第四十四話 私にしか出来ない仕事
少し経ってから目覚めた私は、まだ恥ずかしさに悶えながらではあったが、のんびりと湖を眺めて過ごしていた。
「はあ……まさか、あんな夢を見るだなんて……」
実家にいる時に見ていた悪夢は、最近はとても減ってきている。その代わりに、ルーク様が夢によく登場するようになった。
それはいいのだが、さっきの夢は何というか……色々と凄かった。
私って、自分で思っているよりも……いろいろとあれな子なのかしら……? それとも、お付き合いをするようになって、浮かれすぎ?
どちらにせよ、人には言えないような夢には違いない。こんな浮ついた心で、魔法なんてうまくなれるはずもない。
「ルーク様は、もうしばらく公務から戻ってきませんし、浮ついた心を引き締めるためにも、練習をしましょう。はぁ!」
私は杖を取り出すと、ルーク様が用意してくれた的に向かって、何度も魔法で作った球を発射させる。
まだまだ地脈の力のコントロールができていないせいで、的を粉々にしてしまう時もあれば、ぽこんっと弾かれてしまうこともある。これが安定しない限り、試験で使うなんて、夢のまた夢だ。
「あっ……この感覚は……また……!」
地脈の力を引っ張り過ぎたのか、また杖の先で力が爆発しそうになったが、そこに一つの光がフワフワと飛んできて、杖の先を周り始めた。
「この光は……!」
『今日も頑張るね〜』
私以外の声、そして普通の生き物とは思えない見た目。やっぱりこれは精霊の声に違いない! 私、やっぱり昔みたいに精霊とコミュニケーションが取れているわ!
「いや、今はそんなことはどうでもいいわ! とにかく逃げなさい!」
『や~だよっ! それ~!』
「……あれ……?」
精霊がピカッと光ると、杖の先に溜まっていた地脈の力が、驚くほど安定していった。そして、そのまま魔法として的に放つと、綺麗に真ん中に命中し、的が真っ二つに割れた。
「すごい、今までで一番綺麗に出来たわ! この感覚を忘れないようにしなきゃ……あの、ありがとうございます! って……いない……」
どこを見ても、先程の光はどこにもいなくなっていた。まるで、最初からそんなものは、存在していなかったかの様に。
「また会えるかしら……とにかく、この感覚を忘れないように、もう一度練習ですわ!」
一度深呼吸を挟んでから、再び魔法の練習に入る。
あの精霊のおかげで、少しだけ感覚を掴めたからだろう。最初の時よりも、過剰に地脈の力を引っ張り上げなくなり、魔法の制度も上がってきている。
ここまで順調だと、後が怖くなる。変なミスをしないように、慢心せずに練習を続けないと。
****
「はぁ……はぁ……さすがに疲れましたわ」
この辺りの天気からはわからないが、持っている懐中時計が、既に夜になっていることを示していた。
予定通りなら、そろそろルーク様が帰ってくる頃だろう。帰って来たら、一緒に食事をしよう。あっ、外食に行くというのもいいわね。
……なんてことを考えながら小屋に入ると、ちょうど小屋にある裂け目が開き、ルーク様が帰ってきた。
「おかえりなさいませ、ルーク様。本日もお務め、ごくろうさまですわ」
「ああ、ありがとう。そっちは何事もなかったかい?」
「いえ……実は、また精霊と思われる光が現れて、私の魔法の手助けをしてくれました。それと、短い時間でしたが、会話も出来ましたの」
「会話もか……それは僥倖と言わざるを得ないね」
「どういうことですか」
ルーク様の雰囲気からして、何か大切な話なのだろう。そう思った私は、ルーク様と一緒に静かにソファーに腰を下ろした。
「つい先日、我らの国の僻地にある森で、精霊が怒り、暴れ回っているという連絡を受けたんだ」
「精霊が……」
精霊が暴れる……嫌な記憶が、勝手に思い出される。お母様が亡くなった時も、精霊が暴れていたからだ。
「最近、その地域で記録的な大雨があったみたいでね。それから間も無くだから、それが原因だと言われている。近くに住む村の人も何とかしようとしているが、精霊と話せなくて難航しているみたいなんだ」
よかった、原因は自然災害なのね。私の時みたいに、人災だったらどうしようと思ってしまったわ。
「なるほど……わかりましたわ。私が行って、精霊をなだめてきます」
「ありがとう。それじゃあ、この件は引き受けると連絡を出すよ。数日後には出発するだろうから、それまで体調を整えておいてね」
「わかりました」
新しい場所で、新しい精霊の声を聞く、か……相手は怒っているみたいだから、私の話を聞いてくれるかどうかは、行ってみないとわからないわね。何事もなければいいのだけど……。
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