第五十話 煽りの天才
村での精霊の騒動が終わってからしばらくの時が過ぎた。あれから私は、大きな問題もなく、ルーク様と共にいつもの小屋で過ごしている。
「では……いきますわ!」
私は、ルーク様が用意した魔法練習用の的に向かって、魔法の球をぶつける。日々の訓練のおかげで、確実に的が壊せるようになっているのが実感できるくらいには、上達してきた。
『へぇ……だいぶうまくなったじゃん! これも僕達のおかげかな~?』
『なに言ってるんだか。何もしていないじゃないの』
『わかってないな~。ここで見ていることが、シャーロットの安心につながるんだよ!』
例の二人? の精霊が、私の魔法の練習を見ながら、楽しそうに会話をしている。
……なんだか、ちゃんとに話をしてから、随分と気にいられたみたいだ。毎日ようにやってきては、暇つぶしにと言って適当に遊んで、満足したら帰るを繰り返しているのよ。
「ふう、少し休憩いたしましょう」
『シャーロット、おつかれさま! お茶、飲む?』
『喉が渇いたのなら、僕が水を用意してあげるよ?』
「いえ、遠慮しておきますわ。みんな、お願いね」
『はーい!』
練習を見守ってくれていたホウキ達は、仲良く跳ねながら小屋の中に戻っていった。相変わらず、あの子達の動きは可愛くて、見ていて癒される。
『ちょっとちょっと、なんで僕を頼ってくれないのさ~! つまんないの~!』
「あなた、そう仰ってお願いしたら、湖の水を私に頭から浴びせたではありませんか」
『さすがにあれは、イタズラの範疇を超えてるわよねぇ……私もドン引きだったわ』
『ちょ、ちょっと力加減を間違えただけだし~? それに、あれはイタズラじゃないし~? 普段から頑張ってるシャーロットの手助けをしたかっただけだし~?』
男の子の精霊は、露骨に下手な口笛を吹きながら、言い訳をする。
今話した通り、以前も同じ様に喉が渇いた時に、彼が水を持ってくると言われたのだが、湖の水の一部を持ち上げて、そのまま私の頭上から落としたものだから、頭からずぶ濡れになってしまった。
その時はルーク様がいたから、すぐに服は乾かしてもらったが、危うく風邪を引くところだった。
『あの時のイケメンの彼、もの凄い怒ってたわよね』
『え、そうなの? なんかすました顔をしてて、怒ってるようには見えなかったけど?』
『はぁ……ごめんねシャーロット。こいつ、馬鹿で子供なのよ』
「いえ、お気になさらず。もう済んだことですから」
彼には申し訳ないが、確かにルーク様は怒っていた。いくらなんでもやりすぎだ、僕のシャーロットが怪我をしたらどうするつもりだったんだと。
でも、イタズラが好きとはいえ、あの時の彼が、私に嫌がらせでしたわけではないのはわかっていたから、なんとか説得して怒りを静めてもらったの。
『そういえば、ルークはそろそろ帰ってくるの?』
「どうなのでしょう? 今日は朝からとても重要な会議と仰ってましたので、まだかかるかもしれませんわね」
大切な会議。それは、来るべく宮廷魔術師の選抜試験のための会議。
そう……私は、ついに目標だった宮廷魔術師の試験を迎える。
魔法の腕前に関しては、だいぶ上達したと思う。それに、ルーク様のオリジナルの魔法も、いくつか教えてもらっている。
とはいっても、まだまだ練習が必要なのは明白だから、こうして毎日魔法の練習を続けている。
『シャーロット、おまたせ! おまたせ!』
「ありがとうございます。ごくっ……ごくっ……ふう、今日もとてもおいしいですわ」
『シャーロット、嬉しい! ぼく達も、嬉しい!』
「おや、随分と楽しそうだね」
嬉しそうに踊るホウキ達を見ながら微笑んでいると、ルーク様が空間の裂け目を通って帰ってきた。
「おかえりなさい。会議はどうでしたか?」
「滞りなく終わったよ。予定通りの日時で、試験は開かれる。申し込みは城でできるから、一緒に行こうか」
「はい。それじゃあみんな、お留守番をお願いね」
『いってらっしゃい! いってらっしゃい!』
『よ~し、いない間にイタズラするぞ~!』
『よしなさいよ。あとでイケメンの彼に怒られても知らないわよ』
それぞれの個性が出ているお見送りを背中に受けながら、私達は空間の裂け目を通って城にやってきた。
「僕がいない間、練習の調子はどうだった?」
「とても順調ですわ」
「それはなによりだよ。ただ、あまり調子に乗って魔法を使いすぎないようにね。地脈の力のコントロールを失敗したら、取り返しがつかないことになるかもしれないからね」
「心得ておりますわ」
ルーク様と出会ってからの日々の練習で、だいぶ魔法が扱えるようになったとはいえ、地脈の力が扱いやすくなったわけではない。こういう時こそ、油断はしないで鍛錬を積む必要がある。
「そういえば、今日も精霊達が遊びに来てますの。相変わらず、あの二人は仲良しですのよ」
「彼ら、毎日の様に来ているよね。またイタズラをしないと良いんだが……」
「あはは……えっ? あれは……?」
ルーク様の部屋から、申し込みができる部屋がある一階の部屋に向かう途中、例の庭園が見える道を通った。
今日も良いお天気で、そよ風が心地いい庭園には、思わぬ人影があった。
「あれは、ハリーか?」
そう。あの庭園に、ハリー様がいたのだ。そして、彼の細い腕に抱きつく、一人の女性の姿も見えた。
……庭園は誰かの物では無いのだから、彼らがいても何の問題もないはずなのだが……ハリー様がいると、あの庭園で過ごしたルーク様との思い出が、汚されるような気分になる。
「ルーク様、見つかったら面倒ですわ。早く行きましょう」
「…………」
「ルーク様? どうかなさいましたか?」
「ハリーにくっついている女性、見覚えがないかい?」
あの女性? 見覚えがあるかと言われても……あ、あれ? あの姿……たしかに見覚えが……ま、まさか……!
