第三十七話 全ては俺様の物
■ハリー視点■
面倒なパーティーを終えて自室に戻った俺様は、椅子になっている女の上に、勢いよく座った。
下からぐふって声が聞こえたが、崩れなかったのは評価してやっても良かろう。あとで俺様がたっぷり可愛がってやろう。
「それにしても……なるほど、シャーロットとは、そういう人間だったのか……」
以前から、シャーロットという人間に興味があった俺様は、パーティーの最中に、魔法でシャーロットを監視していたのだが、その中で気になる発言をしていた。
復讐という言葉、そして奴らが気にしていた杖……これだけでは何を言っているかわからないが、ベルナールの連中との会話を聞いていれば、何となく察せる。
元々、王族の情報網から得た情報で、ベルナール家の悪事や、火事があったことは知っていたが、それ以上のことは知らない。火事の真相については興味がなかったからな。
だが、あのごうつくばりなエドモンが気にしていた杖とやらは、興味がある。相当希少なのだろう。奴から感じた匂いの正体も、もしかしたらそれかもしれない。
兄上が突然婚約をしたのも、その杖が目的だと考えれば、合点がいくしな。
シャーロットは排除して、その杖だけ手に入れれば済みそうだが……まだその杖がどういうものかわからない。持ち主が死んだら暴走とかされたら、面倒極まりない。
やはり、事情を知っている奴らに聞くのが、一番手っ取り早い。
「おい、奴らはいつ来るんだ? パーティーが終わったら、ここに来るように、ちゃんと伝えたんだろうな?」
「はい……も、もう間もなくかと……」
椅子になっている女に問いかけていると、部屋の扉が控えめにノックされた。
「ハリー様。お客様をお連れいたしました」
「通せ」
部屋の扉が開かれると、そこにはシャーロットの実の父であるエドモンと、その娘のマーガレットが、怯えた様子で立っていた。
「し、失礼します……あの、何かご用でしょうか……?」
「用があるから、この俺様が時間を取ってやってるのだろう。そんなこともわからないとは、心底愚か者だな。まあいい、さっさと座れ」
部屋に置かれているソファーに座らせると、話をするために俺様も対面のソファーに腰を降ろす。
まったく、最高品質のものとはいえ、女の座り心地の足元にも及ばん。
「俺様の聞きたいことはただ一つ。シャーロットのことだ」
「ひっ……あ、えっと……それは、なんといいますか……」
ふん、大の大人がビクビクしてて情けない。大方、俺様がシャーロットの件をすでに知っていて、捕まえようとしていると勘違いしているのだろう。
心底馬鹿で呆れるが、俺様は天才だからな。その馬鹿な発想を逆に利用してやろう。
「シャーロットから、不思議な魔力を感じた。それの正体は、杖なのだろう?」
「えっ、どうしてお姉様の杖のことをご存じなんですか!?」
「ふん、やはりか。貴様がシャーロットの無事を確認すると同時に、杖のことも気にしていたからな。何かあると踏んでいたに過ぎん。その杖とシャーロットについて話せ」
「そ、それは……」
言い淀んでいるところを見るに、シャーロットと杖については話したくないのだろうな。
「話さないならそれでいい。貴様らを、殺人未遂でとらえて処刑するだけだ」
「なっ!? 我々がいつ殺人などしたのですか!?」
「シャーロットが行方不明となったあの火事は、シャーロットを殺すためだったのだろう? 俺様の情報網を舐めるなよ」
「っ……!」
火事の真相については、俺様は一切知らない。だが、シャーロットがパーティーに参加した時に、こいつらは明らかに様子がおかしかった。
だから、こうしてカマをかけてみたのだが、図星だったようだな。愚か者め、隠すならもっとうまく隠せばいいものを……俺様としては、楽が出来るから良いのだがな。
「……シャーロットについてお話すればよいのですね?」
「うむ。そうすれば、二人共無傷で帰してやろう。ああ、嘘をついてこの場を切り抜けようと考えぬことだな。俺様の魔法で、嘘は簡単に見抜ける」
当然、これも嘘だ。俺様にそんな魔法は使えん。だが、怯え切っている相手に、こういったハッタリは思った以上に効果的だ。
実際に、信じ切った馬鹿な二人は、シャーロットと杖について、ペラペラと話した。
「ほう、精霊の混血に、母親の形見である特別な杖か……父上との謁見の時に、精霊の声が聞こえたり、姿が見える話をしていたが、まさかそういった理由があるとは」
思った以上に、面白い話が聞けた。同時に、兄上の研究を邪魔するために、シャーロットを排除するつもりだったが、急にシャーロットを俺様のものにしたくなってきた。
それもそうだろう? 精霊の声が聞こえたり姿が見えるだけでも、世界に何人いるかどうかもわからないのに、そこに精霊の血が流れているのだぞ? そんな超希少な人間、欲しくないはずがない!
