第十八話 婚約者になってほしい
ルーク様の小屋に通うようになってから一週間後、私は毎日魔法の練習に勤しんでいるが、いまだに収穫は無い。
わかっていたこととはいえ、私が魔法を習得するのは、途方もない練習量が必要そうだ。しかし、なんとかして今年の宮廷魔術師の試験に間に合わせないと。
「さてと、そろそろルーク様のところに……」
「ちょっと、待ちなさい」
家の中で空間の裂け目を開こうとした瞬間、勢いよく家の扉が開かれた。そこに立っていたのは、片足をあげたマーガレットだった。
……裂け目、見られていないわよね? こんなのが見つかったら、何をされるかわかったものじゃない。
「ドアはちゃんと手で開けてください。みっともありませんわ」
「お姉様面しないでよ、気持ち悪い。それよりも、最近いつも家にいないって聞いたんだけど、何をしているわけ?」
「それを言う必要はございませんわ。朝の仕事を終わらせたら、あとは自由行動というのは、お父様と決めた約束事ですから」
「それはそうだけど、いつもならこのボロ小屋の近くで練習してたじゃない。どうしてそれをしなくなったの?」
「…………ついに、お伝えする時が来ましたか」
わざわざ、ルーク様のことや、空間の裂け目のことを言う必要は無い。だから、ありもしないことを、さもあるように演技をし始める。
「私は、魔法が使えなくても努力で何とかなると思ってました。魔法を使えるようになって、宮廷魔術師になって、認めてもらおうと……!」
「無理に決まってるでしょ? そもそも、あたしがなるんだし!」
「ええ、本当にその通りでございますわ。何とか頑張りましたが、マーガレットには勝てそうもない……だから、練習を辞めたのです」
半分ぐらいは本当のことを混ぜながら説明をすると、マーガレットはとても満足そうに、ムフーっとした笑顔で頷いた。
「ようやくわかってくれたようで、あたしは嬉しいよ、お姉様! やっぱりあたしが魔法も可愛さも世界一だもの!」
いや、さすがにそれは誇張しすぎだと思う。これで否定でもしたら面倒だから、何も言わないけど。
「だから、することも無いから小屋でゴロゴロしようかと。マーガレットも一緒にゴロゴロしますか?」
「冗談じゃないよ! こんな汚らしいところでなんか、寝たくないし! とにかく、良い話も聞けたし、今日は失礼するから!」
ふう、無事にマーガレットを撃退することに成功したわ。このまま見つからないうちに、ルーク様のところに行こう!
****
「ルーク様?」
「…………」
無事にルーク様のところについたのは良いのだが、なにやら元気がない。いや、正確に言うと、何か深く考えているような感じがする。
「悩み事があるなら、何でも聞きますよ?」
「ははっ、ありがとう。それじゃあ聞いてくれるかい?」
「はい、もちろん」
「実はね、そろそろ結婚相手を見つけろと、父に急かされてしまっていてね。遅くても、二十歳になる前には見つけろと……そうじゃなければ、こっちで相手を見つけると」
いつが誕生日かによるけど、それまでにお嫁さんになる人を探さないといけないのね。大変そうだ……。
「それで、君がよければ婚約者になってほしい」
「なるほど、私が……は、はいぃぃぃぃ!?」
「もちろん、これにはちゃんと理由がある! 結婚をすれば、少なくとも君を悪く言う輩は減るだろうし、城で住めるようになれば、家族にいじめられなくて済む! 生活の環境も良くなる! 僕としても、一緒に過ごせば杖の貸し借りもしやすいし、練習を見ても違和感がなくなる!だから、互いにメリットがあると思うんだ!」
仰りたいことはわかる。行き来している間に見つかってしまうリスクも、さっき感じたし……家に帰らないで済むなら、その方が良い。
あと、これはあまりにも腹黒い考えだから、口には出して言えないが……王族の婚約者となれば、お父様とマーガレットを悔しがらせることが出来るかもしれないし、なによりも……。
「私も……あなたの立派な目標を叶えるために支えたいですし……その、ルーク様と結婚自体も……嫌じゃありませんし……」
「シャーロット、それって……」
「えっ……あ、あぁぁぁぁぁぁ!!」
な、なな、なんて恥ずかしいことを!? だめだ、もうお嫁には行けない! ルーク様のお嫁さんなんて言語道断、即打ち首!!
