第五十八話 二次試験
二次試験の時間を迎え、再び試験会場に向かうと、既に私以外の二次試験の参加者が集まっていた。
沢山いた受験者は、既に私とマーガレットを含めても、五人しか残っていない。一次試験は本当に難しかったから、仕方のないことかもしれないわ。
「皆様、一次試験の突破、おめでとうございます。これより、二次試験を開始させていただきます」
先程と同じ男性がそう言うと、試験場である広場の真ん中に、巨大な魔法陣が出現し、眩い光を放つ。その光が収まると、見上げるほど巨大な岩の塊が現れた。
「これは、土の魔法で作られたゴーレムです。これより、制限時間である十分の間に、あのゴーレムを壊していただきます」
「それだけ? な~んだ、楽勝じゃない!」
「果たして、本当に楽でしょうか?」
一次試験があれだけ難しかったのだから、二次試験が簡単なはずもなく……ゴーレムの顔と思われるところが真紅の色に光ると、ゴーレムは鈍い音を立てながら動き始めた。
「御覧の通り、ゴーレムは自ら動くことが可能です。当然反撃もしますので、うまく立ち回ってください」
一次試験もそうだったが、宮廷魔術師の試験というのは、かなり実践に重きを置いた試験のようだ。国が危機に陥った時に、最強の魔法使いとして戦えないと、国を守ることは出来ないのだから、当然ではあるが。
「では、順番にお呼びいたしますの。まずは――」
先程と同じように、一人ずつ順番に呼ばれて試験を始める。二次試験に残るというだけあって、受験者は魔法の手練れ揃いではあったが、ゴーレムの破壊にかなり手間取っていた。
どうやら、見た目通りの頑丈さに加えて、定期的に有利な属性が変わる仕組みになっている。さらに、部位ごとに有利な攻撃方法まで変化するようだ。
例えば、腕は打撃、足は切断といった具合なのだが……一何より厄介なのは、ゴーレムごとに有利な属性や攻撃方法の変化の仕方が違うということだ。
相手は常に同じでは無いのだから、都度対応できる人材が欲しい。その気持ちは理解できるが、あまりにも難易度が高すぎて、乾いた笑い声が漏れてしまう。
「そこまで。残念ですが、不合格です。では次……マーガレット・ベルナール様」
「はいは~い」
四人目に呼ばれたマーガレットは、相変わらずへらへら笑いながら前に出る。
先に行った人は全員不合格になったというのに、緊張感の欠片もない。
「では、はじめ!」
「さてと……対応する属性? 攻撃方法? めんどくさっ。そんなの、全部ねじ伏せちゃえばぁ……万事解決っ!」
マーガレットが大きく腕を広げると、彼女の周りに紫色の煙のようなものが現れ、ゴーレムの体の中に入りこんでいく。それから間もなく、ゴーレムの体中が爆発し、一瞬にして粉々になってしまった。
「嘘だろ……俺達があれだけ苦戦した相手を、一撃で!?」
「でもどうして? 属性が合ってなければ、攻撃しても意味が無いはずなのに!」
他の受験者だけでなく、見に来た人達からも動揺の声が漏れている。かくいう私も、驚きを隠せずにいた。
「見ればわかるでしょ? あの煙を通して、有効な属性の爆発を起こしただけ。こんな簡単なことも出来ないから、合格できないんじゃないの?」
私だけでなく、他の参加者のことも馬鹿にするマーガレット。その憎たらしい態度に反発したくても、圧倒的実力の前では、誰も何も言えなかった。
「マーガレット・ベルナール様、二次試験合格です」
「まっ、当然だよね。ハリー様~! 見ててくれましたか~!? って……そうだ、ルーク様やアルバート様と一緒に、お仕事があるから見られないんだったっけ」
この場にはルーク様はいない。そう言いたげに、わざと私のことを見ながら、ルーク様のところだけ強調した。
試験の場だというのに、相変わらず嫌がらせに暇がない。本当に憎たらしい。こんな人間が宮廷魔術師になったら……ハリー様が国王になるのも合わせると、本当に国が滅んでしまう。
どうして身勝手な人達のせいで、苦しむ人が出るの? そんな悪い人なんて、みんないなくなればいいのに。
そう思ったら、ルーク様のおかげで打ち勝った憎しみが、またしても私の心を侵食し始めた。
駄目、こんな邪な気持ちを持っていては、魔法がきちんと使えない。落ち着いて、さっきは出来たのだから、今度だって出来るはず! 落ち着くのよ、私!
