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【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました  作者: ゆうき


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第三十一話 広がる光の海

「ふう、おいしかったね」


「は、はい。そうですわね」


 綺麗になった皿を前にして笑うルーク様に、私は少しだけ呆けながら頷いた。


 あの後も、何度かあーんをしてもらったということもあり、さらに疲れてしまった。

 疲れている今なら、ぐっすり眠れそうな気がするし、ドキドキしすぎて眠れないかもしれない。それくらい、色々な意味でインパクトが強い食事だった。


 そんな私を、夢見心地から現実に引き戻してくる会話が、近くの席に座る人達から聞こえてきた。


「ほら、うまいもんでも食って元気出せって。きっと娘さんは、ハリー様の元で、元気にやっているさ」


「うぅ……そうだといいのだが……でも、あんな突然連れていかれるだなんて……」


「……?」


 ハリー様が、あの人の娘を連れていった……? どういうことだろうか? なにか、連れていかれるような悪いことをしてしまったのだろうか?


「…………」


「ルーク様?」


 彼らの会話に疑問を持っていると、ルーク様も彼らの話に耳を傾けていた。それも、とても悲しそうで……同時に怒りも感じた。


「あの……ハリー様が女性を連れていくって……どういうことですか?」


「……君は知っておいた方が良いかな。いったん店を出ようか」


「は、はい」


 ルーク様はお会計をした後、私の手を引いて、人気の少ない路地裏へとやってきた。


 ここなら、誰かに聞かれる心配はない。それほど聞かれたくない話なのだろうか?


「実は、弟達はそれぞれ変わった趣味を持っていてね……どちらにも共通しているのが、女性に酷いことをすることだ」


「酷いことって……」


「端的に言うと、性的な暴行さ。互いに嗜好が違うから、やり方は違うみたいだけどね。その辺りは、僕も良く知らないんだ」


 性的にって……確かに貴族の中では、そういうのが好きな人は多い。私の元婚約者のヨルダン様だって、女遊びをなによりも好んでいた。


 でも、今の言い方だと……女性を意図的に傷つけて、楽しんでいるってことだ。

 一国の王子……それも一人は王位継承権を持っている人間が、そのような非人道的なことをするなんて、許せない!


「彼女たちを助けようと、自分で探して逃がそうと思ったんだが、僕の今の力ではハリーの魔法に対抗できなくて、見つけられないんだ。だから、父に止めるように説得したんだけど、証拠が無いと一蹴されてしまってね……おそらく父もご存じだろうけど、良くも悪くも二人共優秀な人間だからね。見逃しているんだと思う」


「優秀とか、優秀じゃないとか、そんなの関係ないですわ! そんな愚行、絶対に止めませんと!」


「ああ。そのためにも、僕が王となって、ハリーの愚行を事前に食い止めないといけない。それが、僕が王にならなくちゃいけない理由の一つだ」


 王族として、国や民のために尽力するのは、おかしなことではない。

 でも、毎日大変な思いをして、オリジナル魔法を習得しようとまでして、意地でも王位継承権を獲得しようとするのは何故か、気になっていた。


 その答えの一つが、こんなことだったなんて……私が同じ立場だったら、絶対にルーク様と同じ様に、なんとかして王になっているだろう。


「湿っぽい雰囲気になってしまったね。さて、引き続き視察兼デートを楽しもうとしようか」


「……はい」


 私にこれ以上心配をかけないように、カラッとした笑顔を浮かべたルーク様は、私を連れて路地裏を後にする。


 その後も、色々なところを食べ回ったのだけど……どうしても先程の話が気になって、そこまで楽しめなかった。


「……ごめんね、シャーロット」


「えっ?」


 突然足を止めたルーク様は、申し訳なさそうな顔を私に向けた。


「せっかくのデートなのに、僕があんな話をしたせいで、楽しめなくなってしまったよね」


「そんなことは……」


「隠さなくてもいいよ。君のことなら、なんでもわかるからね」


 自分の気持ちを隠すことは得意だったはずなのに、簡単にバレてしまっていたようだ。それほど表情に出してしまっていただろうか?


