第六十話 少し休息、少しイチャイチャ
ルーク様に救護班が使う部屋に連れて来てもらった私は、部屋にいた人に声をかけてから、ベッドに寝かせてもらった。
「念の為、体調に異変はないか調べてもらえませんか?」
「はいはい。えーっと……こ、これは……」
シワだらけの白衣にボサボサのおさげ、極めつけは瓶底のような眼鏡という、あまりにも凄い見た目の救護班の……子供……? とにかく、子供と間違えそうなくらい小柄な彼女は、何かを発見したかのように驚く。
もしかして、酷い病気か怪我でも見つかったのでは……!?
「ただの疲労ですね」
「疲労なのかい!? わざわざシリアスな雰囲気にしなくていいんだよ!」
「まあまあ、ルーク王子様。生真面目に生きてても疲れるだけですし。ゆる~くやっていきましょう」
「ゆるくって……」
「とにかく、ただの疲労ですよ。少し休めば、最終試験も受けられると思いますよ」
よかった、これでしばらく安静になんて言われたら、最後の試験に参加できなくなるところだったわ。
「大変不本意ではありますけど、わたしはこれから仕事がありますので、これにて失礼」
彼女は気だるげに欠伸をしながら、部屋を去っていった。
「やれやれ、変な冗談は言わないでほしいところだね」
「……ルーク様、一つお願いがあります」
「なんだい?」
「私は愚か者で、弱いです。一度ならず二度までも、同じ失敗をしてしまいました。もう過ちを貸さないと決めましたが、またいつなるかわからなくて……怖いのです。だから、私に勇気をください」
「勇気?」
はい、と短く返事をしてから、私は静かに目を閉じる。すると、何か擦れるような音の後に、顔にほんのりとした熱を帯びた何かが近づいてきて……唇を奪われた。
「これで、どうかな?」
「ありがとうございます」
「念の為、もう一度しておこうか」
「えっ……んぅ……ちゅっ……」
二回目は必要ないと言おうと思ったのに、その前にキスをされてしまった。それも、結構長めに。これでは、別の理由で体力が無くなってしまいそうだわ。
「ルーク様、これ以上は……」
「あ……すまない、調子に乗り過ぎてしまった!」
「お気になさらず。おかげさまで、勇気が湧いてきましたし、とても元気になれました」
「いや、もう少し休んだ方が……大丈夫、さすがにこれ以上は自重するから」
「それなら……」
起き上がろうとしたが、やんわりと押されてベッドに戻されてしまったので、言われた通りに休むことにした。
「本当に、よく頑張ったね……」
ルーク様は、私の頭を慈しむように撫でながら、何度も頑張ったねって言葉を贈ってくれた。
ルーク様は、ずっと私が練習してきたところを見てくれていたし、私の成長の過程も見てくれている、そんな人に褒められると、他の人に褒められるより嬉しい。
……ルーク様のことを愛しているからというのも、もちろんあると思うが。
「それにしても、ゴーレムに吹き飛ばされた時は、生きた心地がしなかったよ。近くにいた父上に止められてなければ、即座に助けに行ってたよ」
「ルーク様は、本当にお優しいのですね」
「愛する人のピンチに駆けつけないなんて、婚約者として失格というだけだよ」
それを颯爽と行ったり、さらっと言えるのが、優しい証拠だと思う。あと、恥ずかしくて言えないけど……格好良くて、惚れ直してしまうわ。
「結果的に無事に突破できたのはよかったけど、なにがあったんだい?」
「以前ルーク様と一緒に伺った泉の精霊が、私を助けに来てくれたのです」
「なんだって? そうか、彼女が……あの水の魔法の魔力を感じた時、もしかしてと思ったが……」
魔力で察せるだなんて、さすがはルーク様だ。私みたいな弱い人間には、到底真似できる該当じゃない。
「シャーロットは、精霊の声が聞けるし、地脈の力を直接使えるという、誰にも真似できないことができるじゃないか」
「えっ?」
「君のことだから、魔力でわかるなんてすごい、自分にはそんなことできない……みたいな後ろ向きなことを、考えたんじゃないかな?」
「どうしてわかったのですか?」
「愛する人の考えてることがわからないで、将来の夫なんて務まらない。ただそれだけのことだよ」
自慢げに言ったりせず、当然のように普通に話すルーク様。そんな彼が格好良くて、嬉しくて、愛おしくて……私は自然と体を起こし、ルーク様にキスをした。
「んん……ルーク、さま……」
「シャーロット……」
一度少しだけ離れた後、もう一度唇を合わせる。そして、絶対に離れたくないという私の気持ちを伝えるために、背中に両手を回して、強く強く抱きしめ続けた。
****
最終試験の時間まで、ルーク様と一緒に過ごしたおかげで、だいぶ疲れは取れた。それに、気持ちもとても軽くなっている。これなら、マーガレットの煽りを受けても大丈夫だ。
