第六話 悪夢は私の原動力
「んん……」
小屋の隙間から入ってくる冷たい風が頬を撫でた感覚で、ゆっくりと目を開けた。起きると、体中に冷や汗が流れている。
「今日も、あの夢を……」
毎晩、私は必ず同じ夢を見る。別れ際のお母様の笑顔が出てきた後、お父様やマーガレット、ヨルダン様に馬鹿にされたり、虐げられたりする夢……いや、悪夢だ。
悪夢ではあるが、この夢を見るたびに、お母様に会えるし、なによりも復讐のことを片時も忘れずに済む……つまり、原動力になるもの。
「今日は、随分と静かな朝ね……」
窓の外に目を向けると、雪がしんしんと降っているのが見えた。
「寒いと思ったら、雪でしたのね……はぁ……気が滅入りますわ」
雪が嫌いだからというわけでなく、この雪の中で洗い物をさせられるのが、本当につらい。ただでさえボロボロの手が、さらに酷くなってしまう。
でも、私には拒否権は無い。やれと言われたら、首を縦に振るしかない。
「考えても仕方ないですわね。それよりも……おはようございます、お母様」
杖を取り出し、ギュッと抱きしめながらお母様と朝の挨拶を交わす。
こうすると、お母様と触れ合えているみたいで、少しだけホッとする。
そしてそのまま、私は外に出て、少し開けた場所に向かった。
「寒いですわね……でも、練習をサボるわけにはまいりません……はっ!」
私は、両手で杖をギュッと握ると、私の前に魔法陣が出現する。そして、そこから魔法が発動――されることはなく、ポスンっと間抜けな音を漏らしながら、魔法陣は消えてしまった。
「もう一回!」
再び魔法を使うが、結果は同じだ。それでも諦めず何度も何度も魔法を使っていると、急に魔法陣が大きくなった。
「これは……ま、マズいですわ!」
逃げる暇もなく、魔法陣は突然爆発してしまった。それに巻き込まれた私は、積もり始めた雪の上に倒れこんでしまった。
……やはり、今日もうまくいかないようだ。これだから、無能だグズだと馬鹿にされてしまうのよ。
「やはり、生まれ持った運命には抗えないのかしら……お父様もお母様も、マーガレットも凄い魔法使いなのに、どうして私だけ……いえ、弱気になっては駄目よ、シャーロット。努力を続ければ、必ず夢は叶うのだから!」
泣き言を言ったって、何も好転しない。むしろ、誰かに聞かれたら馬鹿にされ、笑われるだけ。だから、それ以上弱音を吐かずに、黙々と魔法の練習を続けた。
その結果……魔法は一度も成功しなかった。生まれてからずっとのこととはいえ、やはり心に来るものは少なからずある。
「へこたれても駄目よ、シャーロット。明日こと、きっとうまくいくはずですわ」
雪と北風に晒されて冷え切った手を、はぁ~……と息をかけて温める。自分でやってもあまり暖まらないが、お母様がやってくれると、すぐにポカポカになっていた。あれも魔法だったのかしら?
「シャーロット様、本日の皿洗いの前に、ご主人様がお呼びです」
お父様が? この時点で既に嫌な予感がしているけど、いかないわけにもいかない。待たせれば待たせるほどへそを曲げるから、早く行かないと。
「失礼します、シャーロットでございます」
「入れ」
お父様の私室に入ると、そこにはマーガレットの姿もあった。いつも通りニコニコしているけど、あの顔の時はろくなことを考えていないのよ。
「あたし、この前のパーティーで面白いことを教えてもらったの。ほら、この前お姉様がフロワを採りに行った森があるでしょ? あの近くの山を越えたところに、小さな集落があるのだけど、そこに腕の良い職人がいるって」
そんな職人がいるだなんて、聞いたことがない。きっと、知る人ぞ知る名職人なのだろう。
そんな話を持ち出すなんて……あぁ、きっと私の無駄に当たる嫌な予感は、今回も的中しそうだ。
「あたし、その人が作る工芸品が欲しいの! だからお姉様、行ってきて!」
「マーガレット、お言葉ですが、その山はこの時期になると常に吹雪いている、危険な地域ですわ。そんな所に行くだなんて、自殺行為にも等しいです」
「なら自殺しちゃえばいいんじゃな~い? 別にしてくれても、あたしは構わないし?」
一応家族である私に対して、何て言い草だろう。あきれてものも言えない。
「お父様。前回は運よく帰ってこられましたが、もし私が遭難したらどうするのですか? お父様方が欲しがっているこの杖が手に入らなくなりますよ?」
「その時はその時だ。貴様の死体を魔法で探して、杖を回収するだけだ。だが、そうなれば面倒なのは確かだ。だから、十分な防寒道具と、雪道に強い馬車を用意している。それに乗っていくといい」
私のために、装備も足も完璧にするなんて、信じられないけど……もしかしたら、マーガレットによほど工芸品を与えたいのかもしれない。
とにかく、私は言われた通りのことをするしか出来ない。この預かった防寒部とお金を持って、その職人がいるところに行ってみよう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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