第四十七話 一件落着
「シャーロット、しっかりするんだ! 目を開けてくれ!」
ぼんやりと覚醒する意識の中、私のことを強く呼ぶ声に反応をして目を開けると、そこには驚くほど焦っているルーク様の顔があった。
しかし、私が目を開けたことを知るや否や、ぱぁっ……と表情を明るくさせた。
「よかった、気がついたんだね!」
「ルーク様、私……生きて……?」
「ああ、君は生きている! 無事で本当に良かった……君が死んでしまったら、僕は……!」
私の無事に安堵して涙を流すルーク様の頬にそっと手を置き、少しだけ手を動かして撫でる。疲れ切っている今の私には、これが精いっぱいだった。
「私よりも……ルーク様こそ、お怪我は……?」
「僕は大丈夫。君が泉に落ちた後、何故か突然精霊の攻撃が止まってね。おかげで命拾いをしたんだ」
「精霊が……?」
突然攻撃を止めたって……やっぱり、私の考えは間違ってなかったということなのだろうか? なんにせよ、事態が収まったのならそれでいいわ。
『人間の子よ、気が付いたか』
「ひゃあ!? えっ……せ、精霊様!」
てっきりもういないとばかり思っていたところに、突然声をかけられてビックリしてしまった。辺りを確認すると、精霊様は少し離れたところで宙に浮いていた。
「あの、精霊様……あなたの祠は……」
『貴様の力で、我の祀られる祠は修復された。同時に、我は冷静さを取り戻すことが出来た』
私の力が? 意識を失う前、杖がすごく光ったこと以外は、何がどうなったのかわからないけど、とにかく解決したならよかった。
それにしても……たった一体の精霊でこれなのだから、お母様が犠牲になった時の精霊達が人里に来ていたら、とてつもない大災害になっていただろう。
改めて、お母様のしたことは偉大であり、同時に精霊を怒らせた人間達のしたことが、いかに愚かなことだったかを痛感させられた。
『今ならわかる。貴様の杖だけではなく、貴様にも精霊の血が流れていることが。怒りに身を任せて暴れる我を静め、救ってくれてありがとう。そして、怒りに身を任せて傷つけてしまったこと、本当に申し訳なかった』
「いえ、そんな……私は私のすべきことをしただけですわ」
「シャーロット、彼女はなんて?」
「助けてくれたことへのお礼と、傷つけてしまったことに謝罪しております。それと、私の精霊の血のことも理解してくださったようです」
「そうか。ところでシャーロット、泉の中でなにがあったんだい?」
「実は――」
私が泉の中に落ちてしまった後のことや、泉の中に沈んでいた祠のことを話すと、ルーク様はなるほどと頷きながら、私の頭を撫でた。
「魔法で岩を破壊して、祠を直しただなんて、凄いじゃないか! 君の魔法は、僕達が思っている以上に上達しているんだよ!」
「そ、そうなのでしょうか?」
「ああ、間違いないよ! 今回の経験で、更に君は成長できたんだ!」
祠に関しては、私がやったとは言いにくいが……ルーク様にそう言われると、凄く自信になる。ただ、どうして急に成長できたのだろう?
