第三十四話 幸せな一時
「ルーク様、どうしたのかしら……」
あの後、一人で魔法の練習をしていると、あたりが暗くなる前に、ルーク様が公務を終えて小屋に戻ってきた。
それからというものの、ルーク様は何か考え込んでいるようで、私が呼び掛けても反応が鈍い。
今も、杖を使っての研究をしているのだけど、それにも集中できていないような感じだ。
「ルーク様。なにか悩み事があるのでしたら、私に相談してください。微力かもしれませんが、お手伝いできるかもしれません」
「微力だなんて、そんなことはないよ。むしろ、これは君にしか出来ないことだ。だからこそ、こうしてどうするか考えていてね……」
「どういうことですか?」
いまいち要領が掴めなくて問いかけると、ルーク様は小さく溜息を漏らしながら、私の対面に腰を下ろした。
「今度、王家が開くパーティーがあるんだ。そこに、君も参加するようにと、父上に命じられてしまってね。なんでも、僕の婚約者として、正式に発表をしたいらしい」
まだ、絶対に結婚すると決まったわけじゃないのに、随分と気が早い。今のうちに発表しておけば、後々になって楽になるのだろうか。
「まあ、そうでしたか。パーティーなら何度も参加したことがあるので、特段問題はございませんわよ?」
「問題しかない。君は知らないだろうが、貴族の間では、シャーロット・ベルナールは不慮の事故による火災で消息不明と言われているんだ」
「…………」
今では基本的にはここで過ごし、寝泊まりは城でする生活を送っているが、そのきっかけはあの火事だ。
きっと、お父様がその話を微妙に捻じ曲げ、巻き込まれた私は行方不明ということにしているのね。
「混乱が起こらないように、君のことを知っている人間には、情報を漏らさないように、父上から命令されているから、今のところは大丈夫だが……もう隠し通せない。君の父君や妹君に知られれば、またどんな行動を取ってくるかわからない。だから、どうしたものかと考えていたんだ」
「……色々とお手数をおかけして、申し訳ございません」
「別に君が悪いことをしたわけではないだろう? 気にすることはないさ」
私が何かしたわけではなくても、私の家族のことでルーク様に迷惑をかけているのは事実だもの。申し訳ないと思ってしまうわ。
「国王様が命令されている以上、私には断る選択肢はないかと思われます。もしなにかあったら、全力で裂け目があるところまで逃げますから、大丈夫です」
「なるべくなら、そんなことにならないようにしたいところだけどね……申し訳ないけど、参加してもらえるかな?」
「はい、もちろんです」
――こうして、私は久しぶりに大きなパーティーに出席することが決まった。
お父様やマーガレットのことは気になるけど、そればかりに気を取られて、ルーク様の婚約者としてミスをしてしまっては元も子もない。気を引き締めていかないと。
****
話を聞いてから十日後。城にある私の部屋に置いてある姿見を見ながら、私は感嘆の息を漏らしていた。
姿見には、ルーク様が用意してくれた薄い水色のドレスを身にまとい、髪もお化粧も完璧な状態の私が映っている。こんな素敵な格好、生まれて初めてだ。
「うん、さすが僕の見立ては間違っていなかった。君なら必ず似合うと思っていたんだ」
「ありがとうございます、ルーク様」
綺麗な格好をさせてもらえた事も嬉しいが、ルーク様が私のために考え、用意してくれたことが、なによりも嬉しい。
「会場はすぐ近くにある建物だから、特に移動時間は必要ない。だから、少しゆっくりしようか」
「えっ、そうだったのですか? まだ、開場までに時間はありますのに……」
早くに準備をすることに越したことはないとはいえ、すぐ近くならさすがに準備が早すぎる。
「まあいいじゃないか。すまないが、お茶の準備をしてもらえないかな?」
「かしこまりました、ルーク王子」
私の身支度の準備をしてくれた使用人達は、素早く部屋を出ていくと、これまた素早くお茶とお菓子の準備をしてくれた。
さすが、王家に使える方々だ……うちの使用人も仕事はテキパキしていたが、ここの使用人には敵わない。
「では、お時間になったらお声がけいたします」
「ああ、ありがとう」
そう言うと、彼女達は深々と頭を下げてから、部屋を出ていく。残された私は、ルーク様を見つめながら、とりあえずお茶に口をつけた。
「さっきの質問の答えだけどね」
「質問って、どうして早くという質問でしょうか?」
「ああ。実は、着飾った君と二人きりでお茶がしたくてね。時間ギリギリまで研究する手もあったけど、もう君との時間の方で頭がいっぱいになってしまったんだ」
照れくさそう笑うルーク様の言葉に、私の胸の奥が大きく跳ねる。それと同時に、一瞬にして体中が熱くなるのを感じた。
「あう……そ、そうでしたのね……そのお気持ち、とても嬉しいです。私も、その……素敵なあなたとこうしてお茶を楽しめて、嬉しく思いますわ……」
「本当かい? 嬉しいなぁ。ふふっ」
ずっとニコニコしているルーク様の表情がとても可愛らしくて、私もつられてニコニコした目で見つめてながらお茶を飲んで、お喋りをして、お菓子を食べて……私達のお茶は、いつもこんなかんじだ。なにも特別なことなど無い。
でも、この時間が私にとって、とても幸せな一時なの。
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