50 チアの告白
着いたのは寮だ。
「どうしよう。緊張してきた」
「大丈夫! 頑張って」
胸を押さえて不安気に眉を下げるチアを、シーナはギュッと抱きしめて励ます。
「どうする? マイルズを呼んでくるか? それとも部屋に行く?」
俺が聞くがチアからは返事はなく、代わりにルルが飛び跳ねながら鳴き声を上げる。
寮の扉が開き、マイルズが出てきた。
ルルはマイルズに飛びつく。驚きながらもマイルズはキャッチした。
ルルはマイルズが外出することを教えようとしていたのかもしれない。
「どっか行くのか?」
「食料品屋に行こうと思って。みんなはなんでここに?」
マイルズは目を瞬かせる。
「チア、頑張って」
シーナが離れようとするが、チアはシーナの手をキツく握って離さない。
「ここにいて」
シーナはおずおずと頷いた。
チアが深呼吸をしてマイルズを見据える。
「チアちゃんどうかしたの?」
「私ね、Sランク昇格試験を受けないかって言われているの」
「すごいよ! おめでとう」
マイルズが顔を輝かせて手を叩き、チアは照れくさそうに視線を逸らした。
「まだ受かってないよ」
「チアちゃんなら絶対に受かるよ! ご馳走作ってお祝いしよう。チアちゃんはなにが好き?」
「マイルズくんの作る料理は全部美味しくて好きだよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。チアちゃんは美味しそうにいっぱい食べてくれるから、作り甲斐がある」
「料理だけじゃないよ。マイルズくんのことが好き」
マイルズは目を見開いて固まる。
俺とシーナもチアの言葉に目を見張った。
さっきまで臆病になっていたのに、マイルズがチアを応援したからか、チアはいつもの様子を取り戻してはっきりと口にした。
「私はマイルズくんが好き」
チアはもう一度告げた。
マイルズは真っ赤になって視線を忙しなく彷徨わせる。
すぐに奥歯を噛み締めて、チアを見つめた。
「俺もチアちゃんが好きだよ」
チアはとびっきりの笑顔を見せて、シーナの手を離す。
シーナは穏やかな笑みを浮かべた。
チアがマイルズに抱きつく。マイルズはルルを抱えているが、片手をチアの背に回した。
シーナが「よかった」と瞳を潤ませている。
「ちょっとバージル! チアに彼氏ができた」
大きな声に驚いて後ろに目を向ければ、仲睦まじく腕を組んでいるバージルさんとヴィクトリアさんがいた。興奮したヴィクトリアさんがバージルさんの腕をなん度も叩いている。
チアとマイルズが少し距離をとった。
「マイルズはルルにも懐かれているみたいだし、チアの特別な男の子ってことよね」
チアの特別な男の子?
「なにそれ?」
チアも首を傾ける。
「ルルが男性に懐くことはなかったでしょ? それはチアの特別じゃないからよ」
「でも、ルルは初めて会った時からマイルズくんに懐いてたよ。ご飯が美味しいからだと思ってた」
「ルルは主人に似て食いしん坊だから、それもあるかもしれないわね。でも、最初からわかっていたのだと思うわ。チアの特別な子だって。チアはバージルやルーカスだって好きでしょ? でもルルは懐かなかった。ルルの一番はチアなのよ。だからチアの特別な子はルルにとっても特別なの」
ルルはマイルズに擦り寄って、可愛らしく鳴いた。
マイルズは面映い表情を浮かべ、チアはルルの顎をくすぐる。
バージルさんが二人の前に立った。二メートルほどあるバージルさんの近くだと、一八〇センチを超えるマイルズでも小さく見える。
バージルさんの表情は険しい。
俺とシーナはハラハラと見守る。
バージルさんはチアを娘のように思っている。一波乱あるんじゃないかと気が気じゃ無い。
「マイルズ」
「はい!」
低い声で呼ばれ、マイルズは背を正した。
「……チアをよろしく頼む」
「はい、もちろんです」
マイルズは笑顔を向けて、力一杯応えた。
「あら、娘離れできていないと思ったのに」
「チアの幸せが俺の幸せだ」
からかうような口調のヴィクトリアさんに、バージルさんは言い切った。強がっているようにも見える。
「バージルさん、私はSランク昇格試験を受けます」
「そうか、いつでもいいから俺のところに来い」
バージルさんが口元を緩める。
ヴィクトリアさんと腕を組んで、ギルドハウス方面に向かっていった。
「すげー緊張した」
マイルズが大きく息を吐き出して胸をさする。
「チア、よかったね」
「うん、ありがとう」
シーナとチアは手を握り合って微笑む。
「シーナと話してたんだけど、里帰りしないか? シーナは一緒に来てくれるって」
「チアちゃん、なにもない村だけど、一緒に来てくれる?」
「もちろん」
チアは柔らかい笑顔を見せた。
「でも先に試験を受けてもいい?」
「うん、応援してるから」
シーナに手を引かれる。
そっとその場から離れた。
「二人っきりにさせよう。チアとマイルズくんがくっついてよかった」
「そうだな。俺もシーナと二人っきりになりたいんだけど、デートしてくれる?」
「デートしたい!」
「でも、疲れたらちゃんと言ってよ」
「わかってるよ。無理は絶対にしない」
シーナとレストランでランチをして、広場のベンチに座ってのんびりと過ごす。
隣にシーナがいる。幸せってこういうことなんだろうな、と噛み締めた。




