第五十七話 極悪非道
突然の襲撃を受けた私は、正体不明の存在に吸い込まれ、文字通り目の前が真っ暗になってしまった。
一体何があったのか、今の存在は何だったのか。それを知ることも無いまま、私はこのまま深淵に落ちてしまうの?
冗談じゃない。何とかして脱出をしないと……でも、どうやって脱出をすればいいの?
そんなことを考えていると、突然私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「シャーロット!!」
私の名前を呼ぶ声に反応して、恐る恐る目を開けると、そこには私を守るように立つ、ルーク様の姿があった。
一方のローブを着た人間は、地面から突き出た鋭い岩に貫かれ、二度と動くことはなくなっていた。
「シャーロット、無事か!?」
「る、ルーク様? は、はい……なんとか。でも、吸い込まれたはずじゃ……」
「完全に吸い込まれる前に、僕が引っ張り上げたんだよ。無事で本当に良かった」
そ、そうだったのね……一体何が起こったのかさっぱりわからない。驚きで胸がバクバクと高鳴っている。
「ルーク様、助けてくださり、ありがとうございます。急に襲われてしまって、どうすればいいかわからなくなってしまいました……」
「どういたしまして。中庭に異質な魔力……いや、悪意と言った方が良いかな。とにかく気味の悪いものを感じて、急いで来たんだ。まさか、こんなものがいるとは思ってなかったけどね」
「これは一体何なのでしょう?」
「見た目は大きなローブを着た人間に見えるけど、そうじゃない。これは魔法で作られた、悪趣味な人形のようなものさ」
魔法で出来ている……なるほど、そう言われるとしっくりくる。なにせ、ローブの下が底の知れない漆黒なんて、普通の人間なはずがないもの。
「これに飲み込まれると、奈落の底に引きずり込まれて封印される。そして、永遠に苦しみを味わうと言われているが、詳しいことはわからない。なにせ、このおぞましい魔法は禁術に指定され、代々の王家によって封印されてきた魔法なんだ」
「そんな魔法が、どうして私に……待ってください。王家が封印してきたってことは……まさか!?」
「そのまさかだろうね。ハリー達が邪魔者である君を、本格的に排除しに来ているとみて間違いない」
私達が話をしている間に、ローブの人間……いえ、人形は黒いヘドロのような形になり、そのまま地面へと溶けていってしまった。
「消えてしまいましたわ……」
「役目を終えたら、こうやって消えるようになっているんだよ……本当に忌々しい魔法だ」
「ルーク様……?」
「ああ、すまない。つい感情的になってしまった。なにせ、この魔法は効果もさることながら、発動するのも最悪な魔法なんだよ」
「発動でございますか? どう見ても五属性の魔法ではありませんし……特殊なものなのはわかりますが……」
「特殊だけど、ある程度の魔法の才能があれば、手順を踏めば簡単に発動できるんだ。その手順というのが……生贄だ」
生贄。その言葉を聞いた瞬間、背筋が冷たくなるのと同時に、私の前で亡くなったお母様のことを思い出した。
……私のお母様も、身勝手な人間のせいで怒り狂った精霊を静めるための、生贄だったから。
「魔法の発動のために、生きた人間を捧げることで、この魔法は発動される」
「この一回のためだけに、尊い命を奪ったというのですか!?」
なんてこと……それが人間のすることなの!? あまりにも邪悪すぎて、怒りを通り越して、形容しがたい感情が沸き起こっている。
「ルーク様、すぐにこのことを委員会や国王様に報告いたしましょう!」
「そうしたいのは山々だが、生憎証拠がない。僕達が話したことは、あくまで推測の域を出ないからね」
「そんな……! 被害に遭っている人がいるのに!?」
「僕もこんな暴挙は許せない。だが、彼らを咎める方法が無い以上、どうすることも出来ない。正義を貫くには、悪人を追い詰める力が無いといけないんだ」
「…………」
感情をむき出しにしている私よりも、ずっと落ち着いているルーク様だって、きっと悔しいに決まっている。なのに、私ばかり感情的になって……。
「ごめんなさい。ルーク様の仰る通りですわ」
「シャーロット……」
「ルーク様、絶対にあなたが国王になってください。あんな極悪非道な人が国王になったら、この国は終わってしまいますわ」
「ああ、もちろんだ。一緒にこの国を良くしていこう」
元からそのつもりであったが、今回の件でその気持ちは大いに高まった。
それと同時に、ハリー様やアルバート様、そして彼らに加担していると思われる家族に対して、更に強い憎しみを抱くようになった……。
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