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ギルド《ボンド》  作者: きたじまともみ
第二章 無償の愛
49/65

49 乙女心

 深い眠りにつき、起きたのは昼を過ぎた頃だった。

 急いで身支度を整えて道具屋へ向かう。


「いらっしゃいませ」


 扉を開くとマナが笑顔で迎えてくれた。


「カイさんこんにちは。お姉ちゃんはリビングにいますよ」

「よかった、目が覚めたんだな」

「はい、今は昼食の片付けをしています」


 リビングの扉を開くと、シーナが奥のキッチンで食器を洗っていた。


「カイくん昨日はありがとう。私のことを家まで運んでくれたってマナに聞いた」

「それは気にしなくていい。俺が洗うから、シーナは休んでいろよ」

「もう元気だよ。じゃあ手伝って」


 シーナの隣に立つと、洗った食器を渡される。俺はそれを拭いて片付けた。

 全てを洗い終わると、紅茶を淹れてくれる。


「カイくんはお昼ご飯食べた?」

「まだ。起きたばっかりだし」

「ちょっと待ってて。簡単なものならすぐに作れるから」

「作ってくれるのは嬉しいんだけど、無理してないか?」

「してないよ。いっぱい寝たから元気」


 シーナは野菜をたっぷり使ったオムレツとバゲットとトマトスープをテーブルに並べた。


「スープはお昼の残りでごめんね」

「いや、シーナの作った料理は美味いからすげー嬉しいよ」


 手を合わせてから食べ始めると、シーナは正面に座って優しく微笑む。


「どうした?」


 食べているところをジッと見られて落ち着かない。


「カイくんが私の作った料理を食べてくれるの、幸せだなって」

「食べさせてもらってる俺の方が幸せだろ」

「そうかな?」

「そうだよ」


 全て平らげて、片付けは自分でやった。

 シーナの前に座って紅茶を一口含む。


「昨日のことを教えてもらっていい? 私が倒れてからどうなったの?」


 自分が見てきたことしか話せないが、細かくシーナに説明した。


「チアとマイルズくんが上手くいくといいね」


 シーナが満面の笑みを見せる。

 俺は同意するように頷いた。

 マイルズとチアに関しては、全く心配していない。

 二人がくっついたら、里帰りをするのもいいな。


 忘却のブレスレットを付けられたマイルズが提案したことを思い出した。

 ライハルにいる両親と祖父母にシーナを紹介したい。


「なぁ、里帰りする時、一緒に来てくれないか? なんもない田舎で悪いんだけど」

「行きたい! カイくんの生まれ育った場所なんでしょ。すっごく楽しみ」

「シーナのことを手紙に書いたら、会いたいって書いてあったから、俺の家族にすげー構われるかもしれないけど」

「そっか、カイくんのご家族にも会うんだね。緊張する」


 シーナは胸を押さえてはにかんだ。

 可愛すぎてニヤける顔を隠すように口元を手で覆った。





 次の日は朝から道具屋に向かった。

 マナとアレンが「いらっしゃいませ」と迎えてくれる。


「なんでアレンが働いてんの?」

「しばらくゆっくりしようと思って。俺がここで働けばマナちゃんとずっと一緒にいられるし、シーナは休ませられるしいいことしかないじゃん」


 扉が開き、暗い表情のチアが入ってきた。

 抱っこされているルルは、チアを元気付けようとしているのか、チアの手の甲を舐めている。


「シーナは?」

「お姉ちゃんはお部屋にいるよ」


 マナがチアを心配そうに見つめる。


「上がらせてもらうね。……カイくんも来て」


 なにかあったのだろうか。深刻そうな声に「わかった」と頷いて、道具屋の奥にある階段から二階に上がる。

 シーナの部屋の前に立ち、チアがノックした。


「シーナ、開けてもいい? カイくんもいるんだけど」


 すぐに扉が開き、シーナが部屋に迎え入れてくれる。

 チアの顔を見て、シーナは眉を下げた。

 シーナとチアはベッドに腰掛け、俺はベッドの近くに椅子を移動させて座る。


「なにかあったの?」


 シーナがチアの両手を握る。


「バージルさんにSランク昇格試験を受けないかって言われた」

「え? すごいよ!」


 シーナが顔を輝かせるが、チアの顔は曇ったまま。

 ボンドにはバージルさん、ヴィクトリアさん、ルーカスさんの三人しかSランクはいない。チアが四人目になるかもしれない。

 実力を認められたと喜ぶはずが、なんでチアは沈んでいるんだろう。


「Sランクになりたくねーのか?」


 チアは首を振る。


「そういうわけじゃないけど……」


 歯切れの悪い返事に首を捻る。


「もしかして、Sランクになることへのプレッシャーを感じてる?」

「それはない」


 シーナの問いに、チアはすぐさま否定した。


「じゃあどうして」


 チアは決まりが悪そうに口を開く。


「私がSランクになって、マイルズくんがどう思うかなって……」

「喜ぶと思うけど?」


 ご馳走を作って祝うマイルズが想像できた。


「チア、マイルズくんは大丈夫だよ!」


 シーナが力強く言い切る。

 そういえば、チアは何人かとデートをしたことがあるが、自分より強いとわかるとダメになると言っていた。


「マイルズはチアが強いことを知ってるって」

「そうかもしれないけど……」

「ルーラと殴り合ったところを見られても態度は変わらなかったろ?」


 チアは顔を両手で覆った。


「そうだった。あんな恥ずかしい姿を見られちゃったんだ」

「だから大丈夫だって! マイルズに試験を受けるって言ってみれば?」

「そうだよ! マイルズくんは応援してくれるよ」


 チアは両手を下げて、シーナの手を握る。


「わかった。言ってみる。でもちょっと心細いから近くにいて」

「もちろん!」


 シーナがチアの手を握り返す。

 チアは落ち着いていて、食い意地が張っているイメージだった。女と殴り合ったり弱気になったりと、マイルズのことで普段とは違う側面が見えた。

 マイルズはチアに好かれているんだな。


「よし! 今からマイルズくんに会いにいく。ルル、マイルズくんのところまで案内して」


 ルルは「ニャー」と可愛らしい声で返事をした。胸を張って、任せろ、とでも言っているようだ。

 シーナの部屋を出て、俺たちはルルの後を追う。

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