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第2章:廃墟、それもまた廃墟…

どこへ行っても、廃墟は彼の忠実な相棒のように寄り添っていた。

他の人間がいないことは、もはや彼にとって大きな問題ではなかった。慣れてしまったのだ。

実際、もし彼が時折ひとり言を口にしなかったなら、周囲を包む絶え間ない静寂のせいで、声の出し方そのものを忘れていたかもしれない。


大通りを進む彼の視界に、内臓が飛び出した死体が映る。

そこは排水溝のような場所で、腹部が裂け、中身が露出しているが、ハゲタカの類いは近寄っていない。

痩せこけた体、黒ずんだ血管、引き裂かれた装備。

あまりにも小さなリュックを漁るのは時間の無駄だとわかっていても、彼は歩みを止めた。


血の混じった水が少量だけ入ったボトルと、9ミリの弾丸数発が、ほぼ空のリュックを占めている。

ただそれだけでも、彼のガイガーカウンターを警戒させるには十分だった。


「ここまで行くなんて、よほど飢えていたんだろうな…」


男はつぶやきながら、ラミ-チャージャー(lame-chargeur)という5発用の弾倉に4発だけ残された9ミリ弾を回収する。

空いた1発は、きっとこの死体の頭に撃ち込まれたのだろう。死に際に握りしめていた銃で、自ら命を絶ったのだ。

内臓が引きずられ、血の跡を描いているが、それが致命傷ではなく、彼自身が楽にしてやったのだ。


「少なくとも、自分が変異する前に終わらせられたわけだ。」


それ以上の興味は示さず、男は立ち去る。

時計をちらりと確認すると、太陽はすでに沈みかけていた。


「寝床を探さなきゃな…」


マスク越しにため息をつくと、視界がわずかに曇る。

周囲の建物はどれも不安定で、崩れかけているものが多いが、男はそこには向かわない。

大通りに面した場所は、どんなにボロボロでも敬遠するのが彼のやり方だ。

人影すらなくなった今、不要な警戒かもしれないが、彼は長い間そうやって生き延びてきた。


彼は細い路地をいくつも曲がり、まるで迷路のように入り組んだ場所を進む。

そして、他のビルに挟まれるようにして建つ、みすぼらしい小さな建物を見つける。窓は古びた板で塞がれ、ぱっと見で「興味をそそらない」としか思えない物件だ。

彼にとっては理想的だった。


案の定、扉は中から塞がれていて開かない。

男は遠慮なく金属製の扉を蹴破る。湿った木の板が不快な音を立て、砕け散った。


もしマスクを外していたら、むせ返るようなカビ臭さに襲われただろう。

男は扉を閉め、すぐにリュックから数缶の缶詰を紐で取り出し、ドアの裏に仕掛ける。

何かが動かせば音が鳴り、すぐにわかる仕組みだ。

さらに廊下の奥には、もう一つの仕掛けを用意する。拳銃を紐で固定し、誰かが引っかかれば弾が発射されるという原始的なトラップだ。命中率はほぼないが、大きな音で警戒を促せる。


「よし。」


男はリュックを背負い直し、近くの階段と左右にある2つの部屋をざっと見回す。

左側はリビング兼ダイニングらしく、ほこりをかぶった古いテーブルと、痛みの激しいソファがある。そこには住人と思しき遺体が倒れ込むように横たわっていた。苦しげな姿勢で息絶えたのだろう。

右側のキッチンは、空っぽの棚板が窓に打ち付けられ、やはり何もない。どうやら飢えて死んだようだ。


男はシンクに向かい、リュックから空のボトルを取り出す。

蛇口をひねると、2年間ほど放置された汚れた水が少しだけ滴り落ちる。それを集めても半分にも満たないが、男は十分だと判断した。


それからすぐにボトルをしまい、階段を上がる。

上の階には2部屋しかなく、片方は親の寝室らしき部屋で、小さなタンスと埃まみれのベッドがあるだけ。

もう一方は子ども部屋で、乱雑にされたベッドが2つ。いずれも埃だらけで、長いこと人が住んでいないのが一目でわかる。

バスルームは見当たらない。おそらくは木製の桶や壺で用を足していたのだろう。その水も腐って緑色の藻が浮いている。


この家は「興味をそそらない」というより、むしろ「役に立たない」といったほうが正しい。しかし男にとっては理想的だ。

2部屋をざっと見渡し、ほとんど暗くなってきたので3つめのドアを開ける。そこは掃除用具の収納スペースで、モップや体を洗うためのスポンジが雑然と置かれているだけ。

男はその中に入り、リュックを下ろして背後の壁にもたれ、ランプと古い本を取り出した。


表紙はすり切れ、タイトルも読めなくなっているが、中身は廃墟をさまよう2人の少女の物語らしい。

皮肉にも、今の彼と重なる部分が多いようでいて、決定的に違うのは、彼が「1人」であること。

しばらく読んでいるうちに、男はランプを消し、マスク越しの目を閉じる。

今日も食事も水分もほとんど摂らなかった。明日がどれほど過酷でも、それが彼の日常だ。


眠りに落ちる直前、ふと男は考える。

その本の影響なのか、急に「自分は孤独だ」と強く感じたのだ。


「検疫区域の外れまで行ってみようか…そこでは、すべてが終わっているかもしれない…」


かすかな期待と虚しさが入り混じる中、彼は完全に意識を手放した。

彼の果てしない放浪は、まだ続く。

この短い章を読んでくださり、ありがとうございます!

ほとんどの章はこれくらいの長さになりますが、例外的に一つだけ違う章があります。

一日一章のペースで投稿していく予定です。


今回の章を楽しんでいただけたなら嬉しいですし、今後の展開も気に入ってもらえれば幸いです。

もし誤字や翻訳ミス(特に「lame-chargeur」の訳し方など)を見つけたら、遠慮なく教えてくださいね。

それでは、皆さん、良い一日をお過ごしください。

この短いお知らせを読んでくださり、ありがとうございました!

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