第三十二話 美しい国と民のために
「……今のは……?」
こんな場所で、私達以外の声が聞こえたことに驚いて、辺りを見渡す。当然ではあるが、その声の主と思われる存在など、どこにもない。
「どうかしたのかい?」
「誰かが、私達のことを見ながら笑っていたんです」
「誰か? こんなところに?」
「そうですよね……普通の人が、いるはずないですわよね」
きっと私の聞き間違いだろう。そう思っていると、ルーク様は真剣な表情を私に向けた。
「もしかしたら、精霊かもしれないよ」
「精霊? そんなことは……」
私は、お母様が亡くなってから、精霊の声が聞こえなくなってしまった。そんな私に、精霊の声が聞こえるだなんて、考えられない。
「ここには僕ら以外誰もいない。そもそも、普通は空を飛ぶなんてできないからね。でも、精霊なら人間に出来ないことなんて簡単にできるだろうし、見えないことにも納得がいく」
「それは……確かにそうですわ。ですが、どうして私に声が聞こえたのでしょう……?」
「それは僕にもさっぱり……精霊の声が聞こえるってだけでも、僕からしたら凄すぎることだからね」
いくら色々と知っているルーク様といえど、知らないことだってある。ルーク様に頼りっきりになるんじゃなくて、自分で考えないと。
「もし本当に精霊の声が聞こえるようになってきているのなら、とても喜ばしいことだね」
「どうしてですか?」
「君の魔法が使えない原因は、精霊の妨害だって話しただろう? もし彼らと話せるなら、どうして妨害するか聞けるかもしれないじゃないか」
「あっ……!」
声の主が精霊というのもそうだけど、どうして私は、自分のことなのに自分で気づけないのだろう。自分の間抜けさが嫌になる。
「楽観視出来るわけではありませんが、魔法が使えるようになるために、一歩前進したかもってことですのね」
「その通りだ。ははっ、僕達が結婚出来るのも、そう遠くない未来かもしれないね」
だ、だから急に恥ずかしいことを言わないでほしい。恥ずかしくてムズムズしてしまう。
「どうしたんだい、急に背中に顔をうずめて。もしかして、照れているのかな?」
「そ、そんなことはありませんわ。ただ、風が少し冷たいから、隠れただけです」
「ふふっ、そういうことにしておこうか」
今日のルーク様は、少々意地悪かもしれない。でも、そんなルーク様も良いと思っている自分がいる。
「照れてる可愛いシャーロットと、もう少し空中デートを楽しみたいところだけど、そろそろ僕の魔力が限界みたいだ。このまま城に戻って、裂け目を通って帰宅でも良いかな?」
「は、はい。どこかで降りて歩いても大丈夫ですわよ?」
「シャーロットは優しいね。でも、もう少しくらいなら大丈夫だよ。それに、こんなに合法的にシャーロットに沢山触れられる機会を逃すなんて、僕はしたくないなぁ」
「る、ルーク様っ!」
「あははははっ! ごめんよ、もうからかわないから!」
やっぱり今日のルーク様は意地悪だわ! もうっ!
「あー……こんなに笑ったのは久しぶりだ。これもシャーロットに、この素敵な国と民を紹介したおかげかな」
「ルーク様……」
「ここは本当に良い国で、民も素敵な人ばかりだ。君もその目で見て、実感したのではないかい?」
ルーク様の問いに、私は小さく頷いて見せる。
今日の視察兼デートの間に、私は多くの民達が楽しそうに笑ったり、遊んでいたり、お店を切り盛りしたり……多くのことを見た。
それは、ひとえにこの国が豊かで素晴らしく、民も良い人ばかりということの証明に思えた。
「僕はそんな国も彼らも愛している。だからこそ、僕はこの国と民を幸せに導き、誰も不幸にさせない王になりたいんだ」
「はい、あなたならきっと……いえ、必ず目指す王になれますわ」
「シャーロット……ありがとう。君にそう言ってもらえると、とても心強いよ」
満天の星空の明かりでほんのりと見えるルーク様の表情は、その輝きなんて足元にも及ばないほど、キラキラと輝いていた。
その表情を見て、胸の高鳴りを覚えると同時に……私は理解した。
ああ、私はこの人に、人生で初めての恋をしているのだと。
****
無事に城まで戻ってきた後、何事もなく裂け目を通って小屋に戻ってきた私達は、ホウキ達に出迎えられた。
『おかえり!おかえり!』
『たのしかった?』
「ああ、最高だったよ。シャーロットは今日のデート、どうだったかな?」
「すっっっっごく良かったですわ!! こんな素敵な体験、生まれて初めてです!!」
この感動を少しでもルーク様に伝えたくて、溜めに溜めて感想を伝えると、ルーク様は満足げに表情を緩ませた。
「それは何よりだよ。僕も民の普段を生活を改めて見られたし、君と楽しく過ごせて本当に良かった!」
『大成功!』
「それで、あの……次はいつかなぁ……なんて……」
今終わったばかりなのに、もう次のことを気にしているなんて、何ともせっかちというか……それくらい、次にデートや視察が楽しみだ。
「残念ながら、直近ではないかな」
「そうですか……」
「でも、かわりになんとかできる日を探しておくよ」
「いいのですか? ありがとうございます! それで、ルーク様はこの後どうされるのですか? 研究をされるなら、杖をお貸ししますが」
「さすがに寝るよ。あれだけ魔法を使った後だしね」
体を伸ばすルーク様の表情は、確かに疲れているように見える。私をおんぶしたり、お姫様抱っこをしながらの魔法……疲れるのも当然だ
「今日はどちらでお休みで?」
「小屋の方で寝るよ。こっちの方が、起きてすぐに研究しやすいしね」
「では、私はお城で休ませてもらいますわ」
本当は一緒にいたいところだけど、これ以上のワガママはよろしくないのはわかっている。
だから、裂け目で城に帰ろうとしたら、ルーク様が私の肩に手を乗せた。
「どうしましたか?」
ルーク様は、私の問いには答えず、その小さな唇を、私の頬にそっと押し当てた。
やられた方は顔が真っ赤なのに、仕掛けた本人はけろっとした顔をしている。
「さあ、今日は帰って休むと良い」
そのまま時空の裂け目に押し込まれ、一人で城に戻ってきた私は、そのまま自室のベッドに頭からダイブした。
「…………」
急に頬にキスだなんて、ビックリしない方が無理だ。思い出すだけでも、顔から火が出そうだ。
「ああ……うぅ~……無理……むりぃ……!今日は絶対に眠れませんわ……!」
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