第十三話 優しさへのお返し
ルーク様に杖を貸し出してから一時間が経った。あれからルーク様は、何かあった時に被害が出ないように、外に大きな魔法陣を展開し、そこに杖を空中に立たせるようにしながら、ずっと何かブツブツと言っている。
「これは、本当に凄い数値だな……どれだけ精霊の加護を受ければ、これほどのものになるんだ……いや、もはやこれは精霊そのものといってもいいような……?」
熱心に研究をするルーク様のことを、私は邪魔にならないところに座って、ジッと見つめる。
見ている感じでは、杖に何か悪いことをしているわけではなさそうだ。信頼しても良いと思える人なのはわかってたけど、改めて大丈夫だろうと思わせてくれた。
「せっかく私のお願いを聞いてくれたのだから、何かお礼ができればいいのだけど……」
『お礼! お礼! シャーロット、優しい!』
私のことが気にいったのか、ホウキの一体が私の膝の上で楽しそうに跳ねながら、たくさん褒めてくれた。
見た目はただの小さなホウキなのだけど、愛嬌があってとても可愛らしい。可能なら、一体分けてもらいたいくらいだわ。
「良い案は無いかしら……なにかルーク様のお好きなものはご存じないかしら?」
『ご主人、お茶、好き!』
お茶か……実家でよく淹れさせられるから、普通の人よりかはおいしく淹れられる自信はある。
「ここに茶葉はあるかしら?」
『ある! こっち!』
ホウキの後をついて小屋の中に戻り、奥の部屋に向かうと、そこには小さいけど綺麗に整頓されているキッチンがあった。
小屋に入ってすぐに部屋だけで、明らかに小屋よりも広いと思っていたけど、キッチンも入れると更に広くなる。やはり、この空間自体を魔法で作ったというのは、本当なのね。
『茶葉、これ!』
「あら、これは海外の有名な茶葉ですわね」
茶葉によって、適切な淹れ方があるのだけど、この茶葉は扱ったことがあるし、どうすればおいしく淹れられるか調べたこともあるから、問題は無さそうだ。
「でも、勝手に使って良いのかしら?」
『大丈夫! 後で、説明、する!』
「わかりました。それじゃあ、準備をするので少々お待ちください」
――その後、準備に少し手間取ってしまったが、無事においしいお茶が出来た。これを飲めば、少しはルーク様にお礼ができると思う。
さあ、外にいるルーク様を呼びに行かないと。
「ルーク様、少しよろしいでしょうか?」
「ふむ……いや、こっちは……うーん……」
「ルーク様?」
どうやら、研究に集中しすぎて、私の声が届いていないようだ。大声で呼んでもいいのだけど、驚かせてしまうのは申し訳ない。
「ルーク様」
「ん? シャーロット殿、どうかしたのかい?」
「お茶を淹れたので、一緒に休憩しませんか?」
気づいてもらえるように、顔を覗き込むようにしながら呼んだら、無事に反応してくれた。そんなルーク様は、私の言葉を聞いて、ぱあっと表情を明るくさせた。
「え、わざわざ僕のために用意してくれたのかい!? わぁ、嬉しいよ! ありがとう、シャーロット殿!」
「そんなによろこんでいただけるだなんて……」
「僕のことを考えて行動してくれたという事実が、何よりも嬉しくてさ。そうだ、ちょうど城から持ってきたおいしい菓子があってね。それと一緒にいただこうかな」
「それは良いですね。私はここでお待ちしてますので、何かご用があったらお声がけください」
「……え?」
「えっ?」
思ったことを普通に伝えただけなのに、なぜかルーク様は目を丸くしている。私、何か失礼なことを言ってしまったかしら……?
