第二十一話 落ち着く香りに包まれて
国王様との謁見を終わらせた私は、あまり人目につかない所にあった空間の裂け目を使い、ルーク様と一緒にいつもの小屋に戻ってきた。
城ではずっと気を張っていたから、ここに戻って来たら、急に疲れが押し寄せてきた。このまま暖かいベッドに横になったら、すぐに寝てしまいそうだ。
「今日はありがとう。無事に君と婚約者になれて、本当に嬉しいよ」
「私もです。婚約者になってほしいと聞いた時は、とても驚きましたが、今は嬉しく思いますわ」
ヨルダン様に婚約を破棄された時点で、もう結婚は一生縁が無いものだと思っていたのに、まさかこんな素敵な男性と婚約できるなんて。
「それはなによりだよ。そうだ、せっかく婚約者になったのだから、よそよそしい呼び方はやめていいかな?」
「はい、あなたがそうしたいのでしたら」
「それじゃあ、シャーロット」
「……な、なんだか少し恥ずかしいですわね……」
ただ呼び捨てで名前を呼ばれただけなのに、胸の奥がキュッと締め付けられるような、不思議な感覚を覚えた。
嫌な気持ちではない。むしろ嬉しい時と同じような感じだが、気恥ずかしさも感じる。
「シャーロットも、僕のことを呼び捨てで呼んでみてよ」
「え、えぇ!? 私もですか!? 一国の王子様に、そんな失礼なことは出来ません!」
「僕からお願いしているんだから、気にしなくていいよ。ほら」
「え、えっと……る、ルーク………………様」
一国の王子様を呼び捨てにするということ、普段から男性を呼び捨てにしたことがないのもあり、結局いつものようになってしまった。
「いきなりは難しいかな。いつかは呼び捨てで呼んでもらえると嬉しいな」
「ぜ、善処しますわ」
結婚できたとしても、ルーク様を呼び捨てで呼べるようになる日は、果たしてくるのだろうか? 今の私には、想像できそうもない。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼しますわ」
「ああ、待って。君に渡したいものがあるから、もう少しここにいてくれないかな?」
「渡したいものですか?」
「ああ。君の父君に、婚約したい旨を書いた書状を渡したくてね。これから一度城に戻って、父上に書いてもらおうと思うんだ。事前に時間を取ってもらうようにお願いしたから、そんなに時間はかからないと思う」
いくら私の父が酷いとはいえ、貴族の当主には違いない。だから、こういう形式上必要なことも、やらないといけない。
「わかりました。それでは、ここでお待ちしていますわ」
「疲れているのにごめんよ。眠かったら、ベッドを好きに使っていいからね」
「大丈夫ですよ。まだまだ動けますもの」
「君は嘘が下手だね。ここについてから欠伸を噛み殺しているの、バレバレだからね」
しまった、完璧に隠し通せていると思ったのに、ルーク様には見透かされていたみたいだ。恥ずかしい……。
「僕に何か遠慮することなんて必要ないんだからね」
「お気持ちは嬉しいですが、やはり気にしてしまうものは気にしてしまいますわ」
「君らしいね。なら、少しずつ変えていけばいいさ。さて、それじゃあ行ってくるね」
ルーク様は、空間の裂け目を通って一度城へと戻っていく。それを見送ってから、私は小屋の中に入った。
『シャーロット、おかえり! おかえり!』
「ただいまですわ。ルーク様は、お城に用事があって出かけました」
『わかった! シャーロット、お茶飲む?』
『準備する! する!』
「まあ、ありがとうございます。それじゃあ、お願いいたします」
いつもなら自分もやるというのだけど、さすがに疲れてしまって動く元気がない私は、ホウキ達の好意に甘えることにした。
「ふう……」
部屋に置かれているソファに腰を降ろすと、無意識にため息が漏れ出た。
あんな啖呵を切ったのはいいけれど、もし試験に合格できなかったら、どうなってしまうのだろう。そんな、情けない考えが脳裏をよぎる。
「やる前から、駄目だった時のことを考えても仕方がない……わかってはいるけど……」
今までは、自分のことでしかなかったが、今は他人の人生までを巻き込んでしまっている。そう思ったら、弱気で保守的な考え方が、ふと浮かんでしまったの。
「とにかく、頑張るしかない。頑張って、頑張って……魔法が使えるようになる。そこまでいって、ようやくスタートラインだもの」
『シャーロット、できた!』
「ありがとうございます」
一人で悩んでいると、紅茶の香りと共に、可愛らしいホウキが、私を慰めるように来てくれた。
「いただきます」
『おいしい? おいしい?』
「ええ、とってもおいしいわ」
『よかった!』
『シャーロット、喜ぶ! みんな、嬉しい!』
ホウキ達の癒される姿、そして優しくてホッとするお花の香りがするお茶のおかげで、さらに眠気が襲ってきた。
少し休んだら、こんな嫌な考えもしなくなるかもしれないわね。ルーク様のお言葉に甘えて、少し休ませてもらいましょう。
「ごちそうさまでした。みんな、私は少し疲れてしまったので、ベッドで休ませていただきますわ」
『ごゆっくり! ごゆっくり!』
『待って、ベッド、きれいきれいする!』
ホウキ達は、力を合わせてベッドを綺麗に直してくれた。
本当に、この子達はルーク様に似て優しいというか、気が利くというか……お父様やマーガレットに見習ってほしいところだ。
「それでは、失礼して……わぁ、フカフカですわ……!」
いままで最低な品質といっても過言でもないようなベッドを使っていた私からしたら、このベッドはまるで雲のようにフカフカだ。
それに……こんなことを言ったら変態みたいに聞こえるかもしれないけど……全身がルーク様の香りに包まれて、とても落ち着くと同時に、胸が高鳴っている。
こんな状態で、はたして眠れるのだろうか。そんな不安を抱えながら目を閉じると、五分もしないうちに意識を手放した――
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