「……正直に申し上げると、やっぱり気になります」


「そうだよね……本当にごめん。何かお詫びをさせてもらえないかな?」


「ルーク様は、本当に責任感が強いと言いますか……そんなに気になさらなくても」


「気にするよ。僕にとってかけがえのない人が、僕のせいで楽しめていないなんて。そんなの申し訳ないって思うじゃないか」


 どうしよう……私のせいで、せっかくのデートが、こんな寂しい終わり方なんてしたくない。なにかこの空気を変える方法は無いかしら……。


「……なら、一つだけお願いを聞いてもらえませんか?」


「お願い? ああ、僕に出来ることなら何でも言ってくれ!」


「では……もう少しだけ、デートをしてくださいませんか?」


 食事をしているうちに、既に外は暗くなり、開いている店もレストランや酒場ばかりになっている。先ほどの食事で聞いた話では、暗くなったら帰る予定だそうだ。


 でも、このままでは人生初の散策とデートが、寂しい雰囲気で終わってしまう。そんなのは嫌だ。


「君が望むなら、喜んで。そうだ、とっておきの場所に招待するよ」


「とっておきの場所?」


「夜になったら帰る予定だったから、次のデートあたりに取っておこうと思っていた場所だよ。きっと気に入ってもらえると思う!」


 次のデートも考えてくれているんだということにドキドキしつつも、とっておきの場所というのも気になる。ぜひ連れていってもらいたい。


「それは楽しみですわ。案内していただけますか?」


「ああ! こっちだよ!」


 少しだけいつもの調子に戻ったルーク様は、少し早足でとある場所に案内をしてくれた。


 そこは、街から少し離れたところにある、小さな丘の上だった。周りには誰もいなくて、まるで私達だけがこの世界に取り残されたみたいだ。


「ここからだと、街の景観が眺められるのですね。たくさんの明かりがとても綺麗……良いところですわね」


「そうだね。でも、案内したいところはここじゃないんだ」


 ここじゃない? ここでも十分に良い景色で、十分なのだけど……。


「ちょっと強い風が下から吹くから、スカートをちゃんと押さえておいてね。それじゃあ……いくよ!」


「えっ、それってどういう……きゃあ!?」


 私達の足元に、緑色の魔法陣が現れてから間もなく、下から上に向かって強い風が吹いた。事前に言われていなかったら、きっとスカートがめくれてしまっていただろう。


「これでよし。さあ、僕の手を取って」


「はい。それで、今のは……?」


「すぐにわかるさ」


 そう言うと、ルーク様の体が宙に浮かび始める。それはとても驚くべきことなのだが、何故かルーク様を見る視線が変っていない。

 その理由は単純だった。そう……私も同じ様に、宙に浮いているからだ。


「ははっ、凄いだろう? 風魔法を改良して、空を飛べるようにしたんだ」


「こんな魔法も出来るなんて、本当に凄いですわ!」


「お褒めにあずかり光栄だよ。ただ、この魔法の制御はとても難しくてね。始めてのシャーロットでは、上手く飛べないと思う」


「では、どうすれば……?」


「こうするのさ」


 てっきり教えてくれるのかと思いきや、なんと私のことをお姫様抱っこをした。それに驚いた私は、ぴゃっ!? と、なんとも間抜けな言葉を発してしまった。


「今日の視察兼デートの締めは、空中散歩だ。いくよっ!」


 ルーク様は、掛け声と共に、街の上空に向けて出発した。飛んでる時に風圧や力が体に加わり、慣れない不快感と恐怖を感じる。

 しかし、そんなものは数秒もしないうちに、気にならなくなっていた。


「す、すごい……! 私、本当に空を飛んでますわ!」


「しっかり捕まってるんだよ!」


「はいっ!」


 不快感や恐怖感よりも、鳥のように飛んでいる目の前の現実に、興奮しっぱなしだ。


 地上を見れば、夜でも賑わう街の光が見渡せ、空を見上げれば満点の星達が静かに光を放つ。

 あまりも、幻想的で……光の海に囲まれているみたいだ。これが夢と言われても、疑いもしないで納得してしまうだろう。


「ルーク様、もう少し近くで町を見たいですわ!」


「気持ちはわかるけど、あまり近くに行くと、民を驚かせてしまうだろう?」


「あっ……それもそうですわね。私ったら、つい興奮しちゃって……」


「あはは、いいじゃないか。前まではろくに感情表現が出来なかった君の口から、興奮したなんて単語が出るなんて、本当に嬉しいよ」


 お姫様抱っこをされているせいで、ルーク様の顔がとても間近にある。そんな状態で笑顔を向けられたら、ドキドキするのは必然で……同時に、顔も熱くなっていった。


「そんな君に、少しスリルがあるツアーに招待するよ。一回離してもらえるかな?」


「そんなことをしたら、落ちてしまいますわ」


「シャーロットにもちゃんと魔法がかかってるから、すぐに落ちたりしないよ」


「そ、そうでしたね……興奮で頭から抜け落ちておりました」


 そっとルーク様から離れても、宙に浮いたままだ。万が一落ちたとしても、ルーク様なら助けてくれるという、絶対的な信頼があるから、思ったよりも躊躇なく離れられた。


「それで、今度はこっちね」


「おんぶ、ですか? これでいいですか?」


「うん、大丈夫」


 宙でおんぶをされた私は、自分の体を全面的に押し付けていることや、足を抑えられているこの状況に置かれたことで、一つの懸念が生まれた。


 それは……私、重くないだろうか? というものだ。

 それだけではなく、貧相な体でガッカリされてないかとか、くっついたら飛びにくいんじゃないかといった、多くの不安が頭に過ぎった。


 しかし、そんな不安はルーク様の笑顔と、それに続いた言葉で払拭された。


「シャーロットは重くないから大丈夫さ。それに、シャーロットはとても綺麗だから、自分の容姿を卑下する必要は無い」


「わ、私の考えていたことがわかったのですか?」


「君の考えていることは、魔法を使わなくてもわかるさ。あまり僕を舐めないでくれよ? あははっ」


 ルーク様に理解されて嬉しいような、恥ずかしいような……複雑な気持ちになっている間に、ルーク様の準備が出来たようだ。


「それじゃあ……いくよ!」


 さっきまではゆっくりと飛んでいたのに、今度は随分と速度を出している。

 そうなれば、もちろん風の抵抗や負荷も先程より増えるが、それよりも風を切って飛ぶのが爽快で、全然気にならない。


「あはははっ、気持ちいいね!」


「はい、とっても!」


「それじゃ、ちょっとした技を披露しようか!」


「きゃああああっ!!」


 さっきまでは普通に真っ直ぐ飛んでいるだけだったのに、急にクルクルと回りながら飛び始めた。


 瞬間的なことだけど、空が地面に、地面が空みたいになったり、それがすぐに戻ったと思ったら……なんて繰り返しながら、色々なところを飛んで回ってくれた。


 楽しい……楽しい! こんなに楽しいこと、生まれて初めて! ああ、お母様……ごめんなさい。今だけは復讐を忘れて、楽しませてください……!






『……うふふふっ! あの子、いい笑顔ね! あれなら、私達が見えるかも?』


『いやぁ、流石にまだ無理じゃない? それよりも早くあそぼーよ!』


『ええ、そうしましょ!』

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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