に止められてなければ、数秒後には、この女の首と手足が、胴体と泣き別れにさせるところだったよ。
「さっさと魔法陣を完成させるぞ」
「はーい」
生贄たちを中心にするように、お父様と力を合わせて魔法陣を描いていく。
いつもなら、パパッと適当に描いちゃうのだけど、今回はミスが無いように真剣にやっている。失敗したら、魔法に巻き込まれました~なんて、冗談でも笑えないもん。
「よーっし、完成っ! 起動は……できた! あははっ、これでにっくきあいつらに一泡吹かせられる!」
「……マーガレット。なにやら、様子がおかしくはないか?」
「急にどうしたの、お父様……あれ、本当だ……」
魔法は確かに発動しているはずなのに、肝心の魔法が発動しない。聞いた話だと、生贄を飲み込んで魔法が発動し、例のバケモノを一気に生み出すはずなのに。
あたし達、何か失敗でもした? そんなはずはない。ハリー様に言われた通りに魔法陣を描き、魔法を発動したはずだよ?
「一応確認をした方が良いかも?」
「面倒だが、仕方がないな。くそっ、あの青二才め……人にやらせておいて、魔法が発動しないとか、ふざけおって……」
ぶつぶつ文句を言いながらも、ちゃんと確認をするお父様を、近くで見守っていると、突然魔法陣が黒く光り始め、真っ黒な球体の形をした深淵が現れた。
おっ、これは良い感じじゃない? 後は巻き込まれないようにしないとね。
「これが封印されていた禁術か! なんと禍々しく、そして強い力なのだ!」
「た、助けてくれ……死にたくない……!」
「ままぁ、ぱぱぁ……!」
生贄に連れてこられた雑魚共が、最後の抵抗をしてみせるが、なんの成果も出せないまま、深淵の中に沈むように消えていった。
これで生贄は完璧ね。あとはお姉様達が禁忌の魔法に蹂躙するのを高みの見物……えっ?
「なに、これ……!?」
ハリー様の言う通り、確かに生贄は捧げた。だというのに、深淵は生贄を取り込むのを止めるどころか、物凄い吸引力で、辺りのものを無差別に吸い込み始めた。
「う、うわぁぁぁぁ!?」
「いやだぁぁぁぁ!!」
護衛としてついてきた兵士達が、無様にも吸い込まれていく。そんな中、あたしとお父様は、咄嗟に魔弾を撃ち込んで破壊を試みる。
これを壊してしまえば、本来の目的は達成できないが、このままではあたしまで吸い込まれてしまう。作戦が上手くいったって、共倒れになってちゃなんの意味もないって!
「ぜ、全然効いてないんだけど!?」
「どの属性で攻撃しても、全て呑み込まれてしまう……!」
必死に吸引に耐えて攻撃したが、このままでは吸い込まれてしまう。それを避けるために、近くの太い木にしがみつき、さらに攻撃を仕掛ける。
「呑み込まれてたまるものかぁぁぁぁ……あっ?」
なんだか、急に体が重くなったうえに、引っ張られる力が強くなったと思うんだけど……これって、もしかして……?
「な、なにやってんのよ!」
視線を足に向けた先にあったのは、あたしの細くて綺麗な足にしがみつくお父様の姿だった。
どうやら、近くにしがみつくものがなかったらしく、あたしの足にしがみついたみたいだ。一切の余裕を感じないその表情から、いかにお父様が焦っているかがわかる。
「なんだと!? 貴様、これまで手塩に育ててやった恩を忘れたのか!?」
「育ててくれなんて頼んでないし! ていうか、親は子供を守るためなら、その身を犠牲にするのがお決まりでしょ! なのに、なんで巻き込むような真似してるわけ!? 早く離しなさいよ!」
「貴様は、私に死ねと言いたいのか!」
「そうだよ! 文字通りあたしの足を引っ張るなら、実の父親でもいらないし! えいっ!!」
あたしは、足に力を込めて、お父様の顔面を蹴り飛ばすと、吸引力も相まって、私の足から離れた。
そして、そのまま深淵の中に飲み込まれそうになっていた。
「なっ……き、きさまぁぁぁぁ!! マーガレットぉぉぉぉ!! この恨み、晴らさでおくべきかぁぁぁぁ!!」
まるで三流の悪役が消える時の台詞みたいなことを叫びながら、お父様は深淵の中に呑み込まれてしまった。
確か、呑まれたら一生出られないんだよね……呑み込まれなくて、本当によかった。
これであいつらを倒して帰れば、ハリー様に褒められる! あれ、あたしの一人勝ちじゃん! やったー!
「――――」
「ばんざーい、ばんざー……あれ、なにか深淵に変化が……なにあれ……触手? まさか!?」
もしかして、あれであたしを掴んで引きずり込むのかと思い、急いで迎撃の構えをとったのだが、そんなのは全く無駄だということを思い知る。
なんと、目にも止まらに早さであたしに伸びてきて、そのまま両手足を切断してしまった。
「は……え……?」
ぽとりと落ちる、あたしの両手足。それらはなんの抵抗も出来ないまま、深淵に呑み込まれていく。
それを何も出来ず見届けてから、ようやくあたしは両手足を失ったことをちゃんと認識できた。同時に、言葉で言い表せないくらいの激痛が襲ってきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?!? い、いだい、いだいぃぃぃぃぃ!!!!」
激痛なんて言葉は生ぬるいほどの、強すぎる痛みに襲われ中、触手はゆっくりとあたしに伸びてきた。
そして、あたしを潰してしまいそうなくらいの強さで掴み、深淵へと引きずり込む。
「やだ、いだいよぉぉぉぉ!! だれか、だれかたすけてぇぇぇぇ!! おとうさまぁ、おねえさまぁ!!!!」
両手足を失った激痛、そしてこのまま自分も魔法の生贄にされてしまうという絶望に襲われ、自分が助かるために犠牲にしたお父様や、大嫌いだったお姉様に助けを求める。
……なんで? どうして誰も助けてくれないの? どうしてあたしがこんな目に合わないといけないの? あたしは何も悪くない! 悪いのは、こんな魔法を教えたハリー様……いや、ハリーと使い物にならない生贄、それにお父様だ!
それだけじゃない! 全ての元凶であるお姉様が悪いのに、なんで……なんでなのよぉ!!
「あ……あぁ……たす、け……」
その言葉を最後に、あたしは深淵の中に完全に呑み込まれてしまった。
――その後、あたしは深淵の中で永遠の苦痛を味わうことになり、いっそのこと死んだ方が楽だったと思うようになるとは、この時は知る由もなかった……。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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