第五十一話 欲しいものは、平穏と謝罪
「は……? あなた、なにを言って……」
そんな意味のわからない勝負なんて、私が受けるはずもない。
そもそも、なにで勝負するかも提示されていないのに、どうして受けてもらえると思ったのだろうか。
「貴様は、もう少し交渉のやり方を学べ、愚か者。勝負というのは、宮廷魔術師の試験でどちらが宮廷魔術師に選ばれるかというものだ。そちらが勝てば、その杖に相応しいものを渡すと約束しよう」
「そんな抽象的な賭け品で、頷くと思っているのかい? 君こそ、もう少し交渉のやり方を学んだ方が良いと思うよ」
「いやいや、こちらはそうとしか言いようがないのですよ。人によって、物の価値というのは様々ですからね。ああ、さすがに命とかは勘弁してもらいたい」
負ければ、この杖を失うが、勝てば相応の物が手に入る……今の言い分だと、こちらから指定しても、文句は言われなさそうな感じがする。
「わかりました。その勝負、受けましょう」
「シャーロット!? 駄目だ、君が破れた時に失うものが大きすぎる!」
「問題ございません。元から多くても一人しか選ばれない試験で、選ばれる為に努力を重ねてきたのですから。それに、彼らが約束を破るなんて、そんな恥ずかしいことをするとお思いですか?」
「へぇ、お姉様も言うようになったね。それで、欲しいものは?」
「……私とルーク様の平穏。それと謝罪」
「平穏? 抽象的すぎるな。具体的に言え」
「今後、一切私達に関与してこないこと。それと、あなた達二人と、あとお父様とアルバート様に、私にした酷いことを認めて謝罪をしてもらいますわ」
元々の私の復讐は、プライドの塊であるお父様とマーガレットに、大勢の前で大恥をかかせるというものだ。
それに自然に繋げられるどころか、罪を認めさせて、償わせることだってできるかもしれない。
復讐と、ルーク様との幸せな時間が手に入る……こんな都合のいいものを、逃すわけにはいかない。
「いいだろう、その条件で呑もう。互いに約束を破るとは思えないが、念のために正式な文書を作成させよう。兄上も、これなら安心でしょう?」
「……ああ、そうだね」
話を振られたルーク様は、不満げな雰囲気を醸し出しながら、首を縦に振った。
「くくっ、そうと決まれば早速動かなければな。では、ごきげんよう」
異様に満足げなハリー様は、マーガレットと一緒に私達の前から立ち去った。
「シャーロット、本当に良かったのかい?」
「はい。勝手に決めてごめんなさい」
「僕のことはいいんだ。それよりも、君の方が心配なんだ」
「私は大丈夫ですわ。ルーク様、私……頑張って、絶対に勝ちますから。だから、応援してください」
「ああ、もちろんだ。さあ、改めて申し込みに行こうじゃないか」
勝手に約束をしたのに一切怒らない、寛容で優しいルーク様に連れられて、試験の申込場へとやってくると、多くの人で賑わっていた。
「あの、宮廷魔術師の試験の申込に伺ったのですが」
「宮廷魔術師の試験への申し込みですね。どなたからの推薦でございますか?」
「えっ、推薦……?」
受付をしていた男性の言葉に、私は目を白黒させた。
「ご存じないのですか? 宮廷魔術師は、毎年応募される方が大勢いらっしゃいます。中には冷やかし目的の方もいらっしゃるので、推薦を受けた方のみ受付が可能となっております」
えぇ!? そんなの、全く知らなかったのだけど!? どうしよう、そんな推薦をしてくれるような人、私の近くにいるの!?
