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ギルド《ボンド》  作者: きたじまともみ
第二章 無償の愛
54/65

54 誘拐

 翌朝は日の出と共に起きる。

 畑で野菜を収穫してシャワーを浴び、朝食を食べ終えると家を出た。マイルズの家へシーナを迎えに行くために。


 足早に向かっていると、村人たちが慌ただしく北の出入り口方面に走っていくのが見えた。

 気になって追いかけると、傷だらけになった男が倒れている。養蜂家のヒューさんだ。


 うつ伏せになって、背中には矢が刺さっている。矢には紙も刺さっており、ヒューさんの背中で紙がパタパタと音を立ててたなびいていた。


『娘を返して欲しければ、金品を持って日暮までに北の岩山に来い。来なければ娘を売っぱらって金にする』


 乱雑に書かれた文字に奥歯を噛み締めた。

 医者が駆け寄ってきて「脈が弱くこのままでは危ない」と告げれば、全員が顔を青ざめて息を飲む。


「シーナを連れてくる。シーナは治癒術師だから」


 俺はマイルズの家に全速力で駆ける。

 途中でルルが一目散にこちらに走ってきて、マイルズとチアとシーナがルルを追いかけていた。


「どうした? そんなに慌てて」


 マイルズたちにもなにかあったのだろうか。


「わかんない。ルルがシーナに向かっていっぱい鳴き声を上げて家を出て行ったの。私たちはそれを追いかけてきただけで」


 チアが首を振る。ルルは怪我人がいることをシーナに知らせようとしていたのかもしれない。


「カイこそなにかあったのか?」


 マイルズに聞かれて頷く。


「怪我人がいる。助けて欲しい」


 シーナに頼めば「私が絶対に助ける」と力強い返事をした。

 走って戻り、すぐにシーナがヒューさんの傍に膝をつく。背中の紙を見て、顔を悲痛に歪めた。


「すみません、少し痛いと思いますが、絶対に助けます」


 シーナはヒューさんの耳元で語りかけ、俺に視線を向ける。


「カイくん、矢を抜いて。抜くと同時に治癒術をかけるから」

「わかった」


 背中の矢を掴み、シーナに目を向ける。シーナはヒューさんに手をかざし、いつでもいける、と頷いた。


「抜くからな。頼んだ」


 矢を一気に真上へ引き抜いた。ヒューさんは呻き声を上げ、シーナの治癒術が温かい光でヒューさんを包む。

 傷は塞がり、意識を取り戻して全員がホッと息を吐いた。


「なぁ、コレなに?」


 俺が紙を見せると、ヒューさんは虚な目でそれを捉え、大きく息を呑んで唇を震わせた。


「そうだ、娘を助けに行かないと」


 フラフラとしながら立ち上がり、俺は腕を伸ばして支える。


「無茶しないでください。傷は塞ぎましたが、まだ安静にしていてください」


 治癒術は怪我を治せるが、失った血液などは戻らない。


「なにがあったか教えて欲しい」


 ヒューさんをその場に座らせる。


「娘のイリスに『お姉ちゃんたちにお礼がしたいから、お花を摘みにいこう』と誘われて、北にある花畑に行ったんだ」


 俺とシーナが今日行こうとしていた場所だ。


「お礼ですか?」


 チアが眉を顰めて首を傾ける。

 イリスに会ったことがないから、不可解な面持ちを見せた。


「以前カイとマイルズがいろいろ送ってくれただろ? その時に娘に遊び道具も送ってくれた。それを選んだ子たちだと知って、お礼をしたいと」


 イリスは村にいる唯一の子どもだ。七歳の女の子が好きそうなものをシーナとチアとマナに聞いて送った。

 ヒューさんは下唇を噛んで、耐えるように話を続ける。


「イリスと花を摘んでいると多くの野盗に囲まれた。俺は戦ったけれどすぐにやられて、気付いたらここにいた。早くイリスを助けに行かないと。怖い思いをしている」


 ヒューさんはまた立ちあがろうとするから、俺は肩を押さえて座らせる。


「みんなで助けに行くぞ」

「ああ、絶対に許さない」


 周りの村人たちの士気が上がるが、野盗と戦えばみんなだってタダでは済まない。


「私が助けに行ってきます。みなさんはここでイリスちゃんを待っていてください」


 チアの鋭い目に鳥肌が立った。纏う空気が重苦しい。

 ルーラと殴り合った時とは違い、静かに憤る。


「一人でなんて無理だよ」

「こんなに可愛い子が戦えるのか?」


 村人たちがざわつく。


「チアは俺たちの所属するギルドの四人しかいないSランクなんだ。みんながいると、チアが力を発揮できない」


 チアは火力と範囲で一掃する、超攻撃型の魔術師だ。村人がいれば、巻き込まないように範囲を絞って魔術を放つことになる。


「ちなみにカイとマイルズのランクは?」

「俺たちはB」


 マイルズが答えると、ざわめきが大きくなった。


「まずはどうやってイリスちゃんを野盗から引き剥がすか……」


 イリスが野盗の近くにいては、チアの魔術は使えない。人数が多いなら俺が遠くから射撃しても、数人倒すうちにイリスがやられる。

 考えあぐねいていると、シーナが覚悟を決めたように頷いた。


「私が代わりになる。イリスちゃんと私を人質交換すればいい。私は治癒術が使えるって言えば、高めに売れるって思うはず」

「いや、あぶねーって!」


 俺が止めるけれど、シーナは首を振る。


「私ならチアの魔術に巻き込まれない。私のことは、チアが助けてくれるでしょ」


 シーナはチアの手をギュッと握る。「顔が怖いよ」とシーナが苦笑すれば、チアの肩から力が抜けた。


「チア、私を助けて」

「もう! そんなこと言われたら、止められないじゃん。絶対にイリスちゃんもシーナも助ける」


 チアが力強くシーナの手を握り返した。


「俺とカイも行くから」

「野盗は全員捕まえます。この村に収容所みたいなものはありますか?」

「ここにはない。バルディアの警備隊に頼むしかない」


 村長の家にある通信機で、バルディアの警備隊を呼んでくれることになった。


「すぐに出発しよう」


 イリスを一刻でも早く助けたい。七歳の女の子が一人で野盗に囲まれているんだ。怖いに決まっている。

 ルルがマイルズに飛びつき抱えられると、身体が宙に浮いた。


「ルルはイリスちゃんを助けたら、イリスちゃんを乗せてすぐにこの村に引き返して」


 チアの指示にルルは「ニャ」と胸を張って凛々しく返事をした。

 空を飛び、北の岩山に向かう。


「こんなにのどかな村の近くに野盗がいるなんて…」


 シーナが不安気に眉を寄せる。


「俺たちが住んでいた時には、そんな奴らいなかった」

「最近どこかから移ってきたんだろうな」

「ライハルの人たちが安心して暮らせるように、一人残らず捕える!」


 チアは拳を握って意気込んだ。

 花畑を素通りして、十分ほど飛ぶと岩山が見えた。

 麓の川縁で多くの人影を見つけて、チアに地面へ下ろされる。


「ここからは歩いて行こう。イリスちゃんを助ける前に、魔術が使えるってバレたくない」


 清らかで緩やかな流れの川は、水源として理想的で、野盗たちはここに目をつけたのかもしれない。

 近付くとだんだんはっきりしてくる。二十人はいそうだ。ヒューさん一人では、どうにもならなかっただろう。


 イリスはどこにいる? 目を凝らすと、野盗たちの後ろで膝を抱えて小さくなっているイリスを見つけた。膝に顔を埋めていて表情はわからない。

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