第二十五話 可愛い寝顔
「……あれ……」
翌日、ルーク様のベッドで目を覚ました私は、起きて早々に首を傾げた。
私は、眠るとかならず同じ内容の悪夢を見る。でも、今日はそれを見なかった。
おかげで気持ちのいい朝……とはいっても、外はずっと明るいから夜が明けたって感じではないが……とにかく、不思議な気分だ。
「どうして今日は悪夢を見なかったのかしら……」
悪夢を見たいわけではないが、あれは私に復讐の心を忘れさせないのに一役買っていたから、見られないというのも、それはそれで少しだけ困る。
寝た環境が違うからなのか、ルーク様が近くにいる安心感なのか……考えてもわからないわね。とりあえず起きて、顔を洗ってこよう。
「水は、外の湖のを使えばいいですわね」
今日も気持ちのいい空の元、大きく体を伸ばしていると、小屋の周りをうろうろするルーク様の姿を見つけた。
「うーん、術式をやはり変えるべきか……しかし、それだと出力は上がるが、負担も増えてしまうし……僕だけが使うならまだしも、一般の人も使えるようにするとなると……」
「おはようございます、ルーク様」
「ああ、おはようシャーロット。よく眠れたかな?」
「はい、とっても。でも、私がベッドを使って本当によろしかったのですか? それに、こんな素敵なネグリジェまで出していただいて……」
実は、昨晩眠る前に、ルーク様に……今日は僕のベッドを使ってねと言われ、寝やすいようにとても素敵なネグリジェを魔法で作ってもらった。
おかげでとても快適だったが、代わりにルーク様の休む場所が無くなってしまった。寝床がないなら、ルーク様だけ帰ればいいと提案したのだけど、それじゃあ誰が君を守るんだと注意された。
結果、ルーク様は私を守るため、夜中も起きて研究に集中することで決着がついた。これならベッドは一つでいい。
懸念点は、ルーク様が休まなくていいのかということだったが、慣れっこだからの一言で終わってしまった。
ああ、そうそう。ぜひ研究してほしいと思って、寝る前に杖は貸してあるのよ。ルーク様なら、どんな時でも信頼できるもの。
「顔を洗って身支度を軽くしようと思ったら、その前にルーク様と顔を合わせるだなんて……ふふっ」
「あっ、良い笑顔! やっぱり君に一番似合う表情は、笑顔だね」
「そ、そんなこと……ルーク様の笑顔の方が素敵ですわ」
「君の方が素敵だと思うが……褒めてくれてありがとう。君に喜んでもらうために、ずっと笑顔でいないとね。はーっはっはっはっはっ!!」
「ルーク様、それは笑っているというより、騒いでいるの方が近いのではないでしょうか……?」
「む、そうかい? 徹夜明けだから、少しだけ気分が高まっているみたいだ」
いくらルーク様といえど、やはり徹夜は大変なのね。そうだ、私が朝食を用意している間に、休んでいてもらおう。
「ルーク様、少しお休みください。私が朝食を用意しますわ」
「そんな、申し訳ないよ」
「ベッドを使ってしまったお詫びと思ってください」
「……わかった。君の優しさに甘えるよ。それじゃあ、僕はベッドに横になるね」
素直にベッドまで行ってくれたか確認すると、ルーク様は掛布団の上から飛び込み、そのまま眠ってしまった。
これでは、風邪を引いてしまうかもしれない。出来るかわからないが、掛け布団をちゃんとかけてあげよう。
「よいしょっと……ルーク様って、思ったより重くないのですね……」
割と苦労することなく、ルーク様の下から掛け布団を回収出来た……が、一瞬の油断なのか、はたまた昨日の疲れが抜けていないのか。私はバランスを崩して倒れそうになってしまった。
「は、はぅ……!」
咄嗟に体を手で支えたおかげで、転ぶことはなかったが、倒れそうになった向きが悪かった。なんと、ルーク様に覆い被さるように倒れてしまったの。
まさに文字通り、また鼻の先まで近くに来たルーク様の切れ長な目とまつ毛、シュッとした鼻、小ぶりだけど綺麗な唇……そのすべてが視界に入ってきて、ドキドキがさらに加速する。
「あ、あわわわっ……」
体中が燃えるような熱さを感じながら、急いでルーク様から離れた私は、逃げるように外に飛び出した。
し、心臓が止まるかと思いましたわ……こんな経験、生まれて初めて……。
「……顔、洗ってきましょう」
深く深呼吸を行いつつ、湖に向かう。そこで、湖に映る自分の顔を確認すると……髪はボサボサ、よだれの跡もついていて、服も少し乱れて…あまりにも恥ずかしすぎる格好だった。こんな格好で、ルーク様とおしゃべりしてたの!?
「う、嘘でしょ……恥ずかしすぎて、死にたくなる……」
二重に恥ずかしさが重なってしまった結果、私はその場で両手を顔で覆いながら、ぺたんっと座り込んでしまった。
恥ずかしすぎてもう無理……お母様、私……すぐにそっちに行ってもいいかしら……?
****
なんとか恥ずかしさに耐え切った後、私はホウキ達の協力の元、湖で魚を捕まえることで何とか朝食を済ませた後、ルーク様と一緒に再び城へとやってきた。
今日は、私が使う予定の部屋の案内をしてくれるとのことだ。
「シャーロットには、この部屋を使ってもらおうと思っているよ」
「わぁ……!」
急に転がり込んできたにもかかわらず、とても広くて素敵な部屋が用意されていた。家具も一通りそろっているし、なによりもフカフカで大きすぎるベッドが一番嬉しい。
「クローゼットには、君に似合いそうな服を用意してある。これから僕の婚約者として、そして将来的には王を支える妃として、服は綺麗な物を着ないとね」
まだ王位継承権はルーク様にないはずなのに、もうその未来は決まっているみたいな言い方から、ルーク様の絶対的な自信と覚悟が伝わってきた。
私も絶対に目標を達成するという、確固たる意志を持ってこれまで生きてきたから、こういう人を見ると自分を見ているようで、応援したくなる。
「僕の本体は、基本的には公務以外でこっちにはいないから、もし何かあったらこの金のベルを鳴らせば僕に伝わるようになっている。あと、使用人に何かしてもらいたい時は、こっちの銀のベルを鳴らしてね」
「わかりました。ありがとうございます」
「それじゃあ、次は城の中を案内するよ」
城の中だというのに、ずっと私の手を取って案内をされているからか、すれ違う兵士や使用人の視線が気になる。
別に悪いことをしているわけでは無いのだから、堂々としていればいいのはわかっているけど……虐げられたり馬鹿にされたりすることはたくさんあっても、男性と仲睦まじいところを見られたことはないから、どうしても気になってしまう。
そんな私達に、一人の男性がやってきて、声をかけてきた。
「おや、兄上ではありませんか。立て続けに公務以外でこちらにお越しになるだなんて、珍しいですね」
「やあ、ハリー。今日は僕の未来の妻に、城の中を案内しているんだよ」
ハリーと呼ばれた彼は、国王様と謁見した時に隣にいた男性だ。まるで子供だと思ってしまうほど小柄で、とても幼い顔立ちをしているが、その見かけに反してただならぬ威厳を感じる。
それもそのはず。このお方は、ハリー・クレマン第二王子……ルーク様の実弟で、現在の王位継承権をお持ちのお方なのだから。
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