「では次……シャーロット・ベルナール様」
「は、はいっ!」
「……さっきはまぐれで通過できたけど、無能なお姉様が二度もまぐれを起こせるわけないって。無様な姿をさらす前に、諦めちゃえば?」
「私は、絶対にあなたに合格なんてさせない!」
目の前の巨大なゴーレム、そして合格するために勝たなければいけないマーガレットの実力、そして今も私の心を占領する憎しみで全く余裕が無いせいで、声を荒げてしまった。
「あははははっ! 余裕なくなってるじゃん! やっぱりお姉様には、そういうのがお似合いだね~!」
これ以上、マーガレットの言葉に耳を傾けてはいけない。ただでさえ乱れている心が、更に乱されて……魔法の発動すらままならなくなってしまう。
「落ち着いて……そう、落ち着くのよ。憎しみに心を委ねては駄目……落ち着いて……私は愛する人から魔法を教わったんだ……いつも通りやれば、絶対に出来る……」
自分に言い聞かせるように呟きながら、何度も深く深呼吸をする。
そして、山のように巨大なゴーレムを見上げた。近くで見ると、想像の何倍も大きく見える。
「では、はじめ!」
「てやぁ!!」
開始の合図と同時に、私はまずは炎をゴーレムの全体に飛ばして攻撃する。当たった中でも、有効そうな場所を覚え、今度は水、雷と順番に攻撃を当て続ける。
とりあえず、部位ごとに有効な属性や攻撃方法は把握した。後は、弱点が変わる前に、あの巨体を破壊できるほどの破壊力のある魔法を使うだけなのだが、ゴーレムの攻撃を捌きながら、扱いの難しい地脈の力をコントロールするのは、至難の業だ。
「くっ……!!」
巨体を遺憾なく発揮した攻撃は、一発がとても重い。なんとか魔法で障壁を作って攻撃を凌いではいるけど……気を抜いたら、命を落としかねない。
「きゃっ、こわ~い! お姉様、死なないようにがんばってね~!」
マーガレットの声が聞こえるたびに、集中が乱れる。当然魔法の精度が落ちるどころか、魔法が不発することが増え、地脈の力のコントロールまで乱れ、体力を無駄に消耗してしまっている。
まさに絶体絶命なこの状況で、打開できる方法なんてあるのだろうか? 幸いにも、ルーク様が自然と魔法を使えるように特訓してくれたから、なんとか怪我はしないで済んでいるが……それだけだ。
「このままでは、時間も体力も持たない……ルーク様に大切な気持ちを思い出させてもらったのに……また憎しみに支配されて……なんて情けない……あっ!」
一瞬の気の緩みが、守りを弱めてしまった。私の障壁はゴーレムのパンチを防ぎきれず、思い切り後方へと吹き飛ばされてしまった。
そこにトドメと言わんばかりに、ゴーレムは顔の辺りに魔力一気に溜め込んでいく。あの魔法はまだ見たことがないが、きっと今までで一番の魔法なのは間違いない。
諦めたくない。負けるわけにはいかない。なのに、今の私にはどうすることも出来ない。必死に思考を巡らせて対処法を考えるが、一向に良い手立ては浮かんでこない。
『ふむ、随分と苦戦をしているようだな』
「えっ……?」
試験の場には私しかいないはずなのに、私以外の人の声が聞こえる。一体誰が、私に語りかけているの……?
そう思う暇もなく、突然地面から現れた三匹の海蛇が、一斉にゴーレムに襲い掛かり、私を攻撃から守ってくれた。
「この海蛇たちは……まさか!?」
見覚えのある海蛇達に驚く私の前に降りてきたのは、以前私とルーク様が救った、あの泉の精霊だった――
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