第五十三話 ちょっと息抜き
ここは一体どこなのだろう? もしかして、裂け目の繋げる先を間違えてしまった? それか、魔法が誤作動を起こしてしまった可能性もある。
でも、あのルーク様が魔法を失敗したり、繋げ先を間違えるようなミスをするとは思えないのだけど……。
「シャーロット、少しそのまま待っててくれるかな?」
「わかりました」
こんな暗闇の中だが、ルーク様が私の手を握ってくれているおかげで、不安は一切無い。
だから、言われた通りに静かに待っていると、パチンっと指が鳴る音がした。
すると、私達の足元に、光る雫のようなものが落ち……それが世界全てに広がっていった。
「わぁ……!!」
光が広がった先には、星空が広がっていた。それも、上だけではなくて、どこを見渡しても広がる星達。まるで、星の海を泳いでいるかのようだ。
空を飛んだ時も綺麗だったけど、この場所も引けを取らない、とても綺麗な場所だ。
「ふふっ、驚いたかい? ここは雷の魔法に反応して輝く鉱石で出来ている洞窟なんだ」
「ということは、この星の海に見えるものは、全て鉱石なのですか?」
「そういうことだよ。ここの鉱石は、光る以外にも、面白い特徴があってね。それを研究に活かせないかと思って、裂け目を繋げておいたんだけど……恥ずかしいことに、すっかり忘れていてね。それで、どこか息抜きに良い場所がないか考えている時に、思い出したというわけさ」
そんな経緯があったのね。確かに雷の魔法に反応して光る鉱石なんて、聞いたことがない。ルーク様が研究の材料にしようと思うのも、納得できる。
「以前の空の旅が気に入ってくれたみたいだから、今度はゆったりとした旅をと思ったのだけど、どうかな?」
「とても素敵ですわ! 私、感動しました!」
「それならなによりだよ。まだ奥もあるんだ。さあ、一緒に星の海を歩こう」
「はいっ!」
ルーク様にリードされながら、ゆっくりと奥へ向かって進んでいく。
どこを見ても、星が広がっているのもそうだが、まるで空を歩いているような感覚は不思議なものだ。
ルーク様に空の旅に連れていってもらったことがあるのにこれなのだから、空の旅が無かったら、もっと不思議な気持ちになってたわね。
「ここの鉱石は、加工すると美しく輝くんだ。一部の地域では、宝石として扱われるくらいなんだよ」
「宝石……この美しさなら、納得ですわね」
「僕もそう思うよ。ちなみにその鉱石……いや、宝石に込められた言葉があるんだ」
それって、いわゆる宝石言葉というものね。花言葉と同じように、宝石にも色々な意味が込められている。
「その宝石の言葉は……永遠の愛。言い伝えによると、運命に引き裂かれた男女の神がいて、別れ際に永遠の愛を誓いあうために贈り合ったのが、その宝石といわれているからなんだ」
「ロマンチックですけど、少し悲しい逸話ですね」
「そうなんだ。だから、君への結婚指輪に使う宝石の案から外したんだ。綺麗だし、宝石言葉も素敵だから、良いと思ったんだけどね……」
「け、結婚指輪……」
そ、そうよね。無事に宮廷魔術師になれた暁には、正式に結婚が許されているのだから、指輪も必要よね。
うぅ……改めて言われると、ドキドキしてしまうし、顔がにやけてしまう。
「あの、ルーク様……不躾なお願いでございますが……腕、組んでもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろん」
ドキドキと、ルーク様にもっと触れたいという気持ちが溢れ出てしまい、少しだけ大胆なことをしてしまったが、ルーク様は喜んで腕を組ませてくれた。
なんなら、もっと私にくっつこうとしていたが、さすがにこんなところでイチャイチャしていて、何かあった時に対応できなかったら、一生天国で後悔しそうだから、控えてもらえると嬉しいのだけど……。
「もうちょっとで、開けた場所にでるよ。おどろいて、転ばないようにね」
まさか、さすがに転んだりはしない……なんて心の中で思っていると、広い場所にでてきた。まだ雷魔法である光の雫が届いていないのか、暗闇のままだ。
「さあ、一気に光を灯すよ」
さっきと同じように雫を垂らすが、光はとてもゆっくりと広がっていくと、そこは開けた場所だった。その中心には、静かに佇む大きな鉱石があった。
その鉱石も魔法に反応して光りだしたのだが……壁や天井と比べて、格段に光が強い。
「ま、眩しい……まるで太陽みたいです!」
