第五十五話 天才魔法使い、マーガレット
マーガレットの傍から離れた私は、試験の開始時刻まで控室で静かに過ごしていると、ついに試験の時間がやってきた。
私達は、控室から大きな広場に連れて来られた。大きな観客席もあるのもあってか、ずっと昔にあったと言われる、コロシアムを思い出す作りね。
そうそう。試験はいくつかの課題によって行われるの。その内容は、直前になるまで知らされることはないから、咄嗟の対応力と魔法の実力が必要になると、ルーク様が言っていたわ。
「皆様、本日はお忙しい中、試験にご参加していただき、誠にありがとうございます」
会場の真ん中にいた、この試験の最高責任者である老婆が挨拶を始めた。
あの老婆の名前はパギア様。現役の宮廷魔術師の長を務めていて、歴代の中でもトップクラスの実力者と言われる、もの凄い魔法使いだ。
私も、いつかは彼女みたいに後世に語られるような魔法使いになってみたい。そうすれば、きっとルーク様の隣に立つのに相応しい人間になれると思うもの。
「――以上です。では、これよりグループに分かれて、第一試験を行います」
考え事をしている間に、彼女の挨拶は終わってしまっていた。せっかく凄い人の言葉が聞けるのだから、もっとちゃんと聞いておけばよかった。
……過ぎたことを考えても仕方がないか。今聞けなかったとしても、宮廷魔術師になれば話す機会はたくさんある。その時に、たくさん会話をしよう。
それにしても……思った以上に観客が多い。ブロックごとに、貴族と平民で分けられているみたいだけど、どちらもほぼ満員となっている。それほど、年に一度のこの試験は、注目度が高いということね。
「これより、順番に名前とグループを発表します。全員が呼ばれ次第、指定された場所に向かってください。まず……」
受付をしてくれた男性が、順番に名前とグループを告げていく。どうやら、グループはいくつかの動物の名前で分けられているようだ。
ちなみに私は鷲グループで、マーガレットは……同じ鷲グループだった。
「はぁ……」
一緒になりたくなかった相手と一緒になるだなんて、ついていな――いや、待って。これはマーガレットを乗り越えろという、神様からの試練なのかもしれない。
「鷲グループ、全員揃いましたね。ではこれより、第一試験の説明をいたします。内容はシンプル……魔法で的を破壊してください。ただし、魔法には対応する属性でしか破壊できないようになっております。全ての属性の的を用意してますので、各自魔法で対応してください」
「あ、あのー……それって、自分が使えない属性の魔法の的はどうすれば?」
「破壊できませんので、その的は諦める他ありません。ちなみに、破壊できなければ減点されます。一定の得点に満たせなくなった時点で、失格となります」
質問をした見知らぬ女性に続いて、何人もの受験者から、動揺の声が聞こえてくる。
全ての属性の魔法を使える人だなんて、世界中にほんの一握りしかいないのに、全ての属性に対応しなくてはいけない。この時点で、宮廷魔術師の試験の難しさが伝わってくる。
「では、順番にお呼びいたしますので、準備をしてください。ではまず――」
試験官に呼ばれた人から、順番に試験を開始する。どうやら、終わった時点で既に点数が算出されるみたいで、その都度通過か失格かを言い渡すみたい。
聞いている限りだと、点数は百点満点で、八十点が合格基準……だと思う。既に十人は試験を受けたが、まだ一人しか合格者が出ていない。
「やっぱり、属性が偏ると厳しいようね……」
唯一の合格者である女性は、四属性の魔法を扱っていた。そんな彼女が合格ギリギリというのは、試験の厳しさを浮き彫りにしている。
「では、次……マーガレット・ベルナール様」
「は~い」
こんな難しい試験だというのに、マーガレットは余裕綽々といった様子で前に出た。
「あっ、ハリー様~! あたしのことを応戦してくださいね~!」
観客席で見ていたハリー様を見つけたのか、マーガレットは両手を大きく振っている。