「時間ですね。シャーロット・ベルナール様。マーガレット・ベルナール様。まずは最終試験への到達、おめでとうございます。。ここまで来れた名誉を、心に刻みこんでくださると幸いです」
「はい」
「ふぁ~……んで、最終試験ってなに? あたし、そろそろ帰って寝たいんだけど」
相変わらず、マーガレットの態度は憎たらしい。ふざけた態度を取って、私のことを煽りたいのが丸わかりだ。
でも、もう私はそんな姑息な手には乗らない。二度も同じ失敗をしてしまったんだ……三度目はない。
「あなた達には、二つの試験の中で、魔法の実力をいかんなく発揮していただきました。第一試験で魔法の質と種類、第二試験はそこに加えて魔法の強さ……どちらも言ってしまえば、攻撃能力を見ておりました」
そこで一旦言葉を区切ると、彼はゴホンっと咳払いをしてから、再び口を開いた。
「宮廷魔術師たるもの、国を守るために攻撃も大切ですが、守りも大切です。最終試験は、その守りを見せていただきます」
そう言うと、彼は手に持っていた杖を軽く振る。すると、試験場の至る所に、小さな人形が出現した。
「あれは我々が用意した、動く人形です。一定時間の間、あれらを守ってください。それが最終試験の内容です」
「えぇ~、なんか面倒くさそう……まああたしなら余裕だろうけど、お姉様には無理かな~」
「そんなのはやってみないとわかりませんわ。まあ……少なくとも、自分のことしか考えていないマーガレットには、少々難しい内容かもしれませんね」
「はぁ!? あたしに出来ないことなんかないから!」
落ち着きを取り戻せたおかげで、煽り返す余裕が出てきた私は、凛とした佇まいで淡々と伝える。
あれだけ私のことを煽っておいて、自分は煽り耐性が無いって、笑い話にもならないわ。もう少し大人になってほしい。
「お静かに。これはあくまで試験ではありますが、今までよりも実践と思って行ってください。それくらい、これは大切な試験ですので」
そうよね、いくら攻撃が出来る魔法が使えても、もし何かに国が攻められた時に守れないのでは、なんの意味もないもの。
「では詳細について説明いたします。上をご覧ください」
言われた通りに上を見上げると、空を隠すかのような、巨大な魔法陣が鎮座していた。
「あの魔法は、我々が用意したものです。あの魔法陣から人形に向かって、五属性の魔法攻撃が降ってきます。どの属性が選ばれるか、どの人形が狙われるか、どのタイミングで攻撃が来るか、全てがランダムとなっております」
なるほど、どんな状況でも守る力があるかを見るために、こんな厳しい条件になっているということね。
「失格ラインは、五体破壊されることです。五体以下で制限時間が終われば、試験は合格となる可能性があります」
「可能性というのは、どういうことなのでしょうか?」
「最終試験の合否に関しましては、今までの試験の内容や、その他諸々を加味したうえで判断されます。なので、もし人形を全て守れたとしても、不合格の場合がございますので、ご了承ください」
どういった基準なのかはわからないが、そういう決まりなら仕方がない。少しでも合格する可能性を増やすために、精一杯頑張ろう。
「いや、意味がわからないんだけど? そんなの、そっちの気分次第で決められるってことじゃん! 不公平だと思うんだけど?」
「ご不満に思う気持ちは重々承知ではございますが、これは長い宮廷魔術師の試験の歴史上、一度も変わらない裁定方式です。これにご不満のようでしたら、辞退していただくことも可能です」
「別に、逃げるなんて言ってないでしょ!」
これ以上文句を言うなら、強制的に辞退させると言っているようにしか聞こえない。それはマーガレットもわかったのか、慌てて取り繕った。
「ご理解いただき、誠にありがとうございます。では……マーガレット・ベルナール様から、前へ」
どうやら、今回もマーガレットからのようだ。先に凄い結果を見せられたら、プレッシャーになるかもしれないが、それよりも試験がどんな感じか見られる利点の方が大きい。
「では、はじめ!」
合図と共に、上空の魔法陣が光る。すると、まるで流星群のような魔法の球体が、人形に目掛けて落下してきた。
「随分な数だけど、あたしには通用しない!」
マーガレットは、第一試験で見せた魔法の弾丸を放ち、次々と落下してくる球体を破壊する……が、何個かは破壊することに失敗し、そのまま地上へ落下を続けている。
「えっ、なんで壊れないわけ!? ちゃんと対応する属性で攻撃しているのに……! あ、あぁ!!」
マーガレットの焦る声も虚しく、振ってきた球体は、人形を粉々に破壊してしまった――
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