「君も一緒に食べるんだよ」
「私もですか? そんな、ルーク様のために用意させていただいたものですから。そのお気持ちだけで十分ですわ」
「遠慮しているなら、その必要は無いよ。僕は君とお茶を楽しみたいんだ」
誰かにお茶に誘われるだなんて、初めての経験だ。いつもなら、お茶の席に呼ばれても、何も出されずにただ見させられるだけだったり、給仕をさせられていたから。
「僕の誘い、受けてくれると嬉しいな」
「……はい、よろこんで」
そっと差し出された手に、私のボロボロの手を乗せると、そのまま優しく手を引っ張られて、小屋の中に連れて来られた。
「おお、良い香りが既に部屋を包み込んでいる! これは今から楽しみで仕方がないね! えーっと、確かあれはキッチンに……あったあった!」
一人でキッチンに向かい、おいしそうなクッキーを持ってきてくれた。私が用意したお茶は少し苦みが強いから、甘いクッキーとは相性がよさそうだ。
「ほら、こっちに座って」
「じ、自分で座れますから……」
「女性をエスコートするのは、男として当然のことだよ。ほら、おいで」
ルーク様はにこやかに笑いながら椅子を引き、私を座らせてくれた。
仰りたいことは理解できるが、ルーク様は一国の王子様だ。そんな人にエスコートをされるなんて、普通ではありえないことだ。
「……あの、どうして私に優しくしてくださるのですか?」
「ん? 急にどうしたんだい?」
「とても良くしてくれるのは嬉しいのですが、私達はほとんど交流がありませんでした。それに加えて、私は何の約束も無しにやってきました。だというのに、食事や入浴、服に魔法のやり方にエスコートにと、至れり尽くせりといっても過言ではありません」
いくらルーク様が優しいとか、杖の研究をさせてあげているとはいえ、限度というものがある。
だから、素直に聞いてみたら、ルーク様は一度お茶で喉を潤してから、答えてくれた。
「君が優しいから、かな」
「わ、私が優しい? ご冗談を……復讐を考えるような女ですのよ?」
「まあ、人によっては復讐をする人なんて! って思うかもしれないけど、君の復讐は母君を深く愛していたから、父君が許せなかったのだろう? それって、君が優しいからだと思ったのさ。そう思ったら、放っておけなくてね」
そ……そうなのかしら。そもそも優しい人なら、復讐なんて考えないと思うわ。
「それに、もっと酷い人なら、力を手に入れたら、徹底的に痛めつけたり、殺したりすると思うよ? その点、シャーロット殿のやり方は、優しいやり方じゃないかな」
「さすがに、そこまでしたいとは思いませんわ。そんなことをしたら、お父様達と同類になってしまいますし、きっとお母様が悲しんでしまいますもの」
「そういうところが優しいって言っているのさ」
……よくわからない。私は自分が優しい人間とは思っていないから、いくら説明されても、この自己評価は変わらないと思う。
「おしゃべりもいいけど、まずはお茶をいただこうかな。せっかく用意してくれたのに、冷めてしまったら台無しだ」
「そうですわね。すぐに注がせていただきますわ」
「いいからいいから。僕に任せて」
ルーク様は、やんわりと私を制止させながら、パチンっと指を鳴らす。すると、ティーポットがフワフワと宙に浮き、カップにお茶を注ぎ始めた。
「わあ、すごい……! これもオリジナル魔法ですか?」
「ああ。風属性の魔法を基盤に開発した、物を自由に動かす魔法だよ。まあ、大きいものだと魔力の消費量が凄まじいから、軽いものしか気軽に使えないのが難点だけどね」
僕もまだまだだねと言いたげに嘲笑するが、私からしたら既に凄すぎて、目を輝かせてしまうくらいだ。
「それじゃあ、いただきます……うん、おいしい! シャーロット殿は、お茶を淹れるのがとても上手なんだね!」
「喜んでいただけてなによりですわ。それじゃあ、私も……いただきます」
生まれて初めてのお茶を口にすると、口の中に程よい苦みとお花の香りが広がった。
お茶って、こんなにおいしい飲み物だったのね。ルーク様のおかげで、こんな素敵な体験ができるなんて、少し前の私なら絶対に信じなかっただろう。
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