少々はしたないかもしれないが、あそこまで余裕が持てるというのは、羨ましくもあり、憎たらしくもある。
「それでは……はじめ!」
試験官の声に合わせて、マーガレットの周りに数々の的が現れる。しかし、その的は文字通り一瞬で消し飛んでしまった。
「あはっ、こんな子供だましの試験、ぱぱっとクリアしてハリー様に褒めてもらおっと!」
あまりにも早すぎて、一瞬なにが起きたのかわからなかったけど、すぐに理解した。あれはマーガレットが得意としている、魔弾の早打ちだ。
あの魔法は、ベルナール家に伝わる魔法の一つだ。扱える全ての属性に対応する汎用性に加えて、射程も早さも威力も高水準で、魔力の消費も悪くないという、まさに隙の無い魔法だ。なによりも、恐ろしく実践向きの魔法でもある。
私もやり方自体は知っているが、教わったことは一度も無いし、練習したことも無い。今の私なら、やろうと思えばやれるかもしれないけど……ぶっつけ本番は避けたい。
「うーん、このままじゃ余裕で満点が取れそうだしぃ……ハリー様に教わったあの魔法でも試そうっかな!」
大切な試験だというのに、余裕どころか馬鹿にするような雰囲気のマーガレットは、両手の先に魔法陣を作る。すると、彼女の両手には剣が握られていた。
「全部切り刻んでやるっ! 加速~!」
マーガレットは、緑色の魔法陣――おそらく風魔法の一種と思われるものを自分の足元に出現させ、軽く地面を蹴る。すると、一瞬で的に向かって飛んでいき……紙を切断するかの様に、あっさりと斬ってしまった。
「なにあれ、遠距離魔法でも大変なのに、近距離魔法で対応してる……」
「さすがは、名門ベルナール家のご息女だ……」
受験者どころか、試験官までもが固唾を飲む中、マーガレットは楽しそうに的を斬り刻み続ける。
一見簡単そうに見えるけど、的は対応した属性で攻撃をしなければ壊れない。おそらくだけど、斬る前に剣に付与している属性を都度切り替えているのだろう。
認めたくはないが、五つ全ての属性を扱えるだけでも凄いのに、あんな素早く切り替えられるマーガレットは、天才といっても差し支えない。
「そこまで! 記録は……九十八点!」
「え~!? なんで満点じゃないの~!? 全部壊したじゃん!」
「全て壊したからといって、満点にはなりません。独自の採点基準がありますので」
「ふーん。まあ合格ならなんでもいいや。試しうちした魔法も、思ったよりしっくりきたし!」
やや不満げそうではあったものの、とりあえず納得をしたマーガレットは、わざと私の前へとやってきた。
「どうどう、お姉様? やっぱりあたしって天才だと思わない?」
「…………」
「随分と黙りこんじゃって、情けないったらありゃしないね。まあ、せいぜい頑張ってね~」
相変わらず憎たらしいが、やはりマーガレットの魔法の腕は本物だ。魔弾による遠距離魔法だけじゃなく、あんな近距離魔法も扱えるだなんて……。
……ううん、弱気になってはいけない。私が合格をして、ルーク様と必ず結婚をする。そして……憎い家族に復讐をするのよ……!
「では次……シャーロット・ベルナール様」
「……はい」
ついに私の番がやってきた。名前を呼ばれただけで、胸の奥がドクンッと跳ねるくらい緊張をしているけど……絶対にマーガレットに負けるものか。合格するのは……私だ!
「あれって、もしかしてさっきの人の姉妹?」
「ベルナール家のシャーロットって、魔法が使えないって聞いたような気がするぞ」
「ていうか、シャーロットさんって行方不明なはずじゃ……?」
「いや、実は生きてたって、社交家に行った人から聞きましたよ」
「お静かに。では、はじめ!」
私に対して様々な声が聞こえる中、私はお母様の杖を握りしめ、的に向かって魔法を放つ――が、放った魔法の半分は的に当たらず、虚しく空を切った。
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