「それなら問題ないよ。彼女がシャーロット・ベルナール嬢だからね」
「る、ルーク王子様! そうでしたか、これは大変失礼いたしました!」
近くで待っていたルーク様が、話に割って入ると、彼はとても慌てた様子で、私達に何度も頭を下げた。
この感じ、私のことは事前に推薦をしていてくれたのかしら……うん、きっとそうに違いない。
はぁ……本当に、ルーク様にはずっとお世話になりっぱなしなのに、私はなにも返せていないどころか、勝手に巻き込むような約束までして……情けない……。
「試験の受験者が、シャーロット・ベルナール様。推薦人がルーク・クレマン王子様ですね。では、こちらの書類に必要事項の記載をお願いいたします」
「わかりました。あっ……住所はどうしましょう……」
「とりあえず、城の住所で良いと思うよ。今の君は実家を出て、城で住んでいることになっているからね」
私だけに聞こえるように、そっと耳打ちをして教えてくれた。ルーク様の顔が近くに来て、ドキドキしたのは内緒だ。
「記入いたしました。これで問題無いでしょうか?」
「確認いたします。えーっと……はい、確認いたしました。では、こちらが受験票となります。試験の日程にこれをもって、会場までお越しください。連絡が無い欠席や遅刻、受験票の紛失は、いかなる理由があっても、失格となりますのでご注意ください」
やや厳しいように聞こえるが、宮廷魔術師は国にとって重要な役職だ。そんな仕事をするのに、遅刻や紛失といった初歩的な失態をする時点で、不適切ということね。
「わかりました。では、失礼いたします」
私は、スカートの裾を持ち上げて頭を下げると、ルーク様と一緒に部屋を後にした。
「ルーク様、ありがとうございます。事前に推薦をしてくださっていたのですよね?」
「そうだよ。王族や名の知れた貴族、あとは魔法学校の偉い人とかの推薦が必要なんだ。元から僕がするつもりだったから、伝えなくていいかなって思って」
「なるほど、そうでしたのね。色々してくださっているのに、私ときたら……」
自分は迷惑ばかりをかけている、駄目な人間だ。そんな言葉が喉まで出かかったが、グッと体に力を入れて無理やり止めた。
これで弱音を吐いたら、ルーク様はきっと励ましてくれる。でも、それに甘えてばかりいたら、私はこれ以上成長できない。
そもそも、この場面で弱音を吐いたら、励まされるのを求める、面倒くさい女になってしまう。それはちょっと……いや、とても嫌だ。
「さてと、それじゃあ用事も済んだことだし、小屋に帰ろうか」
「それなら、私一人で帰れますわ」
「いやいや、男として最後まで女性をエスコートするのは、当然のことだからね。それに、一秒でも長く君と一緒にいたいんだよ」
「はうぅ……」
またしてもルーク様の愛情表現で照れてしまった私は、ルーク様に手を握られながら、ルーク様の部屋に向かうと、そこにある空間の裂け目を通って小屋に帰ってきた。
「ふう、城がいつもより賑やかだったせいか、ここの静けさが際立つね。まるで世界に僕達しかいないみたいだ」
「そうですわね」
小屋の前に広がる湖をぼんやりと見つめていると、ルーク様はう~ん! と大きな声を出しながら、体を大きく伸ばした。
「このままずっとゆっくり過ごしたいところだけど、そろそろ公務に行かないと。夕飯くらいには戻れると思う」
「わかりました。ホウキと一緒にごはんの準備をして、お待ちしておりますわ」
「ありがとう。なんだか、まるで新婚みたいな会話だね」
「新婚……い、いつかそうなれるように、私……頑張りますから」
照れながらも、握り拳を作ってフンッと気合を入れる。我ながら、気合の入れ方が弱々しい気もするが、出てしまったものは仕方がない。
「君なら出来るさ。さてと、それじゃあ行ってくるよ」
「あ、お待ちください」
「どうかしたのかい?」
「まだ、色々してくれたり、私のワガママを受け入れてくれたお礼を差し上げてませんわ」
「そんな、気にしないで良いんだよ」
「そういうわけにはまいりません」
私は、ルーク様の両肩に手を乗せて体を伸ばすと、そのままルーク様にキスをした。
「こんなことが、お礼になるかわかりませんが……今の私が出来るお礼ですわ」
「シャーロット……いや、十分すぎるくらいだよ。おかげで、今日の公務は全て一人で片付けられそうだよ。それじゃあ、今度こそいってくるね」
「はい。いってらっしゃいませ」
今度はルーク様からキスをしてから、空間の裂け目の中に消えていった。
二回のキスを合わせても、数秒程しかない出来事だったのに、言葉に言い表せないくらいドキドキして、それ以上の幸福感に満たされた。
こんな幸せな時間を、もっともっと……それこそ、私達が老人になるまで過ごしたい。そのためには、私が頑張らないと。
『見~ちゃった! 見~ちゃった!』
『うふふ、ラブラブでいいわね~』
「あ、あなた達……!? 見ていたのですか!?」
『僕達だけじゃないよ? ほら、愛らしいホウキ達も興味深そうに見ているよ!』
「みんなまで!? うぅ、恥ずかしい……」
ルーク様に感謝を伝えたくて、周りのことに気が回っていなかった自分が悪いとはいえ、恥ずかしいことには変わりない。顔から火が出そうだわ……。
『大丈夫、大丈夫! ぼく達、二人、仲良し、何度も見てる!』
『あははははっ! なんのフォローにもなってないじゃんそれ~!』
「うぅ……そ、そうなのですね……みんな、ありがとう……」
男の子の精霊の言う通り、なんのフォローにもなっていないどころか、むしろさらに恥ずかしさが増した気がしてならないが、ホウキ達に悪意は一切無い。
だから、私はなんとか無理やり笑顔を作りながら、ホウキ達を優しく撫でてあげた。
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