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【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました  作者: ゆうき


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第三十話 幸せとドキドキの視察

「もうすぐ陽が落ちるというのに、沢山の人でにぎわっておりますのね……!」


「この辺りは、多くの店が並んでいる地域なんだ。あそこは雑貨屋、あそこは花屋、その奥は本屋もある。少し進んだ先には、食事ができる店が多く並んでいるんだ」


 話を聞いているだけでも、ワクワクが止まらない。もし許されるなら、全ての店をじっくりと見て回りたいくらいだ。


「今日はあまり時間が取れなかったけど、今度来る時はもっと早い時間に来て、色々と見て回ろうね」


「はいっ。今からとても楽しみですわ」


 自分もわかるくらい声が弾んでいるし、興奮で体が熱くなっているのか、手汗を少しかいている。それでも、ルーク様は嫌な顔一つせず、私に色々と案内をしてくれた。


「わぁ……このお店は、魔道具を扱っているんですね……!」


「騎士団や宮廷魔術師も愛用している、魔道具の老舗なんだ。ここだけの話、ハリーが使っている杖も、ここの創設者にオーダーメイドで作らせたものなんだ」


 内容が人に聞かれると困るものだから、私にだけ聞こえるように耳打ちで教えてくれた。

 その際に、ルーク様の顔が近くまで来たせいで、一瞬にして顔が熱くなり、胸がドキドキし始めた。


「シャーロット、急に顔が赤くなったが、どうしたんだい? もしかして、疲れちゃったかな?」


「い、いえ。お気になさらず」


 その原因がルーク様にあるなんて、恥ずかしくて言えるわけもなく……顔を背けることしか出来なかった。


「そ、それにしても……歩いているだけなのに、とても楽しいですわ」


「そうだね。僕もとても楽しいよ。もちろんそれは、街の魅力のおかげもあるだろうけど、なによりも君と一緒にいるのが、一番の要因だろうね」


「はうぅ……」


 だ、だから無意識にそんなドキドキするようなことを言わないでほしい。そろそろ誤魔化すのも難しくなってしまうわ……。


「えーっと、えーっと……そ、そろそろお腹がすいてきたので、食事にしませんか?」


「そうだった、今日は街を回る他にも、シャーロットの食事も目的だった! ああもう、僕は本当に大馬鹿者だ!」


「わ、私は大丈夫ですから……あんまり大声を出すと、目立ってしまいますわ」


 私は日頃から悪意に満ちた目で見られていたから、多少変な人を見るような目で見られても問題は無いのだけどね。


「目立つ? あはは、そんなのを気にしていたら王子なんて――」


「し、しーっ!」


「あっ……そうだった。止めてくれてありがとう」


 もう、ルーク様ってば……自分で正体を明かすような発言は控えてもらいたい。バレたら視察ができなくなってしまうわ。


「それじゃあ、行こうか。僕のオススメの店が近くにあるんだ」


「わかりました」


 魔道具店を後にしてやってきた場所は、こじんまりとしたレストランだった。

 お洒落で綺麗な店ではあるが、王族であるルーク様がオススメするのは、少々意外な感じだ。


 なんていうか、もっと豪華というか……一日に一組しか食べられないようなお店だと、勝手に考えていたわ。


「ここのクリームパスタが非常においしいんだ。シンプルだけど、だからこそシェフの腕が強く反映されているんだ」


「そうなのですね。それではそのパスタにしますわ」


「それじゃあ、僕はトマトソースにしようかな」


「それもおいしそうですわね。ふふっ、楽しみですわ」


 今日の散策だけで、どれだけ自然に笑っているのだろう? そんなことを思いながら、ルーク様と世間話をしていると、注文したパスタが提供された。


「良い匂いですわ! それに、この美しい白……まるで雪みたい!」


「ああ、そうだね。それじゃあいただこうか」


「ええ! といいたいところなのですが……その、お恥ずかしながら、パスタをいただいたことがなくて……どうやって食べればいいのでしょう?」


 パスタなんて、一般的に食べられている料理なのに、それすら食べたことがないのを告白するのは、なんとも情けない話だ……。


「なら、僕の食べ方を見て真似をするといいよ。こうやってフォークをくるくるして……」


 ルーク様のを見て、同じ様に真似をしてみるが……。


「思った以上に難しいですわね……パスタが逃げてしまいますわ」


「焦らなくても大丈夫だよ。ゆっくりやってごらん」


 ゆっくり……あ、パスタが少しずつフォークに絡まって……このままゆっくりゆっくり……できたわ!


「いいね。それを口に運ぶんだ、ソースが零れないようにね」


「は、はい。いただきます……はふっ、はふっ……こ、これは……!」


 おっかなびっくりパスタを口にすると、濃厚なクリームソースの優しい味と香りが、口いっぱいに広がって……物凄い幸福感だ。


「おいしいです! すごく、すごく!」


「それはよかった。うん、こっちのソースも、相変わらずおいしい」


「まあ、そうですのね。では、次に来た時には別のメニューを……」


「その必要は無いよ。ほら、僕達が食べているものを、食べさせあいっこをすればいいじゃないか」


 た、食べさせあいっこ!? 確かにそうすれば、私ももう一つの味を食べられるし、ルーク様にもこの素晴らしいパスタをお裾分け出来るじゃない!


「ほら、あーん」


「……へ?」


 ルーク様は、ニコニコしながら、フォークに絡まったパスタを私に差し出した。


「あれ、あーんをしたことがない?」


「まだ小さい頃に、お母様にしていただきましたが……でも、これって……」


 あの頃は、まだ私が小さかったからしてもらっていただけで、当然今はそんな歳じゃない。

 そもそも、この歳になってあーんなんて……恋人がするようなことよね? さすがの私でも知っているわ。


「ほら、せっかくのパスタが冷めちゃうよ」


「うぅ……あ、あーん……」


 意を決した私は、髪がかからないように耳にかけながら、パスタを口に含んだ。


「お、おいしいです……」


「そっか。ならよかった!」


 とても嬉しそうなルーク様に、コクコクと何度も頷いて見せる。


 ……嘘だ。おいしいとかおいしくないとか、全く感じられない。それくらい、あーんでドキドキしてしまっていた。


「それじゃあ、僕もいただこうかな。あーん」


「わ、私もするのですか!?」


「うん。あっ……もしかして嫌だった? ごめん、君との食事が嬉しくて、調子に乗りすぎちゃったかもしれない……」


 さっきまでとても楽しそうだったのに、一瞬にしてしょんぼり顔になってしまった。


 せっかくルーク様が、私を連れ出してくれたのに、ここで悲しませてどうするの? た、ただルーク様にパスタを食べさせるだけじゃない!


「あ、ああ、あーん……」


 緊張しすぎて、上手くパスタをくるくるして取れないし、差し出したフォークは震えてしまったが、なんとか無事にルーク様にあーんをすることが出来た。


 ……なんだか、どっと疲れてしまった。下手したら、魔法の練習をするよりも疲れたかもしれない。


 でも、楽しかったし……なによりも、とても幸せな食事だ。まだ終わってはいないけど、機会があればまたルーク様と外食したいわ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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