第四十八話 愛の庭園
精霊の一件から三日後。大事を取ってずっと休んでいた私は、ようやく体が本調子に戻ってきた。
大きな怪我はしていないし、魔法の使い過ぎで疲労していたわけではないが、思ってた以上に、あの一件で疲れていたみたい。
「もう起きて大丈夫なのかい?」
「はい、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」
いつものように、私の杖を使った研究をしていたルーク様は、真剣な表情から笑顔に変えながら、私のところにやってきた。
「うん、顔色も良いし、大丈夫そうだね。何か食べるかい?」
「はい、お腹がペコペコですわ。すぐに準備をしますから、お待ちくださいませ」
「なにを言っているんだい。君はまだ病み上がりなんだから、無理をしてはいけないよ」
「ですが……」
「そんな顔をしないでくれ。実は、ホウキと一緒に作ったスープがあるんだよ。だから、君が何かする必要は無い。温めてくるから、少し待っててもらえるかな」
「はい」
そう言い残して、ルーク様はホウキと一緒にキッチンへと向かう。その後ろ姿を見ているだけで、とても幸せな気持ちになれる。
『あはは、だらしない顔になっちゃってさ~!』
『いいじゃない。それくらい幸せってことよ』
「この声……もしかして、精霊様ですの?」
窓の外に目をやると、そこには童話に出てくる小さな妖精なような生き物達が、覗き込みながら楽しそうに笑っていた。
『ありゃ、また見つかっちゃったね~』
「もしかして、たまに私の前に来ていた光の正体ですか?」
『そうだよ~! ちゃんと姿がわかるようになるなんて、すごいじゃん!』
「あ、ありがとうございます。今日は逃げないのですか?」
『いつも見つかったら逃げてばかりじゃ、芸がなくてつまらないじゃない? 今日はお喋りしたい気分なのよ』
男の子だと思われる精霊はケラケラと笑い、女の子と思われる精霊は上品に笑う。同じ精霊でも、性格や仕草は結構違いがあるものなのね。
「ずっとあなた達とは話せなかったのに、急にこんなに話せるようになるなんて、なんとも不思議ですわ」
『人生なんて、案外そんなものじゃないかな?』
『なにを偉そうに言っているのよ。私達精霊が、人間のなにを知っているというのよ』
『ん~、わかんないっ!』
「ふふっ……」
こうして話していると、精霊もあまり人間と変わらないのがわかる。一緒にいて、とても楽しいわ。私のような力が無いと彼らと話せないのが、とっても残念。
『いまのあなたなら、もっとお喋りしたいけど、そろそろ私達はお暇しましょ。イケメンの彼に嫉妬されちゃうわ』
『そうだね~。僕達がいたら、イチャイチャしにくくなるもんね!』
「い、イチャイチャって!? 私は……!」
『あははははっ! 図星を突かれて慌てるの、おもしろ~い! やっぱり残って見物しようよ!』
『駄目に決まってるでしょ! それじゃあね、シャーロット。また遊びに来るわ』
「は、はい。また」
女の子の精霊は、男の子の精霊の首根っこを掴んでその場を去っていった。
今までは、ぼんやりと光る不思議な物体でしか認識できなかったのに、ちゃんと実態を見られたどころか、また会う約束までできるだなんてね。
「これも、復讐の心よりも、温かい心が強くなった影響かしら」
「話し声が聞こえていたが、もしかして、精霊と会話していたのかい?」
「はい、そうですわ、」
「彼らはなんて?」
「世間話を少々?それと、い……イチャイチャするのを邪魔しないようにって……」
「あははっ! そんな気の使われ方をされるとはね! それじゃあ、お言葉に甘えてイチャイチャしようか!」
「えぇ!? あの、その……」
きっとリンゴのように真っ赤になっている顔を、ほんの小さくこくんっとすると、ルーク様は私の手を優しく握った。
「それじゃあ、食事を済ませたら、イチャイチャするのに素敵な場所を紹介するよ!」
その言葉通り、食事として用意してくれたスープを綺麗にいただいてから間も無く、ルーク様は空間の裂け目を作り出し、私を連れて中に入る。
