40 調査
バージルさんは大きく息を吐き出して、よく通る声で叫ぶ。
「その医者を捕らえて、薬を作っているヤツを聞き出した。『チュアロ』という街を納めているギルドが流しているらしい。医者も金のために加担したようだ。まずはルーカスにチュアロに行って調査してもらう」
ルーカスさんが頷き、バージルさんから話を引き継ぐ。
「チア、マイルズ、私とともに来て欲しい」
はっきりと「はい」と答えるチア。マイルズは戸惑っている。
ここにはAランクの精鋭たちが揃っているのに、なんでBランクのマイルズをルーカスさんは連れていくんだ?
周りも困惑している。
「まずは調査のために向かうから、無用な戦闘を避けるためにチュアロには武器を持って行かない。万が一戦闘になった時のことを考えて、武器を持たずに戦えるマイルズを連れていく」
マイルズは元々剣士だが、体術を習って才能を伸ばしている。
Aランクには武器を持たずに戦えるのは魔術師しかいない。だからここにマイルズが呼ばれたんだ。
「はい、精一杯頑張ります」
マイルズは背筋を伸ばして声を張る。
「みんなは手分けをして薬を回収して欲しい。コレが薬を渡したリストだ」
バージルさんが全員に紙を配る。最近来た医者と子供が言っていた割にはリストに載る名前が多い。
「医者に行くのは弱っているものたちだ。体調も確認してこい」
「少しでも体調が悪い人がいれば、医務室に連れてきなさい」
バージルさんとヴィクトリアさんの言葉に全員が「はい」と声を揃える。
「ルーカスたちからの連絡次第で、チュアロに向かうことになるかもしれない。依頼は受けてもいいが、しばらくは近場でできる仕事にして欲しい」
バージルさんの言葉で、緊張感が漂う。
「全員頼んだ」
バージルさんの号令で、いっせいに部屋から人が駆けていく。
「カイはシーナを送ってやれ」
「はい、わかりました」
座るシーナに手を向ける。シーナは手を重ねて立ち上がった。
「私は大丈夫だよ」
「うん、わかってる。でもせっかくバージルさんが言ってくれたし、俺がシーナと一緒にいたいから送らせてよ」
「えっ、あっ、うん。お願いするね」
頬を染めてあわあわするシーナが可愛すぎた。ガン見していたら、「んんっ」と咳払いが聞こえる。バージルさんだ。
隣のヴィクトリアさんが「シーナの彼氏なの?!」とバージルさんの腕を叩いていた。
「行こうか」
二人に頭を下げてシーナと手を繋いで出口へ向かう。
部屋を出るとルーカスさんとチアとマイルズとリオが、扉の前で話していた。
「リオに私の剣を預ける。リオが来る時に一緒に持ってきて欲しい」
「はい! お任せください」
ルーカスさんが差し出す剣を、リオは顔を輝かせて受け取った。ルーカスさんの役に立ちたくてボンドに入ったリオだから、大切な剣を任されて嬉しそうだ。
リオは頭を下げると、薬を回収するために駆けていった。
「マイルズはどうする? 俺が剣を預かって持っていくか?」
「いや、俺はいいよ。人間に剣を向けられないし。カイの部屋に置いておいて」
俺が聞けば、マイルズは首を振って眉尻を下げた。マイルズから剣を預かる。
「チア、気をつけてね」
「マイルズも頑張れよ」
シーナと俺が言えば、チアとマイルズが頷く。
「カイもすぐに出発できる準備はしといてくれ」
ルーカスさんたちからの連絡次第で、俺も戦うことになるんだ。
「わかりました」
俺は奥歯に力を込めて頷く。
俺とシーナはギルドハウスを出て、道具屋に向かった。
シーナを家に送り届けて、二人で紅茶を飲んで一息つく。
少しだけシーナと穏やかな時間を過ごして家を出た。
南にある広場を抜けて、街を出る。
戦闘に向けて訓練しようと思ったら先客がいた。
リオとアレンが剣を交えている。小柄なリオと長身のアレンではリーチの差がありすぎるせいか、リオが押されているように見えた。
二本の剣での素早い連撃がリオの持ち味だが、アレンの方が間合いが広いため、受け身に徹している。
アレンが剣を薙ぎ払うと、リオの剣は地面を滑っていった。
アレンは荒い息を整えながら、剣を鞘に収める。リオは剣をとりに走った。
アレンは俺に気付き、片手を上げる。
「カイも特訓か?」
「ああ、アレンってすげー強いんだな。リオを負かすなんて」
リオの腕は知っていたが、アレンが戦ったのを見たのは、街をゴーレムから守った時だけだった。俺も必死だったから、あまり記憶にない。
「僕はまだまだですよ。僕はカイさんがボンドに入る直前にAランクになったので、Aランクになったのは一番最後です」
「うーん、というより、リオとは戦いすぎてなんとなくわかるんだよな」
この二人、仲良いのか。
「僕がルーカスさんにテアペルジに連れてきてもらった時に、年の近い人と遊んだ方がいいと言われて、よくアレンさんたちに遊んでもらっていました。その時から棒で剣の真似事をして戦ったりしていたので、アレンさんには僕の動きが読まれているんですよね」
リオは眉尻を下げて笑う。
「アレンさん、もう一度お願いします」
リオが張り切るが、アレンは座り込んだ。
「ちょっと休憩させて。次はカイと戦えよ」
「俺、弓しか使えねーから無理だって」
俺は遠くの木目掛けて弓を引く。矢を放つと、空を切る音を奏でて狙い通りの場所に刺さった。
「アレンさん、お願いします。僕と戦ってください」
子供の頃からの仲だからか、リオもねだったりするんだな。アレンの服を掴んで揺すっている。
「しょうがないな」
アレンは苦笑しながら立ち上がった。
俺は二人が戦っているのを気にしながら、狙った場所に矢を撃ち続けた。




