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【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました  作者: ゆうき


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第二話 無茶ぶりなど日常

 あの後、別のボロボロのエプロンドレスに着替えた後、なんとか洗い物を終わらせた私は、嫌々ながらも、マーガレットの元へと向かった。


 あんな冷水を全身に浴びたせいで、もう体の至る所の感覚が無くなっているけど、悠長に暖を取る時間など、私に与えられるわけもなかった。


「失礼します」


 この時間なら、朝食を食べている頃だと思った私は、屋敷の食堂に向かうと、お父様とマーガレットが、楽しそうに食事をとっていた。


「お姉様、遅いんだけど。グズならグズらしく、少しでも早く来る努力くらいしてくれない?」


 私にあれだけ寒い思いをさせておいて、自分は暖かい暖炉の前で、呑気に暖かいスープを飲んでいるその姿に、強い怒りを覚える。


「……私にご用とは?」


「ああ、そうそう。あたし、フロワが食べたいの。だから、手に入れてきて」


 フロワとは、寒い時期や地域でしか採れない果物だ。スッキリした甘みが特徴的で、とても食べやすいと言われている。

 私は当然食べさせてもらったことがないから、あくまで聞いた話でしかない。


「フロワって、確か最近手に入りにくいものですわよね」


「へぇ、よく知ってるじゃん? 確か、採り過ぎてなかなか手に入らなくなっちゃったみたい。でも、そんなの関係ない。早く手に入れてきて。ああ、もちろんお金はあげないから」


 市場への流通が著しく減っているとはいえ、もしかしたら市場に行けば手に入るかもしれない。

 しかし、それはお金があればこそできる手段……手元にお金が無い私は、マーガレットからお金を貰うしかない。


 そんなこと、マーガレットはわかって言っている。つまり、この寒空の中、あてもなくフロワを探させる気なのだろう。


「シャーロット、わかったな。フロワを見つけてくるまで、屋敷に帰ってくることは許さん」


「そう言われましても、私の足で行ける範囲には、フロワは自生しておりませんわ」


「私に口答えするのか? 貴様、随分と偉くなったものだな? ん?」


 そう言いながら、お父様は人差し指を横にシュッと振ると、突然私の体が、強い風に包まれた。


 その風自体には、私を傷つける程の力はないが、私の体は冷水で冷え切っている状態。そんな私に強い風は、何よりも体を痛めつけるのに適していた。


「も、申し訳ございません。ですが……このまま私を叩きだしたところで、マーガレットの望みは叶えられませんわ。それでは、本末転倒でしょう?」


「ふん、仕方がない。フロワがまだ残っていると思われる場所の近くまで、使用人に送らせてやろう。泣いて喜ぶがいい」


「さすがお父様。寛大な措置だね!」


 なにが寛大な措置だ。聞いているだけで、虫唾が走るし、怒りと憎しみで、頭が沸騰しそうだ。


 しかし、おかげで冷え切った体に少しだけ熱を与えることが出来た。これが冷え切らないうちに、早く出発してしまおう。


「あれ、ねえ……お姉様? お父様にありがとうございますは? お父様が、わざわざ手を打ってくれたんだよ?」


 マーガレットはニコニコしながら、私の元にやってくる。その道中で、手の先に魔法陣を作り、そこから一本のナイフを取り出して、私の喉元にあてた。


「ほらお姉様、ありがとうございます、でしょ?」


 突き付けられたナイフの先が、私の喉にほんの少しだけ刺さる。喉を雫のようなものが伝う感覚と共に、鋭い痛みが襲ってきた。


「…………ありがとう、ございます」


「ふん、わかればいいのよ。ご褒美に、このスープをあげてもいいよ」


 マーガレットは、自分が食べていたスープをすくい、私の前に差し出した。


 冷え切った体に、温かいスープなんて、喉から手が出るほど欲しい。

 でも、ここでこれを飲んでしまったら……私は一時の暖を得る代わりに、彼らに屈してしまうことになる。そんなの、死んでも御免だ。


「いえ、結構ですわ。私は、急いでフロワを採りにいかないといけませんから」


「え、つまんないんだけど。はぁ……せっかく寸前のところで取り上げて、悔しがるお姉様が見たかったのに、期待外れだよ。少しはあたしを楽しませてくれなきゃ」


 マーガレットが面白いとか面白くないとか、私には関係ない。とにかく、早くフロワを見つけてこないと、また酷い仕打ちをされてしまうわ。



 ****



「寒い……もう、体の感覚がない……」


 家を出発してから数時間後、なんとか私はフロワを見つけて戻ってくることが出来た。その代償として、フロワを探す際にあちこちを凍傷してしまった。


 今は、フロワをマーガレットに渡してから、一旦小屋に戻って来て、焚火をすることで暖を取っている。


「ああ、暖かい……毎日毎日、私をこんな虐げて……いつか思い知らせてやりますわ……」


 長年に渡って蓄積された恨みで、更に体を温めていると、珍しく屋敷の使用人がやってきた。


「シャーロット様。本日はイグウィス家で行われるパーティーがございますのを、お忘れですか?」


「……ああ、そうでしたわ」


 イグウィス家とは、私が婚約しているご子息様の家の名前だ。この国でも数少ない、侯爵の爵位を持つ家だ。


 私がこれだけぞんざいな扱いをされても、最終的にはこの家に置かれているのは、イグウィス家と良好な関係を気づくための道具にしたいというのが理由だ。


 そんな家で、今日はパーティーが開かれる。何か重大な発表があると聞いているが……興味が無いというのが本音だ。


 なにせ、私は婚約者のことを愛しているわけではない。向こうも私と愛を育む気など無いようで、女性をとっかえひっかえして遊んでいるとのことだ。


 一応、婚約してすぐは私のことを気にかけてはいたけど、そっけない態度をずっととっていたから、すぐに興味がなくなったのだろう。


 ……つまり今の私は、お父様にとって、両家の縁を結ぶための、お飾りの婚約者でしかないということだ。


「本当なら、あなたのような人の身支度などしたくないのですが、これも仕事ですので、早く屋敷に戻ってくださいませ」


「ええ」


「では、私は先に戻っておりますので。ああ臭い臭い……あの小屋の近辺は、臭って仕方がありませんわ」


 自分が仕えている主人の娘に対する態度とは、とうてい思えないような対応をした使用人は、私を置いていそいそと去っていった。


 こんなことは、もはや日常すぎて何も思わない。これでいちいち気にしていたら、身も心も持たない。


 ……念の為補足しておくけど、この小屋も私の着ている服も汚いけど、ちゃんと自分で洗っているし、掃除だってしているから、臭ったりはしない。使用人達が、私を嫌な気持ちにさせるために、わざと言っていることだ。


 あんな主人に仕えていると、それに似てくるってことなのだろうか……まあいい。また変な難癖をつけられてしまう前に、早く行こう。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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