第二十話 結婚の条件
国王様の隣に立っている男性……パーティーで何度か見かけたことがある。もちろん、どんな人物かは知っているが、今はそれを気にしている場合ではない。
「父上、僕の伴侶となる女性をお連れいたしました」
「うむ、ご苦労であった」
国王様の前までやってきた私とルーク様は、深々と頭を下げて国王様にご挨拶をした。
「ごほっ、ごほっ……面を上げよ。そなたが、シャーロットであるな」
「はい。シャーロット・ベルナールと申します」
国王様は、何度かパーティーでお見かけしたことがあるが、こうしてちゃんと話すのは初めてだ。
お父様と国王様が話すことがある時は、決まってマーガレットを連れていっていたのが原因だったりする。
「ふむ、なるほど。ルークから聞いたのだが、そなたは精霊の声を聞くことも、姿を見ることも出来るそうだな?」
「はい。しかし、私は未熟ですので……今の私にはそれは叶いませんわ」
堂々とした態度で、国王様の質問に回答をしていく。普段の社交界の時のようにすればいいというルーク様の言葉のおかげで、いささか気が楽だ。
「それでも、その力を持つのは貴重であるな。ごほっごほっ……うむ、そなたのような女性が我らの血に加わってくれるのは、喜ばしいことである。そなたなら、ルークを任せても良かろう」
「ほ、本当ですか父上!」
「だが、一つ懸念もある。そなた、魔法が使えぬそうだな?」
「は、はい」
「精霊のことに関しては素晴らしいが、それはあまり民衆には目立たない力だ。それよりも、多くの魔法を使えた方が、民衆からは支持される」
「それは……仰る通りだと思いますわ」
やはり、人の上に立つ人間なら、力がある方が良いに決まっている。そういう意味では、私も人には無い力があるとはいえ、何かあった時に、ルーク様の妻として、民を守れるかと聞かれると……難しい。
「それなら問題ございません、父上。彼女は次の宮廷魔術師の試験で合格するのを目標に、特別な訓練をしております」
「宮廷魔術師だと? それは随分と大きく出たものだ。もう十年は合格者を出していない試験であるぞ? いくら名門のベルナール家の令嬢とはいえ、一年もかからずに合格するとは……ごほっ、到底思えぬ」
「いえ、国王様。私は絶対に宮廷魔術師の試験に合格いたしますわ」
「ほう? 根拠はあるのかね?」
「目に見える根拠はございません。しかし、この胸に燃え滾る熱意は、国王様にきっと伝わると信じておりますわ」
相手が一国の王でも、一切視線を逸らさずに自分の気持ちを伝えると、国王様はくぐもった笑い声を漏らし始めた。
「くくっ……はっはっはっ! ごほっごほっ! うむ、その気概やよし! それなら、余から条件を出そう。次の宮廷魔術師の試験に合格できなければ、余はそなたらの結婚は認めん」
「ち、父上!?」
「確かに精霊の力は欲しい。だからといって、魔法の力もあるに越したことはないであろう。そもそも、絶対に合格するのだろう? ならば、何一つ問題はなかろう?」
「はい、ありません。必ずや合格し、民のために奮闘するルーク様の支えになると誓いますわ」
元々、試験には合格するつもりだったのだから、何も問題は無い。合格できた時に得られるものが増えただけだ。
「よし。もし合格できた暁には、誰にもこの結婚について文句を言わせないと約束しよう」
「ありがとうございます、国王様」
「話は以上だ。少し話しすぎたな。余は少し休む……今日は下がるがよい」
「はい、失礼いたしますわ」
部屋に入ってきた時のように深々と頭を下げた私は、背筋を伸ばしながら謁見の間を後にすると、ルーク様も私に続いて部屋を後にした。
「ルーク様、国王様はお体の具合が……?」
「ああ、ここ数年で随分と体調を崩されている。あまり表には出さないが、相当苦しそうでね……そうだ、シャーロット殿。話したいことがあるから、僕についてきてくれないかな?」
「はい」
私が勝手に話を進めたから、もしかしたら怒られるかもしれないと思いながらついていくと、そこは謁見の間の近くにあった部屋だった。
「ここは僕の部屋だよ。ほとんど使っていないけどね」
「まあ、ここがあなたの部屋なのですね。小屋の内装とよく似ておりますわ」
「この部屋を参考に作っているからね。それよりも……」
ルーク様は、私に向き直すと、そのままお説教を――したりせず、上半身が飛んでいってしまうんじゃないかと心配になるくらいの勢いで、頭を下げた。
「シャーロット殿、すまない! 僕がもっとしっかりしていれば、あんな条件を出されずに済んだのに……!」
「ど、どうしてあなたが謝るのですか? 元々絶対に合格するつもりだったのですから、問題ありませんし、結婚するならちゃんと認めてもらいたいですし……それに……」
「それに?」
「万が一、あなたと結婚できなかったとしても……私達の繋がりが断たれるわけではありません」
せっかくできた素敵な縁を、一度の失敗で失いたくない。きっと、この気持ちはルーク様も同じだと信じたい。
「それは……わからない。父上なら、僕達が絶対に会えないようにするかもしれない」
「そうなったら、私は意地でもあなたに会いにいきますわ。これでも、がむしゃらに努力するのは慣れておりますから」
「……シャーロット殿……」
なんでも諦めてしまえば、簡単に楽になれる。でも、私は諦めるということを知らない。欲しいもの、目的のためなら、どんな努力でも厭わない。
「君は……強いな。すまない、僕が間違っていた! 柄にもなく弱気になってしまっていた! 全て君の言う通りだ!」
「ルーク様……!」
「僕達の目標のため、そしてその先に待つ結婚のため、必ず宮廷魔術師の試験に合格しようじゃないか!」
両手を握られながら言われた力強い言葉に、力強く頷いて見せた。
結婚をするのに課題ができてしまったが、やることは変わらない。一歩一歩努力をするだけだ。
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