表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド《ボンド》  作者: きたじまともみ
第一章 癒しの矢
7/65

7 ギルド入団試験

 ギルドの入団試験で連れてこられたのは、アイメルの樹海という場所だ。

 木々に遮られ、光が差さず薄暗い。絨毯のように苔が敷き詰められている。


 試験を受けるのは十人ほど。

 目の前に立つのは二十代半ばくらいの、容姿が整った男。腰まである銀の髪を一つに束ねていた。


 俺の隣に立っている女の子なんか、目にハートを浮かべている。

 その後ろに十人程の男女が控えていた。その中にチアを見つける。


「ボンドに入団希望してくれて嬉しく思う。私は今回の試験を担当するルーカス。試験の内容は、この樹海で発見された遺跡周りの魔物を倒すこと。魔物が多くて、学者たちが調査に入れないとギルドに依頼があった」


 どんな魔物かは分からないが、多く倒して受かってやる。拳を握って気合いを入れた。


「ギルド員と二人一組で動いてもらう。全員Aランクだから、腕は保証する。近接攻撃のものには、遠距離攻撃ができるものを。遠距離攻撃のものには、近距離攻撃ができるものをつける」


 ということは、俺はチアとは絶対に一緒にならないということか。知っている相手の方がやりやすいと思ったが、仕方がない。


「自分より、仲間を優先するものしかうちにはいらない。信頼し合える関係を築ける仲間は歓迎する。ギルド員には通信機を持たせているから、何かあったらすぐに連絡をしてほしい」


 ギルド員と組んでお互いを守れということか。

 くじを引いて同じ数字同士で組む。


「初めまして、リオと申します。よろしくお願いします」


 俺の相方は、二刀流の小柄な少年剣士。吸い込まれそうなほど綺麗な、薄緑色の瞳が目を引く。

 リオは人懐っこそうな顔で笑った。


「カイです。よろしくお願いします」


 年下だろうが、Aランクのギルド員。普段のように話すわけにはいかない。


「カイさんですね。敬語じゃなくていいですよ。これから一緒に行動するんです。仲良くしてください」

「ああ、分かった。リオも普通でいいよ」

「僕はこれが普通です」


 リオは敬語で話すようだが、許可が降りたから俺は砕けた言葉で話すことにする。


「リオはいくつだ? すごく若いのにAランクってすごいよな」

「ありがとうございます。僕は十五歳です。いつももう少し下に見られてしまいますが」


 俺も十三歳くらいかと思っていた。十五歳ということは、マナと同じ年齢か。


 リオと並んで遺跡を目指して進む。

 あちこちから魔物の鳴き声が聞こえてきて、周囲を警戒する。


 目の前に飛び出してきた魔物に向けて弓を引くより速く、魔物はつんざくような呻き声を上げて倒れ込んだ。リオは剣に付着した血液を布で拭って、鞘に収める。


「すごいな。あんなに速く六回も斬ったのか」


 リオは目を瞬かせた。なにかおかしなことを言っただろうか。


「すごいですね。見えたんですか」

「ああ、俺は狩りをして生活していたんだけど、一緒に狩りをしていたやつが剣士なんだ。リオの方が速いけど、見慣れているから目では追える」


 同じことをやれと言われたら無理だけど。


「僕は力がないから手数で攻めるしかないんです。今だって六回斬らなければ倒せませんでした」

「Aランクはみんなこんなに強いのか?」

「そうですね。みなさん強いですよ」


 俺が矢を放つ前にリオは倒してしまった。こんなやつがたくさんいるのか。


「そういえば俺の試験なのに、リオが倒していいのか?」

「ルーカスさんには『手を抜くな』と言われていますから。元々はギルドの依頼を試験にしているので、僕たちも戦いますよ」

「ちなみにこの依頼のランクは?」

「Bランクですね」


 ここの魔物を倒せる腕なら、Bランクのギルド員くらいの腕があるということだろう。リオに倒される前に、俺も仕留めなければ! 何もできずに試験が終わってしまうことは避けたい。