「その杖は、普段は体の中に隠しているということだな?」
「は、はい」
「なるほど。その杖は、どうすれば出てくる? それに、持ち主であるシャーロットが死んだら、杖はどうなる?」
「お姉様が出てきてと願うと、杖は出てきます。死んだらどうなるかは、わかりません……」
「元々、あの杖は娘以外の者は、誰にも扱えません。しかし、杖を他の者に渡したくもなかったので……娘が死んでも、杖は我々の管理下に置くつもりでした……」
ふん、懸命だな。使えないとしても、希少ゆえに他者に知られていない方法で使われる可能性もあるし、その希少な力を持っていると他者に誇示すれば、何事も自分達が優位に立てる可能性もあるからな。
こういうところだけは知恵が回るのに、他に活かせないというのが、まさに愚か者の典型だ。
「なるほど、よくわかった。もういい、下がれ」
「よ、よろしいのですか?」
「下がれと言っているだろう! これ以上、愚か者共と会話する時間など無い!」
部屋に怒号を響かせると、愚か者共は脱兎の如く逃げていった。
まったく、逃げ足だけは早いものだ。まあいい……俺様としても、これ以上奴らと会話して、時間を浪費するわけにはいかんからな。
「シャーロットと精霊の杖を放っておけば、本当に兄上の研究が完成してしまうかもしれない。それは阻止しなければ」
件の杖をすぐに取り出せれば手っ取り早いが、現状ではどうしようもない。ならば、シャーロット自体を俺様の手中に収めるのが、最も効率がいいだろう。
徹底的に調教をして、俺様に心酔させれば……兄上の研究も邪魔できて、婚約者を奪われたという屈辱も与えられ、希少な力を手にれられる。なんだ、俺様は天才か?
「そうと決まれば、どうすればいいかを考えなければな」
普通にシャーロットが城にいる時に行動をしても、兄上の邪魔が入るだろう。兄上にとって、シャーロットを失うわけにはいかないからな。
それなら、一人の時に行動をすればいいのだが、兄上には人形や空間の裂け目がある。
あの用心深い男のことだから、シャーロットが一人の時は、人形を一緒にさせているだろうし、その人形に何かあれば、すぐに裂け目で飛んでくるだろう。
「人形と兄上の接続を強引に断ち切れば、人形は無効化できるが……それも一時的だろうな……であれば……シャーロットの部屋に対して、魔法を無力化する魔道具を使えば……少し時間はかかるが、兄上の魔法限定に絞れば、問題は無かろう……お前、アルバートをここに呼んでこい。大至急だ」
「かしこまりました」
愚か者共をここに案内してきた女に命令をしてから、俺様は別の使用人をソファーに座らせ、その膝に頭を乗せた。
この太くて柔らかい感触が、日頃の公務で疲れている俺様を癒してくれる。今のうちに、少しでも疲れを取っておかなければな。
「やっほ~ハリーお兄ちゃん。来たよぉ」
「ああ、よく来たな」
ゆっくりと太ももの感触を堪能していると、アルバートがいつもの無垢な笑顔を浮かべながらやってきた。
「お前に一つ頼みたいことがある。なに、お前にとっても悪いことじゃない」
「頼み? ハリーお兄ちゃんの頼みなんて、いくらでもやるよ~」
「それで、その内容だが……俺様が指定した日時にシャーロットの部屋に行き、お前の魔法でシャーロットを手に入れてこい」
「シャーロットを? なんで?」
「理由は後で話す。手に入れた暁には、お前もシャーロットを好きにして良いぞ」
「本当に!? やるやる~! それで、どうすればいいの?」
当然の様に話の乗ってきたアルバートに、ニヤリと笑いながら作戦を話し始める。
ふふっ……兄上……シャーロットという駒を手に入れて喜んでいるところを悪いが、シャーロットと杖は俺様の物だ……!