裂け目の先は、どこかの庭園だった。色とりどりの花ビラが舞い、私達を歓迎してくれているようだ。
「ここは、城の中庭にある庭園だよ。亡き母上が好きだった場所でね。いつか君と、ここに来たかったんだ」
「ルーク様のお母様が……そんな大切な場所に連れて来て下さるだなんて、嬉しです」
「母上の好きな場所というのもあるが、ここは代々愛を誓い合った王家の人間が、その愛を育むためにやってくる場所とも伝えられているんだ」
「愛って……」
「事実だろう?」
「そ、そうですけどぉ……!」
口に出されると、恥ずかしくて仕方がない。ルーク様は大丈夫かもしれないが、私にとっては大問題だ。
「ほら、一緒に散歩デートをしようじゃないか」
一人で恥ずかしがっている間に、ルーク様は私の手を動かして、腕を組んでるような形にしてしまった。
「ここ、これって、腕を組んでますよね!?」
「ああ。いつもみたいにリードするのもいいけど、せっかくの二人きりなのだから、たまにはこういうのもいいだろう?」
手を繋ぎ、抱きしめ合い、キスもしているというのに、腕は組んだことはなかった。
普通に考えれば、キスよりも恥ずかしいことではないはずなのに、これはこれでとても恥ずかしい。
「ここにある花は、全て花言葉が良いものでね。これは永遠の愛。こっちはずっとあなたと一緒に。こっちは永遠の誓い……」
「お詳しいのですね」
「まあね。母上がそういうのが好きで、よく教えていただいていたんだ。とても聡明で、優しい人でね……おかげで、たくさんの知識が身についたよ」
「素敵なお母様なのですね」
「ああ、自慢の母さ。ところでシャーロット、君はどの花が好きかな?」
突然話を振られて困ってしまったが、なんとなく見た目が好きな花を指し示した。
「この大きくて黄色い、綺麗なお花ですわ」
「なるほど、とても良い花だね。確か……あなただけを見ているという花言葉だったかな」
「まあ、そんな花言葉があるのですね。まるで私のよう……はっ」
何気なく口にしてしまった言葉が、とても恥ずかしいものだということに気づくのは、そう時間はいらなかった。
「い、今のはその……違うんです。いえ、違うわけではなくて、むしろ本当にそう思いますけど……あうぅ、恥ずかしすぎて死んでしまいそう……!」
「僕も君のことをずっと見ているし、愛しているよ」
「えーっと……あの、その……そうだ! ルーク様はどのお花が好きなのですか!?」
「僕? そうだね……これかな」
ルーク様は、私をとあるお花の前まで案内してくれた。それは、ピンク色のとても愛らしい、小さなお花だった。
「昔からこの花に不思議な魅力を感じていてね。この花で、母上に小さな花冠を作って差し上げたこともあるんだ」
「とても素敵な思い出ですのね。私も、このお花は可愛らしくて大好きですわ」
「君も気にいってくれて嬉しいよ。そうだ、今日の記念に一輪プレゼントさせてほしい」
「いいのですか?」
「大丈夫、元々プレゼントするつもりだったから、事前に庭師から許可は貰っているから」
そう言うと、ルーク様はピンク色のお花を一本手に取り、髪飾りにするように、私の髪にそっと刺した。
「いいね、似合っている」
「ありがとうございます。ちなみに、この花の花言葉はなんなのですか?」
「無垢の愛。それと、あなたを必ず幸せにしますだよ」
「っ……!」
ルーク様が好きになった花が、たまたまそのような花言葉を持っていたのか、それとも運命のイタズラなのか。その花言葉は、ルーク様の心情を表しているかのようだった。
「私も……あなたを幸せにしたいです。ルーク様……愛しておりますわ」
私はルーク様の頬にそっと手を添えると、懸命に背伸びをしながらルーク様の唇を奪った。
初めて私からしたキスは、お花のような甘さと、とても大きな幸福感を感じる、素敵なものだった――
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