 進むに連れて魔物の数が多くなっている気がする。リオが斬っている魔物とは別の魔物を射る。急所を確実に狙って、一撃で倒さなければ。

 リオが目の前の魔物に集中できるよう、リオの死角になっている魔物を優先的に矢で貫いた。

 襲ってきた魔物を全て倒し、ふぅと息を吐き出す。


「カイさんとはすごく戦いやすいです」

「ありがとう。俺はリオについていくのに必死だよ」

「カイさんができる人だから、任せてしまっています」


 リオの言葉で救われる。俺は足手纏いにはなっていない、と。


「少し休憩しませんか?」


 リオについて行くと、小さな川が流れていた。


「この樹海に入ったことあるの?」

「何度かあります。素材採取や魔物討伐で」

「この水って飲めるのか?」

「飲んだことがないので分かりません。水が支給されているから、そちらを飲んでください。なくなったらお腹を壊す覚悟で飲みましょう」


 リオは川で剣に付いた汚れを丁寧に落としている。その間に俺は残りの矢を数える。使えるものは回収したが、矢を節約するためには、一撃で仕留めなければならない。矢がなくなったら俺は戦えなくなる。弓以外の戦い方も、考えた方がいいのだろうか。


「なあ、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんでしょうか? まだカイさんはギルド員ではないので、ボンドのことは話せないこともありますが」

「ボンドのことじゃなくて、魔術について知りたい」

「魔術ですか。僕は全く使えないので、分かる範囲でしか答えられませんがいいでしょうか?」

「ああ。全く使えないって、どうして分かるんだ?」

「魔術は生まれ持った素質なので、僕にはそれがなかったってことです」

「どうやったら素質があるか分かるんだ?」

「手のひらに葉を乗せてください。葉に力を送り込むよう集中してください。何らかの変化があれば、素質ありです」


 やってみると葉の周りが焦げて目を見張る。リオも目をまん丸にしていた。


「カイさんには炎の魔術の素質がありますね」

「マジ? 今まで使えたことないけど」

「それは使い方を知らないからですよ」


 自分に魔術が使えるなんて夢にも思っていなかった。炎は便利だよな。野営で火起こしもしなくていいだろうし。

 炎を纏った矢を打つこともできるかも知れない。可能性に心が躍る。


「じゃあ俺も使い魔を持てるのか?」

「使い魔はどうでしょう? ボンドでも使い魔がいる魔術師は数人です。高度な術らしいので、魔術の素質があるから持てるというわけでもないようです」

「そうか……」


 高度な術なのか。そうだよな。ルルなんてチアの描いた絵なのに、自我があるし大きさも自在だ。


「そろそろ進みますか?」

「ああ、そうだな」


 少し進むと「ちょっと待ってください」とリオが言うから足を止めた。通信機が震えている。リオがそれを耳に当てた。


 俺は辺りの警戒を怠らない。リオが無防備な状態なのだから、俺が気付いて倒さなければ。

 何度か相槌を打って、リオが通信機をしまった。


「カイさん、試験は中止になりました」

「は? 何で?」


 試験を中止にされたら、次まで待たなきゃいけないのか?


「遺跡の近くに、大型のドラゴンが現れたそうです」

「ドラゴン?」


 近くにある木に二人で登って「あれがドラゴンです」とリオが指す。

 炎を纏ったドラゴンが木の上から顔を覗かせていた。

 赤く輝き、ギョロリとした目をゆっくり動かして、獲物を探しているのかもしれない。ものすごく大きなドラゴンだということが分かる。


 俺とリオが着地すると同時に、大地を震わせるような咆哮が轟いた。木々が揺れ、辺りの魔物が息を潜めて気配を消す。


 ドラゴンなんて、空想上の生き物だと思っていた。

 全身から冷や汗が吹き出し、突き刺さるようなプレッシャーに身体の震えが止まらない。

 ルルに踏まれた時以上の恐怖を感じた。足がすくんでいるのに、今すぐに逃げ出したい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