「あの、精霊様。私……今までずっと魔法が使えませんでした。魔法を使おうとすると、精霊に邪魔をされていると言われていたのです。でも、最近になって急に魔法が使えるようになりました。心当たりはあるのですが、確信が持てなくて……何かご存じありませんか?」
『ふむ……』
精霊は何か考え込むような仕草をしてから、一匹の海蛇を私の元にやった。
『これに触れよ』
「えっと……こうですか?」
『よい。ふむ……貴様の心の闇を感じ取れる』
「闇……きっと、家族への復讐心ですわ」
『我ら精霊は、人間の邪な感情に過敏で、それを嫌う。その心を、同胞の血が流れる貴様が持っていることを嫌悪し、妨害していたのだろう』
ルーク様の仮説は、正しかったのね。確かに最近の私は、復讐よりも、ルーク様への好意や、ルーク様が守りたいものを大切にしたい、ルーク様と未来を歩みたいと思っている。
『貴様の闇は、そこまでのものではなくなった。だから魔法が使えるようになった。だが忘れるな。人間の心の闇というものは、簡単に膨れ上がるものだ。もしその規模が一定に達すれば、再び精霊は貴様を嫌悪し、貴様の邪魔をし続けるだろう。怒りや憎しみに身を委ねていた我が言える立場では無かろうが』
「そんなことはございません。ご忠告していただき、ありがとうございます」
「シャーロット、さっきからなにを話しているんだい?」
「彼女に、私の魔法のことをお聞きしておりました」
精霊の声が聞こえないルーク様に、今聞いたことを説明すると、興味深そうに頷いてみせた。
「なるほど、僕達の考えは、あながち間違っていなかったというわけだね」
「はい。これも、この暖かい気持ちを教えてくださった、ルーク様のおかげですわ」
「僕はただ、君のことを大切に、そして愛しただけだからね。そこまで感謝されると、なんだかむず痒いよ」
精霊の前だというのに、いつものように私にストレートに感情表現をするルーク様。恥ずかしいからやめてほしいような、もっと言ってほしいような、複雑な気持ちだ。
「さてと、事態も収まったことだし、一旦村に帰って休息を取ろう」
『人間達よ。今回は本当に世話になった。せめてもの礼として、村まで送らせてくれ』
「えっと、村まで送ってくださるそうですわ」
「それはありがたい! シャーロットは見ての通りだし、僕も結構魔法を使って疲れているからね」
「では精霊様、お願いできますか?」
『承知した。人間と精霊の血を継ぐ少女よ、もしなにか困りごとがあったら、我が手を貸してやろう。では……さらばだ』
最後にとても心強い言葉を残してくれた精霊は、三匹の海蛇を大きな水流に変化させると、私達をその水流に乗せた。
さっきまではあれだけ私達を苦しめた水流だが、今は驚くほど快適に運んでもらっている。こんな経験、普通に生活していたら、絶対に経験できないわね。
「シャーロット、落ちないように気をつけるんだよ!」
「大丈夫ですわ! どうやら、この水流が私達を掴んでくれているようですから!」
泉に落ちた時に、水に掴まれた時と同じ感覚を感じる。だから、よほど暴れない限り落ちないわ。
「ルーク様、ご覧ください! もう村が見えてきましたわ!」
「ははっ、行く時はそれなりに時間がかかったのに、帰りはこんなに一瞬だなんてね! 精霊の力というのは、本当に凄いものだ!」
基本的に穏やかなルーク様が、こんなに興奮する気持ちはわかる。私も、こうして何度も精霊の力を目の当たりにして、その凄さに驚かされっぱなしだもの。
私にも、精霊の血は流れているのだから、いつかはこんなに凄い魔法が使えるようになりたいものだ。そのために、日々の努力はこれからも続けていこう。
「うわぁぁぁぁ! また精霊の攻撃……あ、あれ? ルーク王子様!?」
「ご不安をかけてしまい、申し訳ない。問題は彼女が解決してくれたから、長老に挨拶をしたい」
「解決って……じゃあ、村は救われたということですか!?」
たまたま着地地点の近くにいた男性を安心させるために、大きく頷いて見せると、彼は大きな涙を流しながら、両手を天に掲げた。
「やったぁぁぁぁ!! 本当に、本当にありがとうございます!! みんなー! 村は救われたぞー!!」
彼の言葉を聞いた村の人達から、感謝と喜びの言葉が広がっていく。その表情は、安堵と幸せに満ちていた。
今回の一件は大変だったけれど、私が魔法使いとして大きな一歩を踏み出せた、素晴らしい出来事だった――
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