「うそでしょ、マーガレット……!?」
なんと、ハリー様と仲睦まじくしているのは、私の妹のマーガレットだった。ハリー様の腕にくっついて、その豊満な胸を押し付けたり、何度も唇を合わせたりしている。
「いつの間に、あんな関係に……!?」
「これから大切な試験の申込だというのに、なんとも気分の悪くなるものを見せつけられたものだな……」
「その、私の妹が申し訳ありません……」
「恋愛は自由だからね。君が謝る必要は無いよ。さあ、こんなところに長居しても仕方がないし、行こうか」
「そうですわね、行きましょ――きゃあ!?」
改めて目的地へ向かおうとした瞬間、私達の行く手を阻むように、床から尖った岩のようなものが付き出てきた。
突然のことだったとはいえ、すぐに足を止めたことと、ルーク様が私を庇うように抱き寄せてくれたおかげで、かすり傷の一つも付くことはなかったのが、不幸中の幸いだったわ。
「あ、ありがとうございます。お怪我は?」
「当たってないから大丈夫だよ。そもそも、当てる気がなかったようだ」
ルーク様にしては珍しく、忌々しそうな表情で、庭園の方を向く。
私もそれにつられて視線を向けると、ハリー様がこちらに向かって、手を振っていた。
「やれやれ、気づかれていたようだ。そよ風から魔力を微かに感じると思ったが……どうやら、風属性の探知魔法のようだね。無視したら後で面倒なことになるかもしれないし、ここは適当にあしらおう」
「わかりました」
ハリー様とマーガレットがこちらにつく前に、ルーク様とコソコソ話して方針を決める。さすが兄ということもあり、弟のことはよくわかっているわ。
「おやおや、これはこれは兄上ではありませんか。今日も仲睦まじく手なによりです」
「そういう君も、素敵な女性と一緒にいるようだね」
「あはは、わかります~? やっぱりハリー様のお兄様というだけあって、あたしの魅力に簡単に気がついてしまうんですね」
どうして今の言葉が、本当に褒められているものだと思えるのだろう? どう考えても、嫌味でしかないのに。
「あなた、どうしてハリー様と一緒にいるのですか?」
「あたし、身も心もハリー様に染まってしまったの。本当に素敵なお方なんだよ、ハリー様は!」
「…………」
私の知らないところで、何があったかは知らないけど……我が妹ながら、なんて男を見る目が無いのだろう。心の底から嫌いな人間だけど、哀れに思ってしまうほどだ。
私にはわからなくて、マーガレットにはわかる、ハリー様の魅力があるのかもしれない。微塵も知りたいとは思わないけど。
「兄上達は、どうしてここに? ひょっとして、彼女がまたここで過ごすのですか? いいですね、マーガレットの足元にも及ばないと思いますが、城に華が増えるのさ良いことでしょう」
誰のせいで、ここで過ごさなくなったと思っているの? 本当に意地の悪い人間だ。人を煽る天才と言ってもいい。
これで、本当にルーク様と同じ血が流れているのか、疑問すら感じるくらい、この人のことは嫌いだ。
「私達は、宮廷魔術師の試験の申込に参りました。用が済み次第、すぐにお暇させていただきますわ」
「ふふっ、やっぱり参加するんだ」
マーガレットは、なにか意味深な言い方をしながらハリー様のことを見ると、小さく頷く。そして、思わぬことを口にした。
「お姉様、あたしと勝負をして。あたしが勝ったら、その杖をちょうだい」
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