「あの特別大きな塊は、先程話した鉱石の塊さ。密度が高いからなのか、反応もより顕著なものなんだ。普通なら見られない、星々と太陽のコラボレーションってところかな」
確かに朝は太陽、夜は月と星が主役だ。この二つを同時に見られるだなんて、本当に幸運としか言いようがない。
「ここに連れてきたかったんだ。あそこで休憩しよう。ほら、お弁当も用意してもらったんだ」
バスケットを持っているのは気づいていたが、それが入っていたのね。
そんなに準備をしてもらってただなんて……私、本当にしてばかりで、なにも返せていない。
「ごめんなさい、私……なにも用意しておりませんわ……」
「僕が連れ出したのだから、無理もないさ。もし気になるのなら、僕のために今日の息抜きを全力で楽しんでほしいな。それが、僕にとって一番のお返しさ」
バスケットの中から、私の大好きな野菜がふんだんに使われたサンドウィッチを手渡すルーク様の表情は、いつもの様に穏やかだ。
ルーク様の言う通りなのかもしれないけど、やっぱり何かお返しがしたい。でも、今の私に出来るお返しってなんなのだろうか……そんなことを思いながら、サンドウィッチにかぶりついた。
「もぐもぐ……とってもおいしい……えっ? あれは何……? 白鳥……?」
「白鳥だって? 僕には何も見えないが……」
サンドウィッチに舌鼓を打っていると、突然白鳥の群れが私の視線の先に現れた。それも、一羽ではなくて、十羽以上はいる。
これだけいれば、ここに到着した時点で気づいているはず。それに、ルーク様は見えないということは……。
「もしかしたら、聖霊かもしれませんわ。こんなところにも住んでいるのですね」
「精霊は色々な場所に住んでいると言われているからね。それにしても、小屋の近くには小さな人間なような精霊がいて、例の泉には人型の女性と海蛇、ここは白鳥……多種多様な精霊がいるだね」
「私も、まだ精霊が見えていた頃のことは、ほとんど覚えてませんから、知りませんでした」
幼い頃のことで覚えているのは、お母様の暖かい笑顔と温もり、そして……忘れたくても忘れられない……お母様が亡くなるところだけだ。
その記憶達が鮮明に残り過ぎていて、他のことは忘れてしまっているのだと、自分では思っている。
それよりも、せっかく精霊に会えたのだから、少しでも会話が出来ればと思ったが、声をかける前に、白鳥たちは翼を大きく広げ、飛び上がった。
「綺麗……なんて幻想的なのかしら……! まるで、絵画のよう……」
「ふふっ、君が喜んでくれて、嬉しいよ」
「はい! 連れて来てくださって、本当にありがとうございます!」
美しい白鳥の群れが、星の海を優雅に飛んでいき、溶けるように消えていく。その光景は、言葉では言い表せないくらい美しく、どこか儚げにも見えた。
……やっぱり、こんな素敵な光景を見せてくれたルーク様に、ちゃんとしたお礼がしたい。
「……ルーク様、やっぱり私、なにもお返しできないなんて、耐えられませんわ」
「一緒にいるだけで、僕は満足なんだけどなぁ……」
「あなたは優しいから、そう仰ってくれるのですよ」
一口にお返しと言っても、なにをすれば喜んでくれるのだろう。ルーク様のことだから、きっとなんでも喜んでくれるとは思うけど……どうせなら、大喜びしてほしい。
「私に出来ることならなんでもしますし、なんでもご用意いたしますから、なんでも仰ってください」
「弱ったなぁ……してほしいこと……欲しいもの……う~ん……?」
色々と考えること数分。ルーク様はうんっと大きく頷くと、ずっと閉ざしていた口を開いた。
「全てが終わったら、君と旅行がしたいな」
「旅行、ですか?」
「ああ。魔法なんて使わないで、君とのんびりと旅行がしたい。もちろん、互いにそんなまとまった時間を作れるかなんて保証は無いから、いつになるかはわからないけど……」
「いいではありませんか。ルーク様と旅行……きっと楽しくて、幸せなものになりますわ」
私はこの国を出た経験が無いから、外国に行ってみたい気持ちはあるが、あくまでこれは、ルーク様へのお礼も兼ねている。私の意見は控えめな方が良いわね。
それにしても、ルーク様と旅行……どれだけ遠い未来かわからないけど、今から楽しみで仕方がない。明るい未来のことを想像するのって、本当に素敵なことね。
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