「あ、えっと! そのっ! 本当に私でいいのですか? 私、全然魔法が使えないですし……!」
「ああ、君しかいない! 僕が見つけた麗しいパートナーさ! それに、僕は君に笑っていてほしい。泣いていたら慰めたい! そう思ったら、もう婚約者にする以外の選択肢がなかったんだよ」
あまりにもストレートな気持ちをぶつけられて、心臓が爆発しそうだ。視線が定まらないし、体も震えている。でも、それ以上に嬉しい。
「わ、私……笑ったりとか、感情を出すのは苦手ですわよ?」
「そんなの、これから徐々に慣らせばいいだけだろう? それに、僕といれば今までみたいに、感情を表に出すことを我慢しなくてもいいしね。ああ、それと……魔法とかは気にしなくていい。魔力を使わずに、精霊の力を使えるだけでも特別だからね。きっと父も認めてくれるよ」
「私のような人間を、認めてくださるでしょうか?」
「ああ、きっと。ほら、そんな暗い顔をしないで。君は笑顔が良く似合うのだから。ほら、こうやって笑うんだよ! あーっはっっはっはっはっはっ!!!!」
ルーク様は、大きく息を吸い込んでから、外にいても絶対に聞こえるくらいの大きな声で笑いだす。両手を腰にあて、大きな口を開けているのが、なんだか……面白い。
「ふふっ……はい、ありがとうございます。そこまではさすがに出来ませんが、努力しますわ」
言葉を詰まらせながらも、なんとか笑顔が出来た……気がする。もっと自然に出来るように、練習をしなくちゃ。
「シャーロット殿の笑顔は、本当に美しくて愛らしいね。そうやって感情を出すのは、とても大切なことだよ」
「ルーク様……」
「もう何も我慢する必要は無い。好きな時に笑って、泣いて、怒って、また笑って……そんな日々を一緒に過ごしたいと思っているよ」
そっと頬に触れながら言われた暖かい言葉を噛みしめるように、ルーク様のことをジッと見つめていたら……自然と、言葉と涙が溢れ始めた。
「……つらかった……」
「シャーロット殿?」
「ずっと、ずっと一人で……誰も一緒にいてくれなくて……ずっと気持ちを隠して、憎しみばかりを募らせて……誰にも話せなくて……一人で、実りもしない努力をずっと続けて……恨んでばっかりで、お母様に心配ばかりかけて……うぅ……ぐすっ……」
今まで一切吐かなかった弱音を支離滅裂にこぼしていたら、涙が頬を濡らした。しかし、その涙が地面に落ちる前に、ルーク様が拭ってくれた。
「ああ……つらかったね。大変だったね。ずっと一人で頑張っていたんだね。本当に……君は立派だよ。天国の母君も、そう思ってくれているよ」
「うぅ……ひっぐ……ぐすっ……」
泣いて良いと言われても、泣くことに慣れていない私は、声を押し殺して泣くことしか出来なかった。そんな私を、ルーク様は優しく抱きしめ、泣き止むまで頭を撫でてくれた。
――その後、どれだけ泣いたかわからない。なんとか涙が止まった私は、ルーク様から離れて頭を下げた。
「ありがとうございます、ルーク様。少し気持ちが楽になりました」
「それならよかった。さて、シャーロット殿が元気になったところで、そろそろ婚約の事を父上に知らせなくては。このまま君も連れていくのは簡単だが、少し演出を加えようか」
「演出?」
疑問に思った私に、ルーク様は耳打ちをして教えてくれた。確かにこれなら、自然にお城に行けるし、さっき私が考えていた復讐にもつなげられる。
そうと決まれば、早く家に帰らないと。でも、その前にルーク様に伝えることがある。
「ルーク様、こんな私ではございますが、よろしくお願いいたしますわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。必ず君を幸せにしてみせるよ」
まるで愛の告白みたいなやり取りに、また胸の奥が大きく高鳴る。
もしかして、これって恋心だったりするのだろうか? 私は恋をしたことがないから、明確にこれが恋なのか、わからないけど……いつか、本当にルーク様のことが好きになっても、全然おかしくはなさそうね。
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